<2005年10月号>


第15回吟行記 9月15日

参加者  聖子 節子 光子 由紀子

筥崎宮「放生会」(ほうじょうや)  

9月15日10時光子・由紀子を乗せた電車は新「箱崎駅」に着く。 改札口に節子さんが手を振って待っている。聖子さんはまだだと言う。

去年3月香椎駅よりに移転された高架の駅は、シンプルで広々としている。しばらくして聖子さんが現れる。早く来ていたらしいが、知り合いのクリーニング屋さんに顔をだしてきたという。揃ったところで筥崎宮へ。が構内の奥に「業務用スーパー」と書かれた店舗があるので,どういうスーパーなのか興味深々で入ってみる。野菜や果物の生鮮食品など普通のスーパーと変わらないようにあるが、価格が安い。つい2リットルのペットボトルを買ってしまいそうだ。38円の缶コーヒー1本購入。

旧「箱崎駅」は駅を降りれば、すぐ目の前に筥崎宮の裏門があったのだが、新駅からは5分ほど歩く。裏門の鳥居をくぐり、こんもりと薄暗い石畳の参道を歩くと急に神域に足を踏み入れた思いがする。38円コーヒーに喜んでいた我が背中がピンと伸びる。

  

今月の吟行は、博多の三大祭りのひとつ筥崎宮「放生会」。毎年9月12日ー18日に行われる。筥崎宮は宇佐神宮(大分県)・石清水八幡(京都)と並ぶ日本三大八幡のひとつで、「放生会」は千年以上続いている行事だ。「梨も柿も放生会」と博多っ子たちの生活に深く根ざし、秋の訪れを告げる。本殿の表側にまわると太鼓の音が響き、ちょうど「放生会大祭」が執り行われている。薄い御簾越しに二人の巫女が舞を奉納している。楼門より本殿に入り、より近くに神事を見学する。

御簾ごしの神事の舞や放生会      節子

巫女二人神楽舞台に放生会       光子

厳かに菊花捧げて巫女の舞う      聖子

笙や笛を吹く雅楽隊の後ろに氏子や大祭関係者たちが椅子に座っている。宮司たちが次々に参拝し神事が滞りなく行われている。この地で生まれ育った節子さんにとっては産土神である。神事が身近かに感じられる。本殿の回廊には生け花が並べられ、和紙のぼんぼり献灯が飾られている。
福岡の知名士約70人によって書かれているもので、県知事「麻生渡」の達筆な字で書かれた献灯。(何と書いていたか忘れたが)「再起」の若々しい二文字は福岡アビスパ。ひとつひとつ見ていくと面白い。

本殿を巡るぼんぼり放生会       節子

   

本殿のお札所横に、チャンポン・おはじきがガラスケースや額に飾られている。チャンポンの展示は今回初めてだそうだ。普通は巫女さんたちがひとつひとつ絵付けするのだが、福博ゆかりの方々(長谷川法世さんや王監督など)に絵付けをお願いしたというチャンポンや、チャンポン製作者小川勝男さんの作った珍しい形のチャンポン約40点が参拝の人々の目をひいている。おはじきは、毎年テーマにそって30種類が博多人形と同じ行程で作られているが、ここ何年かのおはじきがそれぞれ額に入っている。去年は「オリンピック」、今年は10月オープンの九州国立博物館にちなんで「古代のロマン」。これらは放生会名物で、初日12日8時からの販売に前日から並ぶという。

縁起物土のおはじき放生会       光子

ゆっくり見てから、恒例の「おみくじ」をひく。みくじの中の縁起物にはいろいろあるが、「吉」のみくじに「敵国降伏」の額がはいっている。この物騒な言葉の額は筥崎宮の楼門に掲げられている。蒙古来襲の折、亀山上皇が国難を救おうと祈り書かれたものを、桃山時代に拡大模写したらしい。説明書きには「自分にすぐれたる徳をそなえていれば、おのずと皆が従うであろう」という意味をしめしたものとある。「敵国降伏」だけだと、そこまでの深い思いはわからない。大事に財布に入れる。楼門を出ると、ご神木「筥松」(願掛けの松)があり御籤を結ぶ。横にまたお札所。ここの御籤は「当たり」付き。

    

宮の秋鳩笛当たるみくじかな      由紀子

楼門の大屋根秋の日の中に        節子

筥崎宮は歴史ある神社だけあって、現在の本殿、拝殿は大内義隆、楼門は小早川隆景によって建立され、黒田長政が一ノ鳥居を寄進、千利休が石灯籠を奉納したとある。それぞれ国指定重要文化財となっている。文化財以外にも、蒙古軍の船が使っていた「碇石」、触れると運が湧き出る「湧出石」などもある。迷わず「湧出石」に触れてみる。簡単に届かないようにしているのか、柵から身を乗り出さないと届かない。

境内からまっすぐお潮井浜にのびる長い参道には、露店がびっしり軒を連ねている。参道沿いの「参集殿」では「古本市」が開かれている。「俳句大会」も行われているようだ。投句締め切り時間が過ぎている。「残念!」と言いながら参道脇の小道にはいる。路地を曲がりながら食事処「梅嘉」に行く。私たちが席に着いた後から次々にお客が入り、あっという間に満席になる。安くて美味しいので人気があるのだろう。参道からどのくらい歩いただろう。5−10分くらいだろうか。節子さんの案内に町を迷うことなく歩くことができる。歩くことで町の様子がわかる。お父さんが通ったという小学校の校門のレンガ造りは町の歴史を感じさせる。古い家並みを残す路地には何本か石榴の木が植えられ、ふうせんかずらや萩の花が風に揺れている。

