吟行記

【平成20年6月号】


第46回 平成20年5月14日(水)

参加者 節子 光子 由紀子

南蔵院(糟屋郡篠栗町)

新緑の美しい五月の吟行をどこにしようかと問われた時、浮かんできたのが篠栗の山々。去年の五月吟行で行った飯塚の伊藤伝衛門邸の帰りの電車からみた新緑が思い出され、北九州と福岡を結ぶ「福北ゆたか線」にまた乗ってみたくなった。
5月14日、今にも降りだしそうな空に長傘を手に一人折尾駅から電車に乗る。途中、直方駅から光子さんと合流し城戸南蔵院前駅で降りる。同じ時刻に博多方面より節子さんも到着。駅の近くには大きな釈迦涅槃像のある南蔵院がある。ここが今月の吟行地。「篠栗四国霊場八十八ヶ所」の総本山で訪れる人も多い。
「日本三大・・・」は数知れずあるが、ここは「日本三大四国」のひとつ。四国霊場八十八ヶ所とは別に、小豆島四国、知多四国とともに篠栗四国と言うらしいが、弘法大師(空海)が修行した霊験あらたかな篠栗を訪れた尼僧慈忍が、1835年八十八ヶ所の創設を発願したのが始まりとされる。
何度か訪れたことのある節子さんについて行く。南蔵院まで徒歩五分。まさに駅前札所である。総本山で第一札所というだけに、広い駐車場があり、何軒かある土産屋には遍路グッズが置かれ、遍路宿の看板も掲げられている。駅の売店には土産物に混じって経本も売られている。

  

駅前にありし一軒遍路宿         光子

経本も売られ売店遍路駅         光子

山越えの道広くなり遍路宿       由紀子

「メロデイー橋」渡り札所へ楠若葉  由紀子

歩道のない道をトラックが次々と走るので、ボヤっとしていたら危ない。足早に南蔵院に入る。山中の静かな札所と思っていたが、入口の坂道を下りてくる人や脇の札所を出入りする人など人の多さに驚く。平日の天候も決していいとは言えない日にこれだけの人が訪れるのだから、花や紅葉の美しい休日には、車や貸切バスで駐車場がいっぱいになるだろう。参道の花木は目を楽しませてくれる。石楠花はほとんど咲き終わっているが、大山蓮華の花が一つ二つと咲いている。神社仏閣の多い九州貝寄風組の吟行だが、歴史ある建造物以外にこの花木の多さや美しさに惹かれて行くことが多い。
本堂を中心に「大師堂」や「不動明王」「三宝荒神」があるが、まず目に飛び込んでくるのが高さ11メートルもある不動明王像。不動明王のお百度参りのコースの案内板もある。山全体に文殊堂、阿弥陀堂、薬師堂などの札所が点在し、羅漢や地蔵があちらこちらとある。回りにはお賽銭の一円玉や五円玉が置かれている。

  

賽銭の苔にこぼれてシャガの花   由紀子

お参りの鈴聞こえくる若葉風       光子

谷若葉鳥の名前を当てながら      節子

「七福神トンネル」を抜けると広場があり、そこには南蔵院の名前を一躍広めた世界一大きな釈迦涅槃像が横たわっている。全長41メートル、高さ11メートルのブロンズ製のお釈迦さまの寝姿(自由の女神と同じ大きさ)は他を圧倒するものがある。平成七年に完成というから新しい。体内を通り抜けることもできる。寝釈迦の足裏は「仏足跡」が書かれている。

夏山の仏頭突然目の前に        節子

触りみる仏足跡や新樹光       由紀子

初夏の日差し寝釈迦の足裏に    由紀子

  

 新緑の山の中で眠るお釈迦さまのやすらかなお顔は、お参りに来るものに安らぎを与えるものだろうが、大きすぎて何やらユーモラスでもある。多くの供養塔から信者の多さが伺われるのだが、トンネルの両側には「仲良し地蔵銅板」が張られていたり、「仲見世通り」と書かれた通りには休憩所やお土産屋が軒を連ねていたり、講話が上手と評判のご住職の説法がビデオでながされていたり、至る所に訪れる者を飽きさせない工夫がされている。俗にいえば商売上手。「仲見世通り」の大柱には「住職と行く東北三大寺めぐり」の募集パンフレットが張られている。
はじめての霊場めぐりは、お堂や滝や花木を見ているうちに過ぎていき、年寄りばかりでなく若者や若い親子連れに人気があることに納得いく。
昼食は南蔵院内の食事処「たまや」で精進弁当をいただく。コンクリート打ちっぱなしのモダンな造りで、札所にいることを忘れてしまう雰囲気のお店。句会は少しはずれの茶店にて10句。
帰り道、札所の関係者だろうが、置かれているお賽銭の箱や笊からバケツの中にそのお賽銭を無造作に投げ入れている。人間のすることは俗っぽいが、池に投げ込まれたお賽銭の上を虹鱒が悠然とおよいでいる。

  

少しだけ雨はぱらついたが、昼からは初夏の日差しがやわらかく差し込み、暑くなく寒くなく清々しい風の中を歩くことが出来た吟行。帰りも「メロディー橋」の欄干に取り付けられている鉄琴を備えられたバチでたたき、「ふるさと」のメロディーを口ずさみながら駅へと向かう。それぞれ途中下車して帰路につく。
今月は都合で佳与子さん、聖子さん、真理子さんが欠席となったが、六月の夏行、定例句会でまたお会いしましょう。


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