<2004年12月号>


第5回 平成16年11月18日(木)

参加者 : 節子 聖子 光子 由紀子

高塔山、若松南海岸

 11月18日といえば、北九州では八幡製鉄所の「起業祭」の日。今は「まつり起業祭」といって、一企業主催のものではなくなり、日にちも変更されたけれど、この頃からいつも急に寒くなる。この日も朝方パラパラと小雨が降り寒い。予定の皿倉山を変更して、高塔山と若松南海岸を吟行地とする。折尾駅10時15分集合。

車で高塔山の頂上まで登る。若戸大橋の手前を左折し「白山神社」を横目に急坂をぐるぐると登っていく。山というほど高くなく、桜の名所でもあり、北九州市民であれば一度は行ったことがあるというほど市民に親しまれている。

   

桜の季節と「紫陽花祭り」のころは平日でも次々と車が登っていくが、今日は人がほとんどいない。頂上は公園になっており、お土産店が2−3軒並んでいるが、閑散として店番の人も見えない。すぐ横の展望台からは北九州を一望することができ、晴れた日には関門橋までよく見える。今日は晴れるでもなく雨がふるわけでもなく、冬霞というのだろうか、ひびき灘に広がる工業団地となっている埋立地も、10基の大型風力発電機もかすかに形がわかるほどだ。灘からの風が容赦なく吹き上げてくる。眼下には洞海湾の工場群が広がり、煙が幾筋も立ち上っている。見慣れた風景だが、海、山に恵まれた地形は美しい。こうして町を見渡していると、世の中の憂きことを忘れ無心になれる。人は時々「高き」に登ることが必要なのでは・・・・と思う。

以前戸畑に住んでいた節子さんは、子供さんとよくここに遊びに来ていたそうで、懐かしい様子。しばらく「あれが皿倉山、権現山、こっちが小倉・・・」と皆で石板の地図をみる。

工場の煙眼下に冬ざるる     光子

冬雲に洞海湾の鈍き色      節子


  
展望台の上がり口には、高塔山のシンボルともいえる「河童封じの地蔵尊」が奉られている。この地方に伝わる河童伝説由来の地蔵尊の背中には今も大きな船釘が打たれている。そのすぐ横手には大きな桜の並木道。春には花見客で賑わうが、今は静かに冬芽をつけ、その時をまっている。「万葉植物園」や「県木の森」などがその下にひろがる。

     

小鳥来る河童封じの地蔵尊      由紀子

絡みつくもの絡ませて枇杷の花    節子


体の冷えてきたところで、若松の市街地で昼食をとる。「赤提灯」という天婦羅や刺身のおいしいお店で、若松では名の知れた魚庵「千畳敷」の姉妹店。お客が二階席に上がる度に大太鼓が轟く。背広姿のサラリーマンが次々と入ってくる。

大太鼓鳴らす料理屋温め酒    由紀子

体力の回復したところで、次の吟行地若松南海岸へと歩いていく。

若松は明治維新以降日本の近代化に伴い、一寒村から筑豊の石炭を積み出す重要な港として大きく変貌した町。中央資本、地方資本の進出で隆盛を極めた当時の様子は、地元の芥川賞作家火野葦平の「花と龍」を読むとよくわかる。この小説は葦平の両親がモデルとなっており、若松港の石炭沖仲仕のリーダー(玉井組の親方)だった父親とそれを助けた母親マンを描いた痛快無類な自伝的長編である。是非一読をお勧めする。

若戸大橋の上り口を中心に広がる市街地は当時の面影を残しており、アーケードのある商店街は少し寂れた様子はするものの、庶民の生活の匂いがする。

冬来たりさびれゆく街静かなり  聖子

白猫の飛び出してきて石蕗の花  光子

数年前、明治大正期の貴重な建物を残しておこうという市民運動が起こり、今年8月海岸通りにある「旧古河鉱業若松ビル」の保存改修工事が完成する。渡船乗場からJR若松駅までの海岸通りに並ぶ「石炭会館」や「上野海運ビル」等はまだそのまま使われており、漆喰の木枠の窓や階段の造りなど当時のままである。また通りを挟んだ洞海湾側には石炭荷役の仲仕「ごんぞう」の詰め所である「ごんぞう小屋」が復元されており、錨型の柵や小奇麗なベンチも所々にならべられている。「門司レトロ」の規模ではないものの若戸大橋を借景に、明治大正の港町の雰囲気が漂っている。

      

枯葉舞う大正ロマンストリート   由紀子

冬の街広場のような交差点     節子

石炭で栄えし港初時雨       光子

冬凪ぎの艀微かに揺れており    聖子

「旧古河鉱業若松ビル」は9月から一般公開しているので中に入ってみる。大太りのおじさんが、受け付けに一人暇そうに座っている。煉瓦造2階建ての中は多目的ホールと大小の会議室になっており、いろいろな趣味の会に使われているらしい。内装は重厚で落ち着いた色調。二階のホールには丸いテーブルや椅子が並べられ、小さいキッチンも備えられている。
ビロードのカーテンとシャンデリア。大きな花瓶に薔薇の花が飾られていれば言うことないほど贅沢な気分にさせられる。
しばらく座って外を眺める。・・・・汽笛が鳴り窓いっぱいに大型のタンカーが横切る。・・・
ここで句会をするのもいいかもしれない。ちなみに一室の使用料金が午前中は180円、午後は350円と格安である。
受付のおじさんに挨拶して帰ろうとすると、どっさり若松観光案内のパンフレットを渡される。久々に人間に会ったようなうれしそうな顔をするので、すんなり帰るのも悪いような気がする。
 句会は海が見える海岸通りのサンリブの一階で行う。マックなどが入った広々とした椅子席の窓際を確保。先程のゆったりとしたレトロな気分は消え、なんとか5句出句する。

今回の高塔山・若松南海岸の吟行は、「句材が多かった」と好評なので、また訪れたいと思う。「葦平の町・若松」編を考えている。