路地裏のふうせんかずら秋の風       光子

古町の路地にたわわのざくろの実    由紀子

昼食を済ませてまた参道へと戻る。700軒もの露店には、「射的」や「りんごあめ」「いか焼き」「バナナのチョコがけ」「東京ケーキ」など、昔懐かしいものから最近流行りのものまで国際色豊かに並んでいる。マイヤン(タイ)・タコス(メキシコ)・シシカバブ(トルコ)や佐世保バーガーといった具合だ。

シシカバブ並ぶ露店や放生会      聖子

いか焼の匂う参道放生会         節子

  参道横の広場にも露店や屋台が並びその奥に「お化け屋敷」がある。露店の灯りで秋祭りの雰囲気がいっそう引き立つ夜の放生会には「お化け屋敷」にも人が集まるだろう。覗いて見る。見覚えのあるお化けたちが元気なくいる。見世物小屋、金魚釣り、沢がに釣り。全部見て回れないほど並んでいる。
ここにも「チャンポン」や「おはじき」が売られているが、筥崎宮の数限定のものとは違うように見える。

   

秋祭りお化け屋敷の休む昼     由紀子

無造作にお化け置かれし秋祭     節子

金魚つり店番居眠り放生会       聖子

放生会夜店にカニや金魚つり     光子

もうひとつ放生会ならではのものに「新生姜」がある。茎がまっすぐにのび、緑の葉先がピンと尖った新生姜。新生姜のみを束ねて売っている露店があちこちに出ている。何故新生姜がこれほど売られているのか?何故「放生会名物 新生姜」なのか?調べてみると、昔筥崎宮周辺には生姜畑が多く放生会土産として売られ、買った人は「今年も放生会に行ってきましたよ。」と隣近所に配っていたという。放生会が来ると単衣の季節になる。年に一度の放生会詣りに博多の女たちは、競って晴れ着を新調する。「幕出し」のあった大正の末くらいまで、呉服屋の売り上げ6割が放生会着物(ぎもん)で占められたそうだ。「放生会ぎもんを買うてやりきらんとは男の恥」−こんな言葉があるくらいだ。そこで「今年も女房子供に着物を着せて放生会詣りして来ましたよ」ということになる。亭主の甲斐性と新生姜。

葉の繁り見事な生姜香りけり       聖子

新生姜束ね出店のあちこちに     由紀子

参道沿いにある「神苑花庭園」に入る。中にあるレストラン「迎賓館」にて句会。ケーキセットを注文して句を短冊に書いていく。運ばれてきたお皿には何種類かのデザートがのっている。期待以上のケーキセットに歓声を上げながらも、2時30分には昼の部はクローズというので、速書きで清記と選句をする。後は屋外のテーブルで句会を続行する。休み時間になったレストランの従業員の明らかに呆れ顔を、横目で楽しみながら披講、選評をする。「句会はどんな所でもできる」ことは、03年の湖北夏行で経験済みだ。吟行途中に、小学校の校門に掲げていた標語の中の「君が見えない」をいれた句を、10句以外に1句作ろうということになっていたので出してみると、3句はびっくりするほど同じ。違う句が光る。

人混みてきみが見えない放生会
人混みに君が見えない放生会
人波に君が見えない放生会
背合わせのきみが見えない秋の月

句会終了後「花庭園」内を回る。花の少ない時期だが、大きな瓢箪に驚かされ白い彼岸花(リコリス)が美しい。
秋の七草「萩」「桔梗」などの山野草も植えられている。一回りして庭園を後にする。空を見上げると秋らしいすじ雲が浮かび、その中を一直線に飛行機雲が走る。

先を行く人待ってをり大瓢          節子

音もなく葉裏を見せて萩は揺れ      聖子

矢印に従ふ白き曼珠沙華        由紀子

いつの間に雲はすじ雲秋めいて     光子

  

参道から本殿のある境内に戻る。特設舞台では演芸奉納が行われている。舞台の奥に絵馬殿があり、合戦絵図の大燈籠が四方に掲示されている。見事なものだが、演芸を奉納する人達の控え室兼更衣室のようになっているので、ざっと見て出る。

もう一度お札所に行き、始めに見た「おはじき」が気になり、迷いつつ額入りのものを光子さんと購入。(光子さんは迷わなかったかも)時間が経つにつれ「古代ロマン」のテーマも良いし、前日から並んで箱入りの「おはじき」を買う元気はないし、飾るとしたらやはり額入りだと納得する。並んで整理券の配布を待つほど人気のある「放生会おはじき」は、昭和54年に始まり、年毎のテーマ決めも平成5年からという新しい名物だという。お宮が氏子に配る以外の1000前後の限定個数のための人気もあるだろうが、ひとつひとつの図柄が微笑ましい。(お宮で額入りのものを特別頒価で配るようになったのは最近らしい。)

本殿に再度手を合わせ、駅へと向かう。路地を抜けて大通りへでると新箱崎駅が見える。新駅建設のために、辺りいったいは取り壊され広い通りになっている。
以前の古い小さな駅舎と渋滞解消から歓迎されている新駅だが、辺りがマンションばかりの町にならないことを望む。近くの九州大学の移転が順次進められ、箱崎の様子もこれからずいぶん変わってくるだろう。筥崎宮を中心としたこの懐かしい町の匂いは、いつまで残っているだろうか。

新しき駅秋風の吹き抜けて        節子

楽しい一日でした。ありがとう!!駅にて解散