吟行記

【平成20年3月号】


第43回 平成20年2月3日(日)

参加者 佳与子 節子 聖子 光子 真理子 由紀子

宮地獄神社 節分祭 (福津市)

「櫛田神社 節分祭」の押し競まんじゅうのような豆撒きに今年も参加してみるのもよいが、豆撒きは各地の神社で行われているだろうから調べてみる。役に立つのが十日恵比須神社の「開運御座」で戴いた神社暦。福岡県内の主だった神社の神事が書かれており、節分祭は十ヶ所ほど載っている。その中から「宮地獄神社 節分祭」を選ぶ。初詣や花菖蒲吟行で訪れた宮地獄神社は、広い境内を持つ県内有数の神社。節分祭も賑やかに執り行なわれるだろうし、「奥の宮八社めぐり」や木々に囲まれた広い境内を散策することもできる。句材の多い神社吟行を楽しむつもり。

 

2月3日の節分の日は日曜日だが、理解ある家族の了承のもと北九州と博多の中間にあるJR福間駅に10時10分集合。生憎前日から雨が降りだし、空は分厚い雲に覆われている。食事処の場所や時間を考えると、11時より13時の豆撒きに参加したほうがいいだろうと、先に食事処「大力」のある宮地浜へタクシー二台に分乗して吟行に行く。五分ほどで着くのだが歩くには遠い。
玄海灘に面した宮地浜は海水浴場にもなっているきれいな浜で、ゆるやかな長い砂浜のカーブが美しい。右に津屋崎漁港、左に新宮漁港が見え、沖には小島が浮かんでいる。この辺りは希少動物のカブトガニが生息していたり、ウミガメの産卵の地ともなっているらしく、浜を汚さないようにと看板が立てられている。看板の管理者は「福津市 うみがめ課」。「うみがめ課」のネーミングが面白い。希少動植物の保護を含む環境・清掃・資源リサイクルを担当しているらしい。ハングル文字のポリタンクなどが打ち上げられてはいるがゴミは少なく、舞い降りて波打ち際に並ぶ鴎たちが時折歩くのみの静かな浜辺。二月の小雨の浜辺には散歩する人も犬もいない。

下萌や浜への辻に地蔵尊         光子

かもめみな海に背を向け浜二月   真理子

足跡のみな浅かりし春の浜        節子

  

遠く新宮側の浜辺に白装束の一団がいる。何やら神事を執り行なっているようだ。近づいて見ようと歩いていくが、見た目より距離があり途中で諦める。霧雨が小粒の雨となって降ってくる。白装束の一団は浜から引き上げ、沖に見えていた小島は隠れ、空と海の境がだんだんなくなってくる。

うみがめの浜に追儺の神事かな   真理子

玄海へ向けし追儺に波の音      真理子

ひとすじの煙苫屋に下萌ゆる     真理子

海の家らしき建物のそばにサーフボードが並べられている。その軒先に雨宿りしていると雨は段々本降りとなり風もでてくる。「大力」の開店まであと15分。店まで歩き、店先の長椅子に座って待つことにするが体は冷えきっている。ようやくドアが開き部屋に通される。新鮮な魚が安く食べられる人気店なので次から次にお客が入ってくる。暖房の入った部屋で定食のアラカブの大きさに満足しながら、あれやこれやと話しているうちに13時。大急ぎでタクシーを呼び神社本殿横の駐車場に降ろしてもらう。

