<2006年3月号>


第20回 H18年2月10日

参加者 聖子 節子 光子 由紀子 真理子 

初午・祐徳稲荷神社 (佐賀県 鹿島市)  

 二月は「中津のお雛様祭り」を計画していたが日程が合わず、兼題が「初午」ということもあって、いつもの第三木曜日を変更して初午の日の2月10日(金)に吟行する。「初午」とは、二月最初の午の日。711年2月の初午の日に稲荷大神が京都伏見の稲荷山に降臨した日で、いわばお稲荷さんの誕生日。稲荷信仰は江戸時代に最も盛んで、稲荷神社の他に武家屋敷、町家の裏庭、長屋などにも守り神としていたるところに祠があり、初午の日はお祭りとして大いに賑わったという。

 今回、「初午」の吟行場所は「祐徳稲荷神社」。佐賀県鹿島市にあるこの神社は、日本三大稲荷のひとつといわれている。日本三大というのは曖昧なもので、京都の伏見稲荷は別格として、愛知の豊川稲荷、茨城の笠間稲荷、岡山の最上稲荷など名前があがっていてはっきりしないが、九州では一番名の知れた稲荷神社である。参拝客は年間250万とも300万人ともいわれ、太宰府天満宮についで多い神社である。

 当日光子さんと快速で折尾駅から博多へ。博多から特急「かもめ」に乗り換え真理子さんと合流する。鳥栖駅から聖子・節子さんが乗り込む。ほぼ満席の特急は鳥栖から長崎本線へと入り、肥前鹿島駅に降りる。小さな駅舎は特急が停まるとは思えないほどだが、「祐徳稲荷」の参拝客や昭和60年に始まった「ガタリンピック」の参加者など時折多くの人が乗り降りするのだろう。駅前は低いビルがいくつかあるものの、まっすぐのびた道には車や人の往来は少ない。広場の左手の建物が「鹿島バスセンター」で「祐徳バス」の発着場所になっている。神社までの直行バスだったのかよく覚えていないが、途中乗り降りする人もなく、10分ほどで到着。20人ほどの乗車客は皆ここで降りる。広い駐車場の先には参道があり、両側にはお土産店が軒を連ねている。

    

 この日は「初午」ということもあって観光バスも止まり、参道は参拝客と客を呼び込むお店の人の掛声で賑わっている。参道の中ほどにある「家督屋」というお土産店の奥で昼食をとる。畳敷きの大広間に長テーブルを縦長に並べて団体客に対応できるようになっている。「だご汁」と「お稲荷」を美味しくいただく。

 赤い大鳥居をくぐって境内へと入ると、狛犬ではなく狐の像が置かれ、神池、楼門へと続く。目の前に広がる社殿は極彩色の宏壮華麗なもので、目を疑うほど見事なものだ。この稲荷神社は1687年創建されたもので、肥前鹿島藩主鍋島直朝氏の夫人・萬子(天皇の曾孫で左大臣花山院の娘)が鍋島家に嫁ぐ際、朝廷の勅願所であった稲荷神社の分霊を奉祀したものという。現在も耕作、漁業、商工業(衣食住)の守護神として、商売繁盛、家運繁栄を祈願する人が絶えない。

   

   

 鍋島家の尊信が篤く藩費で造営されただけあって、「鎮西日光」と称されるほど豪華絢爛な造りだ。ほとんど総漆塗りで、楼門の左右には鮮やかな有田焼で作られた武者人形(?)が置かれ、奥の「御神楽殿」も赤色を基調に極彩色の彫物や絵が施されている。「御本殿」は山の傾斜を利用した京都の清水寺に似た舞台造りで、朱塗りの支柱が異彩を放っている。お神酒をいただいてから、高々とある本殿へと昇っていく。天井には極楽浄土のように花や鳥(鳳凰だろうか)がえがかれている。あまりの豪華さに、お参りしたものの真正面の御祭神をよく見ていない。

 御祭神
倉稲魂大神(ウガノミタマノオオカミ)・・・稲荷大神と呼称され、衣食住の守護神
大宮売大神(オオミヤメノオオカミ)・・・アメノウズメノミコトとも呼ばれ技芸上達の神、福徳円満の神
猿田彦大神(サルタヒコノオオカミ)・・・水先案内の神、交通安全の神

   

 本殿の裏手の山には末社があり、稲荷神社特有のトンネルのように並べられた赤い鳥居をくぐって登る。その中の「命婦社」(みょうぶしゃ)は稲荷大神のお使いである白狐の霊をお祀りしている社で、社の木彫り技法も価値が高く、県の重要文化財になっている。近くには花山院萬子媛(のちの祐徳院)が祀られている「石壁社」があり、彼女が吉凶を占っていたとされる「水鏡」も置かれている。このまま登れば「奥の院」があるらしいが、下の境内で「平戸神楽」など伝統芸能が舞台で奉納されているので引き返し階段を下りていく。

 この近くには嬉野温泉や武雄温泉があるので、芸者姿の女(男?)の人もいる。神楽奉納が終わると、その芸妓たちが舞台に上がり舞う。嬉野茶摘踊りなるものも奉納され、茶摘みの籠から飴などのお菓子がばら撒かれる。前列に陣取った甲斐あって手いっぱいに拾う。

楼門から出て休憩所に行くと、その先には庭園があり、梅や寒ボタンが咲いている。境内ではまだまだ奉納芸能が続いており、出番を待つ鬼の面をつけた人たちが行き来している。佐賀県を代表する民俗芸能「面浮立」(めんぶりゅう)の踊り手らしい。話しかけると鬼の面を取って見せてくれる。まだ待ち時間があるらしく、その踊りを見ることはできなかったが、迫力ある鬼の面を間近に見せていただく。

   

句会は参道の喫茶店で行う。午後2時をすぎると参道を歩く人も少なくなり、喫茶店の中も客がいない。奥のテーブルではお店の従業員3−4人が何かお土産品を詰めていたのか、おしゃべりしながら手作業をしている。私たちにもゆっくりしてもいいと言う。句会を終えた頃には、参道はさらに人が少なくなり、お昼の賑わいがうそのように静かだ。両側に植えられている桜の硬い芽にまだまだ春の浅いことを知る。佐賀のお土産にと嬉野茶などを買って、待合所で帰りのバスを待つ。思いがけず切符売り場のおばさんが皆に熱いコーヒーを入れてくれる。紙コップなどではなく陶器のカップだ。冷えてきた体には有難く美味しい。

初めての祐徳稲荷神社の参拝は、社殿の絢爛さに驚き、茶摘踊りの飴撒きに笑い、人の温みに接して終える。寒い時期にもかかわらず、皆がスムーズに動くことができるようにと下見をしていただいたお二人に感謝。


有明の干潟に近く午祭         節子

傘捜す間に降り止みし春時雨    節子


湯の町の芸妓らも来て午祭り
    由紀子

天井にえがく極楽春時雨       由紀子


うちつづく鳥居に春の雨の降る
    光子

獅子舞も平戸神楽も午祭        光子


清水を模したる神社春時雨      聖子

位命婦白狐の社山椿          聖子


一山に日差し戻りし初午祭
     真理子

朱の鳥居くぐる間に間に春時雨  真理子