<2006年6月号>


第23回 平成18年5月11日

参加者 聖子・節子・光子・真理子・由紀子

太宰府天満宮・光明禅寺

ゴールデンウィーク明けからすっきりしない天気が続いている。5月11日、雨は上がったが空を覆う雲に折りたたみ傘をバッグに入れて二日市駅に降り立つ。JR二日市駅に集合というだけで行き先はわからない。メールで届いた案内に「ミステリールネサンス句会」と書かれている。節子さん聖子さんならではの小粋なネーミングの吟行に心弾む(何故ルネサンスかがわかり、お二人に拍手)西鉄電車で来ているという真理子さんを途中車に乗せて走るが、さて行き先は?

このあたりはどこを歩いても史跡が多く自然にも恵まれているので吟行する場所に事欠かないが、「今日は雨が降り出しても楽しめるようにと太宰府天満宮界隈を吟行する。」という。天満宮には昨年2月梅見吟行で参拝したが、境内は広くまだまだ見ていない所がある。

本殿裏から入ろうとすると傍に一本の老木。案内板に樹齢700年の「ちしゃの木」と書かれている。幹の中央部分が空洞になり何本もの支柱で支えられながらも柔らかい黄緑色の若葉をたくさんつけている。一歩境内に踏み入れると、一面梅の木が青々と葉を茂らせ、その葉下に小さくたわわに実をつけている。本殿に回ると修学旅行なのか制服姿の中学生の集団が参拝したりお御籤をひいたりしている。目を引いたのが結ばれている御籤。専用の台には青色の御籤がぎっしり結ばれている。(これは後で知ったことだが「日本サッカー」の必勝祈願の青色御籤。)

  
樹齢700年の「ちしゃの木」           ワールドカップ用サムライ御籤           

中学生の集団から離れ周りを見ると、境内を覆うが如く柔らかく光る楠の若葉が美しい。境内には樹齢千年以上の楠の巨木が数多く自生しており、国の天然記念物になっているものもある。その新緑の瑞々しさは人間や天満宮の本殿さえも小さく見えるほどだ。

「くすの木千年 さらに今年の若葉なり」  萩原井泉水 (境内に昭和42年建立)

 楼門より「曲水の庭」へと周る。毎年行われる「曲水の宴」の舞台。中に入れないので柵より眺める。宴の後の庭は普通の梅林にすぎないが、小流れの川や橋にテレビで見る曲水の宴の映像が浮かぶ。反対側にある池には菖蒲が点々と植えられている。まだ葉先がツンツンと伸びているだけだが、よく管理された菖蒲池は盛りの美しさを想像させる。

  

これらを見ながら先に進むと、左手に遊園地の看板、右手に「九州国立博物館」への入口。駅舎のようなその入口前では修学旅行生たちがクラス写真を交互に撮っている。立ち去るのを待って中に入ると、上り下りの長いエスカレーターが動いている。入館料は上りきった博物館の入口だというので、上まで行くことにする。昨年10月開館の博物館は予想以上に来場者が多く、太宰府近辺の渋滞がニュースになっていたので、それが少し収まってからと思っていた北九州組は初めての来館。総ガラス張りの建物は、緑湧き上がる山の中に万緑を映して建っている。東京、京都、奈良に続いて4番目となる国立博物館の建設は、「遠の朝廷」として栄えた太宰府にとって長年の夢だったものだ。ここにようやく実現する。中では「琉球展」が催されているようだが、睡蓮の池や竹林を見てまた下へと戻り、芭蕉ゆかりの「夢塚」や芍薬の径を通って境内を出る。

  

 境内横の「古香庵」にて昼食。古香とは梅のことで、庭には梅の古木が実を散らしている。今は会席料理店となっているが、建物は江戸末期から昭和にかけて、親子三代に亘って名を知られた筑前の書家吉嗣梅仙、排山、鼓山の住居「古香書屋」である。玄関に掛けている「古香書屋」の扁額は名付け親の三条実美卿の書。店内の書や掛け軸、調度品などを見る。明治大正時代の畳敷きの大広間や小部屋、廊下など落ち着いた佇まいの中で食事を頂く。硝子窓から白壁の蔵が若葉の中に見える。

 表参道から少し入った「光明禅寺」へと足を運ぶ。天満宮社僧の菩提寺だが、庭の美しさで有名な寺。シーズンには多くの観光客が訪れる。修理中の楼門を潜るとすぐに石庭がある。広くはないが、白砂の箒目の揃った庭に大小の黒っぽい石が配置されている。若葉と相俟ってそのシンプルなコントラストに引きつけられる。15個の大小の石は「光」という字に配置されているらしい。受付には誰もいない。拝観料と書かれた箱が置いているだけである。鎌倉時代に創建された堂の中は、装飾などない質実な造りでがらんとした板張り。奥に行くと庭に面して縁側があり、L字型に畳の部屋と茶室が設けられている。ここは庭で名を馳せているだけあって、白砂と緑の苔と楓の林は目が覚めるほどだ。「一滴海庭」といって海と陸を表現しているらしいが、そういうものが分からなくても、この苔と楓若葉のマイナスイオンたっぷりの庭は爽やかだ。風蘭の花が咲き、裏山からは囀りが聞こえてくる。部屋に高濱年尾の句が掲げられている

石庭の時雨るる時の京に似て  年尾

  

寺に沿う藍染川。能や和歌に詠まれたこの川にまつわる恋伝説の碑文を見て参道へと戻る。参道には梅が枝餅の店が多く並んでいる。その中の「松屋」に入る。店構えは他の店と比べてほとんど変わりなく外からみると小さいくらいなのだが、店内で食べようと中に入ると、柿若葉の下に緑色の苔が生えている庭があり、テーブルと椅子が並べられている。薄日が差し込んでくる。ここも謂れのある店で、京都清水寺の和尚 月照上人が安政の大獄で京都から九州に逃げ、この松屋に泊まったという。庭には月照上人の歌碑も建っている。梅が枝餅が美味しく追加注文をする。10句出句。「古香庵」「光明禅寺」「松屋」など京都の雰囲気だったこともあって、年尾句の「京に似て(し)」を使った句を必ず1句出すことにする。

若葉風抜ける石庭京に似し

月照の仮寝の宿の京に似し

夏帽の美女多き町京に似て

広縁の京に似し寺若楓

風通る花楓の道京に似て

句会を終えてこれからはオプションだという。オプションは二日市温泉の「御前湯」入浴。びっくりしながらも皆大賛成。タオルは節子さんが準備している。公衆温泉のたっぷりしたお湯の中で♪菜の花畑に・・・♪♪春のうららに・・・♪を五人で歌い句会の〆をする。誰も聞いていないとおもいきや、歌い終わるとお湯の中のおばあさんから拍手をいただく。気持ちの良い句会をありがとう。

客を呼ぶ楠落葉掃く手も止めず   聖子

人形のように動かぬ巫女薄暑    節子

人の声とぎれ青葉の音残り      光子

夢塚に天満宮の若葉風       由紀子

禅寺の午後風蘭に静まりて    真理子