吟行記

平成19年3月号】


第31回 平成19年2月3日(土)

参加者  聖子 節子 光子 真理子 由紀子

櫛田神社の節分大祭(福岡市博多区)

1月の祭礼・十日恵比須祭に続いて、2月も祭礼・節分祭に参加してみようということになった。行くとなれば博多の櫛田神社がいいのではと即決。祇園山笠で全国的に名前を馳せている櫛田神社の節分祭は、大きなお多福面が神社の鳥居奥に据えられ、著名人や恒例となっている二月博多座歌舞伎公演の役者達が豆を撒く。毎年のように新聞やテレビのニュースに取り上げられている。

「あしや句会」のメンバーは、「行きたい。見たい。」と好奇心旺盛なのが取得であり、俳句には大切なことだと感じている。「見たーい」と元気よく手を上げるメンバーの顔が浮かぶ。節分祭当日は、土曜日ということもあって9時からの神事、10時からの豆まきに各々の都合に合わせて参加ということにする。

2月3日、神社の節分祭参加は初めての光子・由紀子は、折尾駅発7時48分の特急で博多へ向かう。突然の積雪で大渋滞した昨日の朝のことを話しながら、一日違いで予定通りの電車に乗れた幸運を喜びあう。8時半博多駅で合流した節子さんと三人でタクシーに乗り櫛田神社まで行く。もう雪は残っていないが、曇り空に時々青空がのぞく空模様に吹く風は冷たい。今冬の暖かさに慣れた身には少々厳しい寒さである。テレビで見る大きなお多福が目の前にある。入口になっている口から境内に入ると、参拝者はまだ少なく、巫女たちが祈願受付や福引引換え所になっているテントの中で景品や椅子をならべたり、境内のお御籤を結ぶ細い綱から昨日までのお御籤を外したりしている。拝殿の中では禰宜たちが、もうすぐ始まる神事の準備らしく何やら立ち動いている。吐く息は白く、手は悴かむほどの寒さだが、うすい白袴の氏子たちが社務所より出てきて並び始め、簡単な説明会の後一列になって手を清める。用意された拝殿の椅子に座り、神事が始まる。祝詞やお祓いなど滞りなく進行される中、だんだん境内に参拝の人が多くなる。

  

お多福の口より入る節分会      由紀子

九人の神官揃う節分祭          節子

祀られている三神、青鬼、赤鬼のお面、天井の博多にまつわる目出度い絵(お多福、いちょう、力士、みこし、ご神紋など)や大根、白菜、葱などの供物など、早く神社に着いたおかげでゆっくりみることができる。拝殿の手前に立て札がある。それには以前訪れた時には気付かなかった拝殿の破風にある木彫りの風神雷神の説明が書かれている。見上げると説明書きの通り、風神が「あっかんべー」をしている。雷神が一緒に暴れようと誘っているのに、氏子から嵐をおこさないように頼まれた風神は「いやだよー」といっているらしい。博多らしいユーモアあるものとして櫛田神社内の見るべきものの一つになっている。

     
左破風の雷神木彫                    右破風の風神木彫

10時の豆撒きの時間が近づいている。豆撒き会場は拝殿横の広場で、祇園山笠の時には清道旗が建ち、追い山の会場となる場所だ。会場は紅白の幕が張られ、大きな枡や豆撒き人形が飾られている。お面に着ぐるみの赤鬼、青鬼も出てきて会場を歩きまわる。鬼と握手をしたり、記念写真を撮ったりしている。節分祭の穏やかな光景だ。

青鬼の耳たぶ赤き鬼やらい      真理子

鬼役の細き手足や鬼やらい      由紀子

赤鬼と記念写真の節分会         聖子

  

境内に豆撒きのアナウンスがあり、急に人が集まりだす。真理子さんも到着。一番前には小学生の男の子たちがグローブを持って始まるのを待っている。だんだん人で身動きがとれないほどになり、司会役のアナウンサーがマイクを持つ。放送関係者もぐるりと会場を取り巻いている。後ろの人は大きめの紙袋を取り出し、ビニール袋を差し出す人もいる。豆撒きに慣れた人たちだと関心し、自分も何かバックの中に入っていないか探してみる。小さなビニール袋が入っていたので少々不満ながらも手に持つ。

