<2006年9月号>


第25回 H18年8月10日(木)

参加者 節子 聖子 由紀子

観世音寺(太宰府市)

今年の夏も暑い。例年より遅い梅雨明けではあったが、八月の太陽は容赦なく大地を照りつける。北部九州は雨も降らず30度越える猛暑が続いている。8月10日の吟行の日も35度。
少しの時間だけでも吟行をしようということで、太宰府の都府楼址横にある古刹「観世音寺」を訪れる。木立に囲まれた寺は、ひっそりとして蝉の声が響くのみ。車から降りると乾いた土や夏草の匂いがする。境内で何か仕事をしているのか、作業着の男が2−3人動いている。炎天下の寺を訪れる人はほとんどいない。駐車場のすぐ横にある「宝殿」に入る。逃げ込むと言ったほうがいいかもしれない。

 
「宝 殿」                      「馬頭観音」

二階の展示室に入ると、重要文化財の像が10余体も並んでいる。平安時代(10世紀)から鎌倉時代(13世紀)の作で、中央に展示されている「馬頭観世音菩薩立像」や「十一面観世音菩薩立像」などは高さ5メートルもあり、他に阿弥陀如来、地蔵菩薩、大黒天、毘沙門天などの立像や坐像が拝観する者を見下ろすように並んでいる。
像の数の多さと高さに圧倒されるが、それにしても暑い。鉄筋コンクリートの講堂のような展示室は冷房が効いていなく扇風機も回っていない。重要文化財の巨像たちは涼しげに立っているが、見学する者は汗を拭きながらである。逃げ込むようにして入った「宝殿」だったが、ざっと見て出る。

   
「観世音寺」                       「天平石臼」

 太宰府観世音寺は、大宰府政庁の東側に天智天皇が母斉明天皇の冥福を祈るために創建されたもので、七堂伽藍や戒壇院を備えた大寺院であったという。(創建時期ははっきりしていなく、7世紀とするもの、8世紀とするものなどある)規模は奈良の東大寺に匹敵し、西日本随一の壮大さを誇るが、平安時代にはいって再三の火災や台風のやめに創建当時の諸堂は悉く消失。現在残っている創建当時のものは、わずかに梵鐘、諸堂の礎石、天平石臼、磚(せん)などである。大宰府政庁の権力の衰えとともに寺も衰退し、復興はされたが原型を留めていない。一時は廃寺同然の状況にも追い込まれたが、江戸時代藩主黒田家によって金堂、本堂が復興され古寺としての面目を保っている。
ただ仏像は創建当時のものは残っていないものの、平安期(藤原時代)のものが多く残され、近代にはいって修理が行われ現在に至っている。「宝蔵」の完成が昭和34年だから、それ以前は本堂などに安置されていたのだろう。これだけ多くの菩薩像などが一同に並ぶと、それぞれを美術品として鑑賞する。観音像の頭、顔、手足などの表情を見ていく。

  
「鐘楼」                       「梵鐘」 

外にでると「梵鐘」が見える。風雨にさらされたような案内板に大きく「国宝」と書かれ、梵鐘を囲む柱には金網が張り巡らされており、勝手に撞かないでくださいと注意書きがある。
京都妙心寺の鐘とともに日本最古のもの。菅原道真が失意の中で詠んだ七音律詩・不出門の一節に「観音寺只聴鐘声」とあるが、この鐘音がこの梵鐘のひびき。多くの文人たちもここで歌を詠んでいる。

手を当てて鐘は尊き冷たさに爪叩き聴くそのかそけきを       長塚 節

観世音寺ゆふべの鐘に花散れば身も世もあらず泣かまほしけれ  柳原 白蓮

 壇一雄も観世音寺の境内や都府楼址など好きでよく歩いたと随筆に書いている。それには住職から、鐘を撞いて御覧なさいと言われ、鐘楼に登って二つ三つ梵鐘を鳴らし、この鐘の音を聞いたであろう上代の人々を回顧。大宰府政庁の大伴旅人、山上憶良、坂上郎女などを主題にした物語を書いてみたいと思ったという。歴史あるとはそういうエネルギーを生み出すものなのであろう。
 鐘楼の石段を登り、梵鐘を間近に見る。張り巡らされた金網には空蝉がひっかかったままになっている。我々は(私だけかもしれないが)エネルギーを放出してしまったこの蝉の殻の如く境内にいる。創建当時の「天平石臼」の案内板を見るが、感動もなく行き過ぎ、本堂や隣の戒壇院を見て回る。
少し寂れた寺の風情に歴史を感じながらも、ゆっくり偲ぶほどなく一回りして観世音寺を後にする。境内の横にコスモス畑がひろがっている。盆前なのに、もう花をつけている。花盛りとはいうには程遠く、2−3分咲きのコスモスは、観世音寺の風情のようにどこか侘しく心に残るものだった。

  
戒壇院」                 「横のコスモス畑

 吟行の後は涼を求めて喫茶店に入り「宇治金時」を注文。大盛りのかき氷だったので、すっかり冷える。肩にタオルをかけたりしながら句作。その後二日市温泉へと回り温泉にて汗を洗い流し、さっぱりとしたところで句会をする。
当日は春日市の春日公園で「あんどん祭り」開催日。夜店や花火大会があるらしく、毎年大勢の人が押し寄せるらしい。それを避けての吟行。温泉や食事などのんびりと出来てよかった。帰りの電車は春日駅まで親子連れや浴衣姿の女の子などで超満員。この人混みの中でなかったことにホッとしながら博多駅を過ぎ、折尾駅までうつらうつらしながら家路につく。

空蝉や観世音寺の梵鐘に     由紀子

かき氷両肩にバスタオルかけ    節子

浴衣の子今宵花火の駅で降り    聖子