吟行記

平成19年9月号】


第37回平成19年8月9日(木) 

参加者 佳与子 節子 聖子 光子 真理子 由紀子

若松北海岸・千畳敷(北九州市 若松区)

 今年の夏は暑く全国各地で猛暑日が続いている。吟行はどこでもできるが、熱中症のニュースが毎日のように報じられているので、できるなら炎天下を避けたい。まして今月は東京暮らしの長かった佳与子さんが北九州に戻って来られ、新居への引越し作業進行中での参加。涼しさを感じられ且つ歓迎吟行句会に相応しい場所として「あしや句会」第一回の吟行地がよいのではということになり、若松北海岸の千畳敷とその海岸線沿いに建っている「マリンテラスあしや」を吟行地とする。

 8月9日10時20分折尾駅集合。今回は光子さんにも車をお願いし、途中二台の車に分乗して「魚庵 千畳敷」へ直行する。すでに穂が垂れている早場米の田んぼ道を海岸に向かって走ると、大きな「魚庵 千畳敷」の看板が見えてくる。ゆっくり車のまま門の中に入ると、桜や梅林の庭の先に駐車場がある。専用のマイクロバスが何台か並び、手入れをしていたらしい運転手が私たちの車を誘導。まだ開店前だが前日着く時間を伝えていたので、奥まった入口からすぐ仲居さんが出てきて案内してくれる。木々で覆われた石段の脇には杖や竹箒が整然と立て掛けられている。蝉の鳴くのを聞きながら打ち水された自然石を足元に注意しながら下りていくと、大きな提灯が下がり、太鼓が置かれている玄関が見える。軒には苔や軒忍などの草が生えている。ここでは慶事の祝いの席も多く設けられるのか、入口の右の部屋は「還暦」「喜寿」と書かれた立板や俵や水引細工などの飾り物が並べられている。大きな金魚鉢のある左側の部屋は待合所になっている。

  

 土間を通り抜けると、この料亭の見所でもある広い芝生の庭がひろがっている。L字型に建てられた本館と芝生の庭の奥にある離れ家があるが、本館の打ち水されたばかりの渡り廊下の一番奥の部屋へ通される。入口に達筆な字で「排句の会 ○○様」と書かれていたのには苦笑。同じ間違うなら「拝」の字でお願いしたかった。蜉蝣が一匹部屋の中に迷い込んでいる。薄い羽はうすみどり色。じっとして動かない。「俳句の会」に呼ばれた客のようだ。

打水でつなぐ庵のかげろひぬ     真理子

蚊遣香積みて庵の片隅に       佳与子

かげろうの生命の色やうすみどり    聖子

料亭に子供らの声夏休み        由紀子

鳴いている蝉の数だけ蝉の穴      節子

    

  11時前なので部屋に荷物を置いて庭から海へ下りる。ちょうど干潮時で千畳敷と呼ばれる岩場も随分姿を現している。遮るもののない海では距離感が曖昧になるが、岩場は沖へ100メートルくらいは伸びている。家族連れなどが潮溜まりを覗いたり岩場の潮を見ている。まっすぐのびる水平線には、時折大型船が行き交い、西方の岬には白い灯台、東方には島が浮かぶ。    

海鳴りの聞こえし庵に端居して   佳与子

巻きあげし砂を寄せ来る夏怒涛   由紀子

群れて立つ貝に引き行ゆく夏の潮   光子

海沿ひのカンナ蕾の未だ固く      聖子

   

 部屋に戻り昼食。3時まで部屋を使うことができるので、各自吟行して2時までにまたこの部屋に戻ることにする。それぞれに林の中、海岸などに散らばる。手入れが行届き、ほとんど草の生えていない広い芝生の庭を下って海へと向かう。先ほどより岩場がのび、まさに千畳敷。響灘の波が岩間に打ち寄せる。立秋は過ぎたが、まだまだ日差しは強い。水際で子供が三人浮き輪を持って遊んでいる。海月に刺されたと言いながら海の中でじっとしている。泳ぐでもなくただ暑さを凌ぐために水に浸かっている状態だ。(千畳敷辺りの海は遊泳禁止になっているらしい)砂浜には海草が黒く点々と打ち上げられている。干上がって踏むとカリカリと音をたてる。一人の中年の女性が砂浜を歩きながら何やら拾っている。聞けば「天草」を採っているという。本当は許可証がいるらしいが、少しくらいならと言いつつ浜から引き上げていった。ノートと鉛筆を持った私たちが何をしているのかと問うたので、ドキッとしたのかもしれない。潮溜まりに残された小さな魚や船虫を見て部屋へと帰る。だれが持って来たのだろう。大きな椿の実がテーブルの上にのせられている。

ばさばさと蝉の飛び交う森にいて    節子

刺された子海月の海にまた戻り     節子

船虫をちょっと踏む真似佳与子さん  由紀子

秋潮や岩場の泡のすぐに消え     由紀子

のぼりつめ船虫動きとめてをり     佳与子

海松のふさ黄に変わりをり岩畳    真理子

漁師の子なれば遊泳禁止でも      光子

夏深し拾ふ人なき貝の殻         光子

炎昼や人影すでになかりけり      聖子

 部屋にて10句出句、清記まで済ませる。退室の時間がきたので精算をして第二会場「マリンテラスあしや」に向かう。総ガラス張りの「マリンテラス」のコーヒーショップから芦屋漁港や響灘の波が寄せる遊歩道を見ながら、再度句会を始める。「あしや句会」に佳与子さんが参加ということで、皆最初から俳句モード。うーん!!すごい!!

 三人で始めた「あしや句会」は、聖子さん、真理子さんの参加、そして今回の佳与子さんの参加で、だんだん充実したものになっている。出句も3句から10句となり、もうそれが当然のようになりつつある。この変化は俳句をやっていくうえでとても大事なことで、取り合えず10句作れるという力なくして吟行句会を楽しむことはできない。仲間あっての俳句会。まずは裸の付き合いでということで、今回も「マリンテラス」の温泉で句会を〆る。皆さんこれからも宜しくお願いします。