吟行記

平成19年2月号


第30回 平成19年1月10日(水)

参加者  節子 聖子 光子 真理子 由紀子

十日恵比寿神社 (福岡市 東区)

昨年末の忘年句会で、四季折々の祭礼に参加するのもいいのではという話がでて、早速初句会は「十日えびす祭」に決まる。毎年テレビや新聞に取り上げられる博多の「十日恵比須神社」の恵比須祭を一度は見たいと思っていた。新年早々の神事は無病息災や開運を願う行事が多いいが、特に年初めに「えびす様」に参詣すれば、ニコニコ顔のえびす様のようにこの一年笑顔で暮らせそうな気がする。      

 1月10日JR吉塚駅に10時集合。光子・由紀子の北九州組が改札からでると皆待っている。駅からまっすぐ海側へ歩くとすぐに「東公園」が見えてくる。以前の東公園は「日蓮聖人」と「亀山上皇」の像が目立つ広い自然公園だったが、昭和56年ここに県庁が移転してきてから様変わりしてしまった。公園の入口からはみだすように露店が軒を連ね、中に入るとさらに公園内の路という路に露店がでている。神社はこの公園の一番奥まった所にあるので、まず入口近くの「日蓮聖人」の像の方へと回る。社務所前には鳩が群れている。曇空から時折冬日の差す公園内には北風が吹き、鳩は体を膨らませ、聖人像を取り囲む白い旗はぎしぎしと音をたてている。

  
「日蓮上人像」                 「台座のレリーフ」

寒風にきしむ旗竿日蓮像        節子

元寇の浜駆け上がる北風強し   真理子

冬の鳩頭を肩に埋めけり       聖子

見上げるほど大きな日蓮像は元寇が押し寄せた玄界灘へ立ち向かうように立っている。その台座には「元寇の役の戦い」が何枚かの銅板のレリーフで描かれている。一枚一枚のレリーフの中の日蓮はピカピカに輝いている。詣でる人が触るのであろう。そこだけが目立つので来る人が次から次にまた触っていく。もちろん私達も頭を撫でながら一回りしたが、靴を揃え素足でお百度を踏む青白い顔の女性もいたので、邪魔をしないように早々に階段を下りる。

再び露店の並ぶ路にでて、福笹を手に持ち帰っている人を見ながら奥へと進む。あちらからこちらからと人が増えてくる。1月8日の初えびす、9日の宵えびす、10日の正大祭、11日の残りえびすと「十日えびす祭」が4日間もあるとは知らなかった。前日9日の宵えびすには「徒歩詣り」(かちまいり)といって博多芸妓の行列参拝があったらしい。毎年この場面が放送されるのだが、実際にまだ博多芸妓はいるのだろうか。

  

福笹を手に来る人を道しるべ     光子

本祭十日恵比寿の人出かな    由紀子

どこからの人人十日恵比須かな   節子

全国津々浦々に「えびす様」は祀られているが、ここの神社は名前からして「十日恵比須神社」という。普段は寂しいほど人の通らない所らしいが、このお祭りの時は人が波のように集まってくる。商都博多の商売繁盛、海運、豊漁豊作の守り神として親しまれ、御祭神は「えびす様」と「だいこく様」。どちらも縁起のよい神様で「何卒よろしく」と自然に手が合わさる。本殿近くになると人の列ができていて段々長くなっていく。福引を引いてからお参りということで、酒樽の積み上げられた奥にある社務所の「初穂料」と書かれた引換所に行き、えびす様の絵の券をいただく。それを持って福引の列に並ぶ。次から次に「当たりー」「大当たりー」とよく通る声が境内に響く。福笹と一緒に渡される景品は、福起こし、米俵、干支、そろばん、福満等、縁起のよいものばかり揃えられている。五人とも違う景品で、わくわくしながら見せ合う。「大当たりー」は福起しといわれる恵比寿だるまと福満といわれる大きな赤い団扇。当てた真理子さんの団扇は確かに福を呼びそうだ。

 

初恵比寿笹持つ人の波となり       聖子

酒樽の高く積まれて初戎         光子

福引の列はこちらとプラカード       節子

禰宜連呼する「大当たり」初恵比須  真理子

福笹を受ける誰かれ恵比須顔     由紀子

長くなった参詣の列に並ぶ。ようやくお参りを終えて列から離れると、社殿の右側の畳敷きの部屋に白丁(はくちょう)をつけた人達が座り、長机には直会膳(なおらいぜん)の用意がされている。入口に説明書きがあり、それによると開運御座(かいうんおざ)という新春の縁起を祝う儀式で、一般の人も申込むことが出来るという。お祓いを受けた後、御加護を仰ぐ祈願が執り行なわれ、直会膳をいただく神事で、ここでも名物の福引がなごやかに行われている。えびす手一本の打入れで御座が終了する。福笹を手にして皆えびす顔で出てくる。次に来るときはこれに申込みしようと思う。

  

初戎提灯古し然らぬも          光子

算盤を当てし戎の福男         真理子

公園を埋める露店や初恵比須    由紀子

福引の大当たりの声境内に       節子

昼食は近くのホテル「レガロ」のレストラン。ちょうど良いことにテーブルの横に仕切り台があり、引き当てた縁起物を並べてみる。暖房のせいか少し笹が縮んだようだ。レストランでも、ここを出てまた公園に向かう道にも福笹を持った人と次々にすれ違う。公園一帯がお祭りだ。句会場は公園を通り抜けた所にある県庁内の喫茶室を予定。その前にしばらくロビーで句作。真正面に「亀山上皇」の像がこちら向きに立っている。上皇もまた元寇の襲来に「敵国降伏」を伊勢神宮などに祈願されたとして、像は明治時代建立されたものだ。

県庁の最上階11階は南側が展望室になっていて、県の物産品や工芸品を展示もしている。展示品を少し見ながら広い窓から見下ろすと今歩いてきた露店の並ぶ東公園がひろがっている。まだまだ賑わっている。北側の喫茶室にいくと、窓から福岡タワーや博多湾が遠くにみえる。幸運にも窓に近い一番奥の席が空いていて、句会にもってこいの場所だ。

県庁の展望室に初恵比須       節子

県庁にて解散したが、節子・光子・由紀子は吉塚駅まで歩いて行く。仕事帰りらしい背広姿のサラリーマンたちも福笹を持って駅に向かっている。それぞれに福が待っているような気がする。よき初句会でした。

                
         「福岡県庁」                         「亀山上皇像」