吟行記

平成19年7月号】


第35回 平成19年6月15日(金)

参加者  節子 聖子 光子 真理子 由紀子

大内花庭園(福岡県・直方市)

 桜ほどではないが、季節が巡ってくると見たくなる花がある。梅雨の季節は花菖蒲と紫陽花。梅雨空に見る花菖蒲と紫陽花は活き活きとして美しい。名所といわれる場所も多く、毎年どこに行こうかと探している。去年の長崎県の大村公園の花菖蒲や宮地嶽神社・夜宮公園の花菖蒲、高塔山の紫陽花も見頃だろうと思いつつ、今回は近場でまだ皆が行ったことのない「大内花庭園」を提案する。ここは以前の「大内菖蒲園」で「貝寄風」が結成された年に吟行したことがある。あの頃は名前の通り花菖蒲が主だったが、今では四季折々に楽しめるように沢山の花木が植えられ、敷地も何倍も広くなっている。

 6月15日折尾駅10時20分集合。小雨の中車で北九州から200号線を下り直方市に向かう。この辺りは飯塚に抜けるバイパスや大型ショッピングセンターができて少し様変わりしたが、大きな観覧車のある「びっくり市」は健在で、それを目印に車を走らせる。道沿いの観覧車の先にある信号から「びっくり市」を抜けて住宅街に入るが、どこで間違えたのか見覚えのない風景に来た道を引き返す。

   

Uターンして見覚えの菖蒲園        由紀子

菖蒲園住宅街の高台に            節子

 住宅街の一角が急に開け、広場のような駐車場と大きな唐風の門が建っている。「花菖蒲まつり」「あじさい祭り」の看板にホッとする。先客がいるようで車が2−3台止まっている。入場料を払って中に入ると鉢に植えられた花菖蒲が両側に並べられている。一つ一つの鉢に違う名札がさされ、白や薄紫の大振りの花が五分くらい咲いている。ざっと見ながら砂利道を進み赤瓦の家の前に来る。「肯石庵」と書かれた扁額のある門をくぐると、個人の家と香春岳を見立てたという築山に幾鉢かの花菖蒲が並べられ、庭に向いて椅子と座布団が置かれている。この花庭園は個人所有の庭を有料で開放している庭園なので、実際人が住んでいると思うが、家の中に人の気配は感じられない。そっと覗くと家の横に犬がおとなしく座っている。

  

舞姫という名の菖蒲まだ蕾           節子

おとなしき梅雨の留守居の子犬かな   真理子

やや坂になっている道を上っていくと、畑のように一面に牡丹の木が植えられている。さらに坂を上ると楓の大木の奥に一軒の食事処のような家がある。広い玄関から中に入ると、二間続きの座敷に8鉢の花菖蒲が金屏風を背に並べられている。廊下にぎっしり敷かれた座布団に座り、お抹茶とお菓子を頂きながらゆっくりと鑑賞する。壁には俳句の短冊が飾られ、棚には庭園に咲いた牡丹や椿の花や紅葉の写真が分厚く積まれている。濡れ縁になっているテーブル席が空いたので席を移動する。籬(まがき)と竹から水が注がれる手水鉢(つくばい)、横に置かれた見頃の花菖蒲、木々に絡まった忍冬。この場所が特等席だ。

  

鉢のまま座敷に上げし花菖蒲        光子

屋根を越す木々より匂う忍冬       由紀子

つくばいも籬も湿り苔の花          節子

雨しずく落ちくる木立忍冬           光子

忍冬途切れ途切れに山の雨        真理子

横の小山から時折やさしい風が吹いてくる。竹林や庭の楓の青葉を揺らすほどではない風に、いつまでも座っていたいと思うが、次の客に席を空け外に出る。小雨の中坂を下り牡丹やその奥にあるまだ色づいていない紫陽花の道を歩く。少しぬかるんだ道は歩きにくいが何十種類もあるという紫陽花の道は捨て難い。小山を切り開いたような庭園には休憩所や句碑や仏塔なども建てられている。

   

蔓草をものともせずに大夏木        聖子

くちなしの香にぬかりたる築山へ    真理子

楊梅に立ち止まる人過ぎる人        節子

園庭のホースは束に梅雨に入る     真理子

約150種類15000株の花菖蒲と80種類の紫陽花の花庭園と説明書きにある。紫陽花はまだ彩なすほどではなかったが、雨をしっとり含み、これから色とりどりに花を咲かせ見物客の目を楽しませるだろう。唐風の門や小山に立つ句碑などは個人的な趣味で作られているので何とも言い難いが、緑の中の散策は気持ちがいい。帰りは道を間違えずに200号線を上り、八幡西区の「北九州ハイツ」にて昼食・句会を行う。