拝殿で御祈願を済ませた裃姿の善男善女たちが舞台に立ち並び、手には赤いボールと豆の入った枡を持っている。神官の厄払いが終わるといよいよ豆撒き。善男善女たちが、まずホークスの選手たちのサイン入りの赤いボールを高々と投げる。それを拾う時点で手に持った小さなビニール袋はどこかに飛んで行ってしまう。大きく差し出された会場中の人の手に、ビニール袋にボールや豆袋が入るのを待つより、自分の手で掴んだり、拾ったりする方が確実だと実感。男の子達がもっているグローブは正解。次々に豆袋や菓子袋が投げられる。前の人の肩に乗った豆袋をさっと取る。足元に落ちた豆袋を拾おうとすると横の人から取られる。腰をかがめると二つ取れたが、上から人が乗ってくるようで怖い。皆必死なので、カルタ取りのような速さが要求される。福を拾うためには体力も必要である。それぞれに3−5個くらいは拾ったと思う。

 

次々に撒き手登場節分祭        節子

サイン入りボール高々撒く追儺   真理子

豆まきも「祝いめでた」で〆となり   聖子

 一回目の豆撒きの後、お祝い事にはつきものの「祝いめでた」の歌で〆る。博多の豆撒きらしい。この豆撒きは午後4時まで30分ごとに行われる予定だ。第1回目は地元財界人の善男善女が登場したが、お目当ての歌舞伎役者たちは午後の部らしい。その時はもっと凄まじほどの人出になるかもしれない。豆撒きの後ろで見ていた聖子さんと合流。足の調子がよくないので怪我をしたら大変だ。

会場から出て境内の祈願所に行き祈願券を購入。家族や自分の名前を祈願証に筆で書いてもらう。福引券もついているので福引きをして、拝殿に祈願証を持ってお参りをする。もうこの時間になると境内は人で埋まってしまう。拝殿横から回るとまた豆撒き会場にでる。また始まりそうだったので、もう一度チャレンジすることにする。光子さんと節子さんは少し前の方へ。真理子さん、由紀子は後ろの方。聖子さんは端で見学。いよいよ始まると後ろにはあまり飛んでこない。由紀子は少し前に出て取ろうとするが、中途半端な位置なのか投げている豆袋は届かず、小さな餅の入った袋はもっと後ろに飛んでいく。一個も拾えなかった。横にいた60代の女性のグループも拾えなかったらしく「もっと若い人に投げさせんと、ここまでは届かん!」と文句たらたらだったが、福を拾うには努力がいる。さすがに福岡市在住の真理子さんは後ろにいて小餅を拾っている。豆は前の方、重い餅は後ろに飛ぶと心得ている。怖いと思うほど迫力ある豆撒きなので2回で十分だ。皆の靴は踏まれたのか泥で汚れている。多分反対に踏んでもいるだろう。

かじかめる手や祈願札名を書き記す 光子

豆撒きの小餅頭上に飛んできし   真理子

境内に名物「銀杏焼」が売っているのを真理子さんが買ってくれる。香ばしい銀杏を頬ばりながら境内をでると、「恵方巻き」を売っている。櫛田神社前なので縁起良さそうだ。道路を渡って「博多町屋ふるさと館」に立ち寄る。ここは明治中期の博多町屋の建物を移築・復元したもので、中では博多の民俗文化にまつわるさまざまな展示や、博多織の実演などもおこなわれている。実際に機を織ってもよいというので光子さんが挑戦。難しそうなので途中少し躊躇したが、作務衣を着た年配の男性は半ば強制的に光子さんを座らせる。機織は簡単ではないことがわかる。「ふるさと館」前の道路を隔てた反対側に今日の食事処「むらた」がある。信州そばの美味しい店で、二階の畳の間で句作をしながら5句出句。真理子さんは午後予定が入っているので投句のみ。4人で句会。

  
博多町屋ふるさと館                   機織姫(?)

豆まきの声の蕎麦屋の二階まで   光子

豆まきの声が聞こえてくる。「ふるさと館」も「むらた」も正面に神社の鳥居のある櫛田表参道に面しているので、窓から神社の様子が見える。テーブルに置かれている節分豆や蕎麦を食べながら豆まきの声を聞く。節分祭を満喫。店を出て再び「ふるさと館」の畳の間に上がり、お互い句評などして櫛田神社を後にする。まだまだ豆撒きの声が続いている。