<2005年4月号>


第9回 平成17年3月17日

 魚見公園・芦屋釜の里    

参加者: 聖子、節子、真理子、光子、由紀子

昨日の天気と打って変わって、今日は朝から雨が降る。去年の信州の夏行でご一緒した福岡の真理子さんが、参加してくださるとの連絡がはいり、響灘を望む若松北海岸の風景とグリーンパークの花を楽しんでもらおうと思ったが、この雨に急遽「魚見公園」と「芦屋釜の里」に変更する。

今回の「魚見公園」は通称「あしや句会」の原点ともいうべき、第1回の吟行地でもある。その時は、節子・光子・由紀子の三人で、三句出し、三句選句の、忘れがたい吟行句会となったが、そのなんとも言い難い面白さが、聖子さんの参加でパワーアップされ、会を続ける原動力になっている。
第1回の吟行日も、こんな雨だった。真理子さん参加の今回の雨も、きっと慈雨にちがいない。

折尾駅10時20分集合。渋滞のため折尾駅に来れなかった光子さんを前駅の陣原駅で車に乗せ、芦屋町の「魚見公園」へと向かう。

 

北九州の若松区に隣接した芦屋町は、遠賀川の河口に拓けた町である。筑豊を貫流して響灘に注ぐ遠賀川。往時炭鉱から運ばれる石炭を乗せた五平太船が七千艘も行き交ったいうが、今では菜の花やコスモスが河川敷いっぱいに咲き、家族連れや小舟で釣りを楽しんでいる人など憩いの場所となっている。その遠賀川の突端ともいえる芦屋漁港を見下ろす「魚見公園」には、国民宿舎「マリンテラスあしや」が建ち、展望台や遊歩道などが整備されている。昼食の時間まで公園を散策する。海に突き出した展望台への坂道を登る。雨風はさらに強まってきたが、途中広場になっている松の木々に囲まれた崖上より響灘を見渡す。

茫々と広がる海や春の雨      聖子

提越えて波打ちしらむ春嵐     真理子

漁港は人影も出入りの船もなく、河口に架かる「浪懸(なみかけ)大橋」にも走る車が見えない。町も港も海も雨に打ちけむり、湾をなす正面の小山の姿もぼんやりとしか見えない。この山は、古名を木綿間山(ゆうまやま)といい、万葉集に詠われている。

  

万葉の山を隠して春嵐       由紀子

空と海とけて白波春の海      節子

海なると思へば春の大河なり    光子

遠賀川流域は近代では石炭で賑わったが、肥沃な土地と大陸との交易の接点ということから、古代から栄えていたようだ。芦屋は「岡水門」「岡湊」(おかみなと)とよばれ、木綿間山のみならず万葉集に詠われている。「魚見公園」にはその歌碑が崖上に建っている。

天霧(あまぎ)らい日方(ひかた)吹くらし水茎の岡の水門に波立ちわたる    作者不詳
−空が曇って東南の風が吹くらしい。遠賀川の河口に波が一面に立っているー

歌碑の手前に野見山朱鳥(1970年没)の句碑が建っている。虚子にして「・・に茅舎を失ひ今は朱鳥を得た」といわしめた野見山朱鳥。すぐ近くの直方市に住んでいた朱鳥は何度もここを訪れたという。

鵜の湾を八重の冬濤打ちしらめ      <野見山朱鳥>

崖上から見下ろすと「打ちしらめ」と言う言葉を実感する。
今日の雨と風は弱まりもせず、聖子さん、節子さん、由紀子は、この先にある展望台に行くのをあきらめ「マリンテラスあしや」の建物に入り、床から全面張りのガラス越しに湾内の景色や今登ってきた崖(岬)を眺める。崖下に沿って遊歩道があり、岬をぐるりと周ることができる。こちらから眺めていると、傘を斜めにした真理子さん、光子さんがその遊歩道を返ってきている。展望台にも行き、遊歩道も回ろうとしたのだが、傘の骨も折れ強い雨風に押し返されという。吟行に対する真摯な姿に頭の下がる思い。(今日の風が例年になく遅い春一番だったと夕方のニュースで知る)

    

強東風の岬回れず戻り来し    真理子

岬山へ春一番と知らず行く    由紀子

窓辺の席で、春の嵐が湾内を煙らせているのを見ながら昼食。9品ほどある会席料理に満腹。

大窓に春の嵐の迫り来る      節子

鳶一羽低く飛びけり春嵐      光子

少し雨が収まったところで公園の急坂を下り、隣の「芦屋釜の里」に行く。平成七年にオープンした施設で、鎌倉時代、室町時代に茶の湯釜の名品として一世を風靡した芦屋釜の復興と研究、さらに茶の湯を通して文化の復興という目的で作られる。芦屋付近で採れる良質な砂鉄を原料にして、中国から戦乱を逃れてきた工人が伝えたと言われる高度の鋳造技術によって作られた「芦屋釜」は、大内氏の筑前守護代らによって京都へ土産物として持って行かれ、名声を博した。芸術性、技術力に対する評価は今なお高く、国の重要文化財に指定されている茶の湯釜9個のうち8個が芦屋釜というから驚く。茶釜作りは桃山時代に終ったらしいが、400年の歳月を超え、工房では平成八年よりから作品が作られ、現在も続いている。

  

石砂利の駐車場から石畳を歩き長屋門を抜けると、3000坪の日本庭園の中に、工房のほか芦屋釜資料館・大小の茶室・手軽にお抹茶をいただける立礼席が点在している。工房の入り口には「水琴窟」があり、耳を澄ますと雨の中かすかに聞こえる。今日は工房で制作している人はいない。露地のある茶室「吟風亭」へと続く径。沈丁花の香りが包み、侘助が雨にうなだれている。

沈丁の群従えて立つ椿      聖子

釜工房閑散として白椿      由紀子

赤の八重白の侘助誰に似る    光子

露地口に沈丁白く咲きにけり   節子

しべしずくくぐりて沈丁香りくる 真理子

  

の声がする。目をこらすと常鶲。辛夷の花が開き初めている。掌に包みきれないほど大きな八重の赤い椿がたくさん咲いている。「魚見公園」の吹きつける雨と違い、木々に囲まれた庭園は静かに降る。大茶室「蘆庵」に入り、庭園を眺めながら句作。その後、立礼席にてお抹茶と筍の干菓子をいただいてから、5句出しの句会をする。小人数の句会ならではの良さで、それぞれに自分の選んだの句の評をする。自分の句がどのように人に解釈され評価されるのか、率直な意見が聞かれるので楽しみの一つだ。自分自身が描いた以上の奥行きを感じとってもらうこともあるし、思い入れが強すぎて相手に理解されないこともある。人の評はありがたい。遠慮なく言い合える今の雰囲気を大切にしたいものだ。

今年は桜の開花が遅い。「魚見公園」はこの辺りでは桜の名所。県道から入る坂道に沿って桜の木が植えられている。しばらくすると「花の公園」の顔を見せてくれるであろう。霞、大夕焼け、紅葉、冬波など、同じ場所でも違う顔があり、違う感じ方がある。あるがままをあるがままに詠んでいくことができればと思う。

 3時半折尾駅解散。雨風の中でも楽しめるのが俳句ですね。お疲れさまでした。