吟行記

【平成20年5月号】


第45回 平成20年4月3日(木)

 参加者 佳与子 節子 聖子 光子 真理子 由紀子

妙見神社・円通寺(北九州市・小倉北区)

近年の温暖化で桜の開花が年々早まっていたが、今年は2月3月と寒い日が続いたせいか、開花宣言が3月24日と出たものの近くの桜は全く花をつけていない。3月25日の佳与子さんとの下見でも、吟行予定の足立山麓の桜はチラホラと言うほどもなく、一つ二つと数えるほどの花。吟行日の開花状態が気になるところだが、三分は三分の、五分は五分の風情ありで詠めばよし。そう思って吟行日を迎えたのだが、桜の開花の醍醐味とでもいおうか、一週間であっという間に咲き満ちる。

4月3日小倉駅前のバスセンターに10時半集合。すぐに西鉄バスに乗り、約20分程の黒原一丁目で降りる。この辺りは足立山(標高597m)の麓で、桜、新緑、紅葉を楽しむことができる。バスを降りてすぐ見える「平和公園」の桜は、一週間前とはうって変わって満開に近く、花筵があちこちに敷かれ、屋台も何軒か準備している。公園の奥まったところに忠霊塔が青空に高々と建っている。やっぱり桜の満開は美しい。枯木立から一遍に桜の苑になった公園をしばらく眺める。

  

老人会四隅に幟花筵          佳与子

忠霊塔押し上げてゐる花の雲    真理子

楽しげに鳩散歩する花の下       節子

ここから少し坂を上ったところに「御祖神社」(妙見神社・全国妙見総本宮)がある。神社への道野辺にも境内にも桜が咲き満ち、鶯が鳴き渡っている。この神社は、道鏡の皇位事件で足の筋を切られ大隅に流される途中の和気清麻呂が、宇佐八幡のご神託を受けて近くの霊泉で足を癒し、近くの山(足立山)に登って天皇家の安泰を願ったことにちなみ、「足の妙見さん」と呼ばれ親しまれている。境内には絵馬と一緒に健脚を願って草鞋がたくさん吊るされている。狛犬ならぬ狛猪。これも清麻呂が猪に乗って宇佐八幡まで行ったことに由来している。本堂の横には薬師堂や稲荷神社があり見て回る。

  

食事処は道を隔てた「妙見山荘」。桜の時期は「花見弁当」のみ。坂や階段を上ったりしてお腹が空いていたのか、弁当の中身をデジカメに収めるつもりだったのに、気が付けば食べ終わっている。花を愛で、歩いて、北九州の街を一望しながらの食事は贅沢なひと時である。山荘の玄関に咲く桜は時折の風に散り始めている。神社の境内のしだれ桜は蕾だが、足立山を見上げれば淡くピンクがかった箇所がいくつもあり、並木道であろうか帯状になっている所もある。

  

百度石にかかる枝垂桜のつぼみかな  光子

薬師堂裏閉ざされて竹の秋         節子

晴れ渡る足立山麓木々芽吹く      由紀子

仰ぎ見て振り返りもし桜狩         真理子

妙見神社の境内には、横山白虹の句碑「夕桜折らんと白きのど見する」がある。医師であり、北九州市議でもあった白虹の句碑は市内に六基あるという。職務のかたわら打ち込んだ六十余年にわたる俳句活動の歩みは、北九州の俳句界を支えた歩みでもある。現在白虹・四女の寺井谷子氏が受け継ぎ活躍している。
神社まで来た道をまた下り、北九州に住んでいてもなかなか来る事のない山麓の町を歩いて「円通寺」へと向かう。この辺りは足立森林公園として整備されている所で、少し山側に行けば遊歩道があり、小倉北区と南区を分ける足立嶺を登ることができる。足立公園の満開の桜の下で遊ぶ多くの親子連れや山の手風の家々を見ながらつらつらと歩いて行く。

 

シャボン玉吹く子浴びる子花の下   由紀子

からたちの花咲き初めし屋敷町    真理子

花の下チャンバラの子等駆け出して  光子

ひとひらの落花を鳥の啄ばんで    佳与子

ふらここの互いに違い青き空       聖子

石鹸玉三つ結びし風の隙        真理子

地元の人にもあまり知られていない「円通寺」は、久女の句碑があるので俳句をする者にとっては一度は行っておきたい寺である。狭い境内には誰もいなく自由に散策する。奥の幼稚園も静かだ。砂利の敷きつめられた庭には桜や背の低いチューリップの花が咲いている。
「三山の高嶺づたひや紅葉狩」(昭和54年)「無憂華の樹かげはいづこ佛生会」(平成元年)の句碑が建てられたのは比較的新しい。この寺の先にある広寿山福聚寺には久女がよく吟行に通い、住職は久女のよき理解者であったらしい。句碑建立を地元の文化人達に呼びかけ、その住職の息子が円通寺の住職という縁で久女の句碑がここに建てられている。ここでは毎年1月「久女忌」が執り行われている。

  

禅寺の桜の奥の幼稚園          節子

久女碑の枝先長き山桜          聖子

寂として山桜散る山の寺        真理子

沈丁の香につつまれし久女の碑    光子

チューリップ咲く寺庭の久女の碑  由紀子

句会場はバス停近くの「サンマルク」なので、忠霊塔のある「平和公園」へと戻る。これ以上ないというほどの好天に恵まれ、午前中よりさらに桜は咲き満ちて、まさしく虚子の「咲き満ちてこぼるる花のなかりけり」の状態だ。花見客も多くなり、露店も数を増している。見回りのパトカーはゆるゆると車を走らせ、公園の近くのマンションでは引越しもあっている。花の中からみる景色はすべて春を惜しむかの如くゆっくりゆっくり動いている。


<「サンマルク」傍のベニバナマンサク>

花筵火鉢に炭も貸し出して      佳与子

花越しに煙都でありし街の空     真理子

ぼんぼりの屋台も人も花の中      節子

囀の森の上なる昼の月          光子

タクシーにて小倉駅へ。祝賀会出席の京都行き切符を購入して解散。よき一日でした。


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