吟行記

平成19年1月号


第29回 平成18年12月7日(木)

参加者 節子 聖子 光子 真理子 由紀子

友泉亭公園・植物園 (福岡市)

前日の小春日和から一転、朝から小雨が降っている。天気予報通りだが、ちょっと恨めしい気持ちで空を仰ぐ。今年最後の忘年句会は福岡市内の「友泉亭公園」と「福岡市植物園」を吟行予定。

いつもの快速電車に乗って光子さんと南福岡駅に着くと、節子さん・聖子さんが車で待っている。すぐに城南区にある「友泉亭公園」へと向かう。公園の入口近くで真理子さんが手を振っている。市内の渋滞も考えられるので、10時半から11時くらいまでに集合ということにしていたが、ちょうど11時頃到着。福岡市在住の真理子さんは、自分の車で先に着いている。全員集合。
樋井川に沿った道沿いに公園の入口と車が何台か止められる駐車場がある。車を降りるとすぐに真理子さんが手招きをする。横の樋井川に鳥がいるという。橋から身を乗り出すように見ると、水量の少なくなった川の石の上に一羽の鳥がいる。鳩よりも大きいその鳥は橋の上の五人の目や声に動じることなく、じっと一点を見つめて立っている。雪が降るほどの寒さではないものの、冬の雨に打たれながら何故川の中に立っているの?と問いたくなる。黄色の足先が寒々しい。「五位鷺」(ゴイサギ)ではないかという。

  

ゴイサギの足の黄色や水涸れて       光子

入口に「静」の一文字冬紅葉        由紀子

しばらく見てから「友泉亭公園」の冠木門を潜る。雨に濡れた冬紅葉が真っ先に目に入る。その赤い紅葉の散った路の先に「友泉亭」がある。中でお抹茶がいただけるというので券を購入。
「友泉亭」は、1754年筑前黒田家6代藩主継高公が設けた別荘で、約3000坪の庭園にはシイ、マキ、ツバキなどの古木が残されており、樋井川の流れを引き入れたといわれる池泉には錦鯉がたくさん泳いでいる。当時そのたたずまいは黒田家の家風を反映して、質素、堅実、実用的なものだったようで、明治維新後、小学校や役場として利用されたという。その後家屋の解体や売却など幾度かの変遷があり、現存の建物は昭和初期、貝島家(石炭王)によって新しく建てられたものだが、それはそれで貴重なものである。さらに昭和50年代に福岡市が買取り、公園として整備されたという。庭園の大まかな構図、構成、植生などは当時とたいした変わりはないようで、本館の大広間や、新たに作られた茶室などは、茶会やその他の文化活動に利用されている。

 

大広間に座り庭園を眺める。雨の庭園は風情があるとしみじみ思う。私事ながら娘が近くに住んでいたので、春と秋に訪れたことがあるが、その時とはまた別の趣きがある。池に降る雨は小さな水輪をいくつも作り、赤い紅葉は透けて見える。静寂。
カーボンヒーターの赤々とした灯りに皆集まり、菓子付きのお抹茶をいただく。鯉の餌も売っていて、皆で少しずつ池に投げ込む。少し体が暖まったところで庭園を散策する。街騒を遠ざける周りの木立に沿って茶室や野点広場・藤棚・渓流・滝・四阿などが配されている。真っ白な山茶花が一際美しい。

音たてて餌に群がる冬の鯉         節子

張り付きし紅葉の一枚傘に透け      節子

山茶花の白の順路に沿ふて行き     光子

二・三枚紅葉前行く傘にかな        光子

冬花芽かくもか細き馬酔木かな     真理子

篠垣の潰え山茶花咲きこぼれ      真理子

昼食は「福岡山の上ホテル」。友泉亭公園から車で10分弱の距離で、次の吟行地「福岡市植物園」のすぐ近くにある。ホテルの駐車場からは市街地が一望。ヤフードームや福岡タワー、志賀島がぼんやり見える。雨雲が垂れこめて博多湾は灰色だ。名前の如く山の上にあり、眺望のすばらしいこのホテルが民事再生法を申請したとニュースにでていたが、失くなるのは惜しい。

 

車で植物園に移動。さすがに冬の雨が降り続く植物園には人影がない。広々とした園内の木々の幹は黒々として、いっそう冬の趣がする。噴水も勢いがなくモコモコと湧くように上がる。色とりどりのパンジーの花壇や薔薇園を見て温室に入る。温室には珍しい花木がたくさんあるのでゆっくり見て回る。中でも印象に残ったのが「旅人の木」とういう名前の植物。別名扇芭蕉。葉柄に穴を開けると水が出てきて旅人の喉を潤し、日照を好み葉が南方向に向くように東西に葉が開くので、方向がわかるということで名付けられたという。(後でこの木が観葉植物として人気があり、売られていると知る。)
時間を忘れるほどの花や木。ブーゲンビリアの咲きあふれる休憩室でなんとか句作。温室の透明の屋根や窓ガラスに雨が流れ落ちる。

「旅人の木」とありし木に時雨避け      由紀子

雨音を遠くに室の花あふれ          由紀子

室咲きのブーゲンビリア咲く下に        節子

温室のガラス流るる冬の雨           節子

見上げればパパイヤに実や冬ぬくし    真理子

温室をでて園内の喫茶店で句会を始めるが、閉園時間が迫り清記のみ。温かい珈琲紅茶で一息つき、閉園放送を聞きながら出口に向かう。降っていた雨は止み、黄昏時の園をすっぽりと霧が覆っている。ほとんど人のいない雨の植物園だったが、花や木々の持つ温かみや句友との吟行が寂しさを感じさせない。

 

時雨来てやみながら又時雨行く       聖子

靴の奥まで冬雨の滲みにけり        聖子

一木の長きベンチや冬の雨         真理子

一枚の葉も残さずに大冬木         由紀子

冬の霧湧ききて苑をつつみけり       光子

今日は東京でも句会があり、時々互いに写メールを送る。東京の楽しそうな様子が瞬時に分かる。距離を感じさせない便利な文明の利器。まだ使いこなしていないので、保存しておいたはずの写真がないなどモタモタしてしまったが、面白い。だがこちらはまだ句会が済んでいない。山の上ホテルに戻り、広々としたロビーの休憩所で句会の続きをする。10句出句。
忘年句会には、やっぱり温泉。ホテルの大浴場はアルカリ天然水を沸かしたものだが、すべすべとして気持ちがいい。皆お酒は飲まないのに、ほんのりと桜色。年忘れ!年忘れ! またよい年になりますように!! 解散