本殿の中では神事が始まっているようだが、豆撒きには間に合う。小雨から大雨になった境内に、傘を差した人たちが豆撒きを今か今かと待っている。静かだった本殿の中がざわつきはじめ、大綱の奥に裃を着けた善男善女が並ぶ。天気が良ければ本殿横に特設会場を作って大勢の人達に撒くようであるが、今年は大綱の奥からのようだ。いよいよ豆撒きの始まり。傘をさしていては危なく拾えない。コートのフードをかぶる人、そのまま濡れている人。「福は内」「鬼は外」と雨音にかき消されそうな声が大綱の奥から聞こえてくる。「櫛田神社」と同じと思ったが、豆がそのまま撒かれている。その中に袋に入った福豆が混じる。初めは遠巻きに眺めていたが、傘を置いて人の中に入って拾う。といっても飛んでくるのは直接の豆。頭や顔に雨粒と一緒になって降りかかる。少しずつ前に行っても豆は大綱に当たってすぐ下に落ちたり、思うように拾えない。足元の踏み砕かれた豆が気になりつつ、ようやく胸に飛び込んできた袋入りの福豆を一つ手にする。

    

大荒れの予報的中節分祭        節子

雨傘のひしめきあって年の豆      聖子

段々に声の高まる鬼やらい        聖子

膝までもジーンズ濡れて鬼やらい  真理子

大綱の奥より飛び来福の豆      由紀子

降る雨の下に飛び交ひ年の豆    佳与子

ぬかるみに拾ふ小袋年の豆      佳与子

雨の中の豆拾いは大変だと実感。お守りやお札の授与所に赤い袋に入った福豆が売られている。一つ購入。福引券がついているので引換所で開くと「福豆」の文字。ようやく「福来る」の気分になり福豆をもらう。本殿脇から入ったので、本来の入口である楼門を見ていなかったが、「ますます繁昌」の枡が据えられている。枡を潜って階段を降りようとすると鬼の着ぐるみの若い男性が参拝客に声をかけている。雨に濡れながらご苦労様と思ったが胸に小さくセブンイレブンのマーク。楼門の脇で「恵方巻き」を売っている。

恵方巻き売り子は鬼の着ぐるみで  由紀子

参道沿いの茶店の暖かい湯気に引き寄せられるように中に入る。土産物の並んでいる所にテーブルと椅子が置かれストーブが焚かれている。暖をとりながらの松ヶ枝餅とお茶にようやく一息つく。濡れたバックやコートから拾った福豆と買った福豆をテーブルに取り出してみると、拾った福豆の中に紙がはいっている。なんと福引券。豆を拾ったのは光子さんと二人なので、二人でそれぞれ開けてみると、光子さんの紙には梅の印、由紀子の紙には「開運」の文字。疲れ気味の体が俄かに元気を取り戻す。一月の恵比須神社の縁起物が浮かんでくる。雨の中長い階段を上ってまた戻ることを考えると少し億劫だが、何たって「開運」。そのままにしておくのは惜しい。皆の好意に甘えて二人で戻る。
引換所では何人もの巫女さんが次々に商品を渡している。勢いよく「開運」を差し出すと、巫女さんはにこりともせず、下の箱からドラエモンの絵の「うまい棒」二本を置く。一瞬何がおきたのかわからない状態で、「開運」と「うまい棒」が結びつかない。ジュース一本を手にした光子さんと「うまい棒」を手にした由紀子。人は自分の想像を超えた驚きに対しては言葉がなく、泣くか笑うしかないが、「開運」は大いに笑わしてくれた「福」なのかもしれない。

  

皆の待つ茶店に戻りタクシーで福間駅まで行く。駅前に小さな喫茶店を見つけ句会。外に出ると雨は止んでいる。北九州組は駅の上り線、福岡組には光子さんが加わり下り線へと向かい解散する。福岡組は電車から美しい虹が見えたらしい。大雨の後の清々しい「福」をいただいたようだ。

立春の虹つき抜けて汽車のくる   真理子

虹かかる一軒の家訪ねたく       節子

自宅に帰り着いてしばらく「うまい棒」を眺めていた。宮地獄神社とドラエモンのお菓子。ギャップの大きさに閃いた。これは教訓ではと。「うまい棒」を掴む手に「うまい話には気をつけよう」と神さまが立春を前に教えてくれたような気がする。これも「福」なり。


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