<2006年10月号>


第26回 平成18年9月14日(木)

参加者  聖子 節子 光子 真理子 由紀子 

武蔵寺・天拝山山麓(筑紫野市)

今月の吟行場所はどこだろう?「いつもの電車で大野城駅まできて下さい」のメールは届いたが、場所は未定。風まかせのミステリー句会らしい。テーマは「合衆国最大の州ようこそ森へ」という。遊び心いっぱいの九州の2Sの試みに乗っかるのはいつも楽しみ。さっそく合衆国最大の州は?と世界地図やアメリカの地図を頭の中に浮かばせる。いつもは働かない頭を働かせる。テキサス、カリフォル二ア、そうだアラスカがある。子供が使っていた中学校社会科地図を取り出して確認。やっぱりアラスカだ。ということは「アラスカの森」がテーマ。まず食事処をおさえるはずだから、アラスカでは何を食べるのだろうか?大宰府あたりの「アラスカの森」とはどんな所だろう?など興味が膨らんでくる。

 9月14日 折尾9時12分の快速電車に乗るために、いつものように折尾駅のプラットホームで光子さんと待ち合わせる。早めに着いて待っていたが、前駅から普通電車に乗って折尾駅で降りてくるはずの光子さんが降りてこない。電話が入り事故渋滞に巻き込まれていて間に合いそうにないという。電車にのるべきか、光子さんを待つべきかと迷ったが、予定通りの電車に一人乗り大野城へと向かう。後から特急で追いかけてくるだろうが、特急の止まらない大野城駅だから博多で乗り換え。連絡時間はいいだろうかと思いつつ、車窓から山や少し色づいた田んぼをぼんやりと見る。前の席では東南アジア系の3人が切符拝見の車掌に「切符を失くした」と言い張っている。待っていても一向に切符を探す様子のない3人に、車掌が長々と説明しながら料金を支払わせている。今日はどんな一日になるんだろう?もうミステリー吟行句会は始まっている。

待つ人の来ぬ汽車に乗るいわし雲  由紀子

  

 ようやく着いた光子さんを車に乗せ筑紫路を走る。どうやら天拝山方面へ行くらしい。見覚えのある天拝山の麓にある「武蔵寺」に着く。山門から一直線に見える本堂は、高い木々に囲まれ小さく静かに建っている。山門をくぐれば小さな太鼓橋のかかった「心字池」。池の面には白色と淡いピンクの睡蓮の花がぽつんぽつんと咲いている。池に傾ぐ木の枝には、鮮やかな赤色の糸とんぼがとまって動かない。本堂は山を背に九州最古の寺の風格を漂わせ、境内にも木々の上の空にも心地よい風が吹いている。本堂手前の樹齢1300年の「長者の藤」の葉は青々と藤棚を覆い、その先には竹蓋のしている古い井戸がある。法要の時に汲むらしい。

灯明の下にも昼の虫鳴いて       真理子

糸ほどの口紅の色糸とんぼ         節子

武蔵寺の結界朝の露にぬれ         光子

筆塚の金字の岩や秋草に         真理子

梨りんご芋売る露店寺脇に          光子

  

置かれている線香や蝋燭を灯し、大きな念珠をひく。どこからか虫の音が聞こえてくる。寺脇の径には金字でかかれた「筆塚」が露草や水引草などの秋草の中に埋もれるように小さくある。この辺りは道真公ゆかりのものが多いので、これもそうかもしれない。「紫藤の滝」や「衣掛岩」や、歌碑を見て歩く。武蔵寺や天拝山は以前にも書いたように菅原道真公に纏わる話が多く残されている。天拝山へ登る径は「天神さまの径」と名付けられ、道真公の歌碑が起点、1合目、2合目、3合目という具合に11箇所に建てられている。それを見ながらハイカーたちは身近な山として登山を楽しんでいる。この日も年配の小グループが時折リュックを背に登っていく。

           

車に乗り込み、どこへ行くやらおまかせ組の三人は後ろの席。天拝山の山裾を周るように行くと、「森へようこそ アラスカ」の看板を見つける。「これだっ!!」矢印に従って森の中に入っていく。虫の音や法師蝉の鳴く小道の先に湖が見えてくる。このところ雨が降っていないので水の量はかなり少なく、湖とも沼とも見えるが、奥に見える大きなログハウスとの構図はアラスカ。こんな所にログハウスがあるなんて隠れ家みたい。湖に向かってテラスが張り出している。丸太を組んで造られているログレストラン。薄暗く灯りが灯されている店内の一番奥のテーブルに座る。静かな森の湖の上を蜻蛉が自由自在にたくさん飛び交っている。秋蝶も舞い、青鷺も佇んでいる。テラスに出てみると湖の匂いがする。ここのメニューの目玉はアラスカ直送のキングサーモンの一品。肉料理も美味しく、天井が高く広々とした店内に流れる音楽を聴きながらおしゃべりをする。客は多からず、少なからず。秋風がすーっと流れていく。

山間の路地に虫なくレストラン        聖子

空席を抜ける秋風レストラン         節子

山芋か烏瓜かと蔓をひく          由紀子

法師蝉つくつくつくと鳴き終わり      聖子

森の小道を戻る。行くときよりも法師蝉の声がひびく。青栗、むかご、枯蟷螂、空には鰯雲。初秋の森を満喫して天拝山公園へと行く。
観月会や能舞台にもなる水上ステージを通り、藤原虎麿のモニュメントのそばにある東屋(休憩所)で句会。

  

これからはオプション。二日市の温泉街を散策して温泉へ。ここは天然温泉に銭湯のように気軽に入れるのがいい。公衆浴場「御前湯」「博多湯」は向かい合うように建っていて外観は旅館か料亭のようだ。今回は「博多湯」を利用する。創業は150年ほど前だが、2年前に改装されている。小部屋を借りオプション句会などして時間が経つのも忘れてしまう。どうなるのかと思ったミステリー句会は、俳句あってこその楽しみを一段と高めたような句会で終わる。面白かったなー。

飛行機の音秋天のどこからか       節子

湯の町の柳に秋の暮れ残る       真理子

作者当ての句会などして西鶴忌      光子