吟行記

平成19年8月号】


第36回 平成19年7月12日(木)

参加者  節子 光子 真理子 由紀子

虹の松原・鏡山(唐津市)

空梅雨かと思われた天気から一転、曇りがちな七月となった。台風も九州に近づいていたが、幸いなことに吟行日の12日は晴れ。旅行会社のパンフレットの美しい海と松原の景色と活きた烏賊料理に惹かれて吟行場所を唐津に決めたが、その景色を楽しむには天気が良いに越したことはない。思いがけず真理子さんから車を出しましょうという申し入れがあり、唐津湾が一望に見下ろせる鏡山に案内してくれることになっていたので、尚更この天気はうれしい。
 12日博多駅から唐津行きの地下鉄に乗る。この地下鉄は姪浜(福岡市)からJR筑肥線になり西唐津(佐賀県)まで乗り入れている。電車は筑前深江駅から海沿いを走る。ゆるやかに曲がった海岸線に沿って夏草茂る小さな駅に止まりながら潮風を入れている。虹の松原駅を通りすぎ、11時25分真理子さんの待つ東唐津駅に着く。真理子さんは福岡のご自宅から40分ほど車を走らせての出迎えだ。

停車するたび夏の潮匂いくる       節子

冷房車やゝ海側に傾いて          節子

緑立つ虹の松原駅小さく         真理子

駅を降りると案内人が乗客を呼び込んでいるので何となく同じ方向に行く。その先には団体客用のバスが一台。どうも「唐津ボート」に向かうバスのようだ。あわてて反対側の出口に向かう。真理子さんの赤い車が待っている。一足早に着いていた節子さんも車の中からお出迎え。皆揃ったところで今日の食事処「唐津シーサイドホテル」へと向かうが、すぐ近くに唐津城があるので先にちょっと立ち寄る。桜の青葉が続く石段や店先に「厩跡」の石碑が建っている民芸店を覘いてみる。店先の小さな白い花が印象的だ。店主に尋ねると「おもだか」だという。松露饅頭や唐津焼の看板を掲げたお土産店が何軒か並んでいる城の上り口を見て昼食へと急ぐ。

  

おもだかを店に育てて厩跡        真理子

 虹の松原の西側にある「唐津シーサイドホテル」は海に面し、レストランからは小山に聳え立つ唐津城や湾に浮かぶ島を一望できる。目の前を浮袋を持った親子連れが行き交い、若者たちが波乗りをして遊んでいる。白く細かな砂が続く浜には浜木綿が白い花を咲かせている。それらを見ながらいただく烏賊の活き造りはほんのりと甘く美味。

夏帽子二つしゃがんでをりし        光子

浜木綿の際まで寄せし波の跡      真理子

赤とんぼ波打ち際でユーターン       節子

サーファーに波まだ低き梅雨の海     光子

ホテルの玄関に「のりうつぎ」の白い花が大きな甕に何鉢か植えられている。駐車場はほぼ満杯で夏のリゾート地らしい。駐車場からすぐ横に続く虹の松原を車で抜ける。国指定特別名勝というだけあって約100万本の黒松の群生は見事という言葉しか浮かばない。巾約500メートル、長さ4.5キロの松林。2−3日前の雨にまだ乾き切っていない松林は緑のトンネルのようだ。17世紀初め初代藩主が新田開発のために植林し、その後今日まで防風、防砂防潮林として保護育成されてきたという。樹齢数百年の松ばかりでなく幼木もあるが、これらの松が視界の限り根を張り枝を張った様は独特の雰囲気がある。

縦横に幹伸びて松風涼し           光子

   

唐津には何度も足を運んだことのある真理子さんの車はスイスイと松原を抜け鏡山(284m)へと上る。入口の赤い大鳥居から展望台のある山頂までの道は絶好のドライブコースらしく、スピードが出過ぎないように路面をうねらせている。山頂に着くと広い公園になっていて駐車場も広い。鏡山神社、展望台、土産店、芝生広場、桜や紫陽花、躑躅に囲まれた池など市民の憩いの山のようだ。池には餌をやる人が何人かいて、それに鯉、亀、真鴨が群がっている。特に亀は激しく、外来種だろうか首筋に赤い線が入り眼も鋭く、小亀の上に大亀が乗り餌を奪い合っている。

亀かくも手足動かし梅雨晴れ間      由紀子

展望台へと歩いて行く。そこからの眺めはまさに絶景。唐津市街地、唐津湾、唐津城、虹の松原の全景が広がる。よく晴れた日には遠く壱岐までも見渡せるという。湾に浮かぶ手前の小さな島は「鳥島」、ぽっかりと鍋を伏せた形の島は「高島」。この高島は最近多くの人が押しかけている。島の「宝当神社」にお参りするためだ。湾に流れ込む松浦川を遡れば青田や低い山々が連なっている。いつの間にか高島にはぽっかりと雲が乗っている。

壱岐までは見えぬ海原梅雨晴れ間    節子

夏潮のはるか壱岐かもしれぬ島     由紀子

領巾振の頂高く夏つばめ          真理子

夏帽のごとき雲乗せ島ひとつ       由紀子

展望台に上る途中「松浦佐用姫(まつらさよひめ)像」に出会った。湾に向かって手を振る像は、恋人が朝鮮へと船出していく際、この鏡山から領(ひれ)を打ち振り別れを惜み7日7晩泣き続けて、ついに石になってしまったという悲恋物語のヒロインの像というが、悲恋とは程遠い眉目だ。見開いた眼、半開きの口からは歯がしっかり見え、何故このような表情にしたのか首を傾げる。大きな悲しみは人をあのような顔にしてしまうのであろうか。ともあれ佐用姫伝説からこの山は領巾振山(ひれふりやま)とも呼ばれている。

  

不美人でありし佐用姫合歓の花     光子

鏡山の中腹にある「ぽんぽこ村 ベゴニアガーデン」に寄る。入口にギョッとするほど大きなケズメリクガメがいる。卵を孵化させているらしい。温室にはベゴニア、横の部屋にはクワガタが展示販売されている。それぞれ多くの種類があるのには驚きだ。これだけのクワガタがいれば夏休みには子供達が多く集まるだろう。唐津の町を後にして海沿いの国道を福岡方面に向かって走る。並行して電車が走っている。二丈パーキングエリアに車を止め「サン・サン・シー」という物産店に入る。小さいお店だが観光協会の看板を掲げている。目の前の浜は「姉子の浜」といって鳴き砂と美しい夕日に大勢の人が訪れる観光スポット。沖には島(姫島)が浮かんでいる。店主の説明を聞きながら飲み物を注文。10句の句会。

  

姫島にまた夏の雲かかりけり        節子

夏草や深江駅家といふあたり      真理子

  

句会後、筑前深江駅まで送ってくれる。真理子さんは前原市の山を越えて(?)自宅へと。残る三人はJR筑肥線に乗って博多駅へ向かう。深江駅ではちょうど博多方面行きの電車が向こう側のホームに入っている。駄目もとで走り込むと車掌が三人を待ってくれている。単線のローカル線ならではのことだが、句会あとの気持ちの良い締めくくりとなる。真理子さんお疲れさまでした。ありがとう。今月は聖子さんが風邪のため不参加。次回の参加を楽しみにしています。



鳴き砂の「姉子の浜」