吟行記
【平成20年8月号】 
 
 第48回 平成20年7月3日(木)
 参加者 佳与子 節子 光子 真理子 由紀子
 
 到津の森公園(小倉北区)
 
 久しぶりに「到津の森」を訪れる。娘の幼稚園の遠足の付き添いで来て以来だから約二十年ぶりかと思う。その時と比べて動物は少ないが、動物園独特の強い臭いはなく、森の中に点在する檻は、ゆっくり見て回るにはちょうどよい。
北九州市の中心街に程近い「到津の遊園地」は、長年子供達が動物と触れ合う場として親しまれたきたが、10年前の平成10年に経営する西鉄が閉園を発表。その後存続を求めての運動があり、市が基金やボランティアの募集などを行い、平成14年新たに北九州都市整備公社管理運営の「到津の森公園」として開園している。商業施設としての動物園、遊園地の賑わいはないが、緑豊かな市民の憩いの動物公園として、また子供達の学習の場として大きな役割を果たしている。

 7月3日、佳与子さんの住んでいる高見に集合し、車で総合体育館近くの「到津の森公園」の駐車場へと向かう。大通りに面した南ゲートは団体専用バス駐車場のみで、裏口にあたる北ゲート脇の普通車駐車場に止める。園内に入るとすぐに工事中のシートが張られ、「せせらぎ広場」と書かれた案内板の奥で作業の男達が働いている。小雨がパラパラと降ってきては止み、時折薄日が差す。森の明るさに梅雨明けの近さを感じる。奥から園児らや親子連れの声が聞こえて来る。最初に目に入ってきたのが猿山。ニホンザルの親子たちが岩山に遊んでいる。水たまりのある岩陰には老猿が動かず、元気のよい若い猿は常に動き廻っている。反対側はロバに乗ったり、山羊に餌を与えたりできる「ふれあいコーナー」。子供達に人気の場所だ。
 
 
夏休み前の動物園として         節子

木苺や猿の遊びもすぐ飽きて      光子

老猿の泉の蔭に動かざる       真理子

大南風山羊の白鬚からませて    由紀子
 
 レッサーパンダやプレリードッグの檻の先に「里の生き物館」や「郷土の森林」への案内板がある。園内を隈なく見て回るには時間がかかりすぎるので矢印の方へは行かず、道沿いのバードケージに鴛鴦がいるというので入ってみる。長い嘴のトキやシギ、鴨がいるが、お目当ての鴛鴦が見つからない。係り員に尋ねると、夏の間は夏毛といって地味な色をしているという。灰色に近い色なので鴨の種類と思っていた鳥が鴛鴦とわかる。モンローウォークしているアヒルの傍には卵が転がっている。アヒルは卵を温めないらしく、係り員が卵を拾い、ケージ内の鳥たちに餌を与え始める。
 
日盛りにあひるのたまご転がりて   光子

梅雨晴に拾ふ家鴨の卵二個     真理子
 
 突然近くの森から異様な雄叫びが聞こえてくる。姿が見えないだけに興味がわくが、ちょっと休憩。正面の南ゲートの管理センター内に入ってみる。夏休み向けの「カブトムシ、クワガタ展」の大看板が置かれている。管理センターの二階から展望デッキへ行く。ウッドデッキには吊り下げられた鳥かごにオウムやインコがいる。
「キバタン」という真っ白なオウムは、驚いたり興奮すると鮮やかな黄色の冠羽を立てる。もちろん冠羽を見せてもらう。あちらにちょっかい、こちらにちょっかいしていると、またしても雄叫びが間近に聞こえる。
  
キバタン                          夏羽の鴛鴦
 
緑陰のあればオウムの籠吊られ  佳与子

呼びかけにオウム応えて園涼し   佳与子

とけい草巻きつく空の鳥舎かな   真理子

少しだけ遠道になる片陰を
       節子
 
 雄叫びの主がいる。「フクロテナガザル」。愛嬌のある顔の下にある喉袋を利用して大きな叫び声を出す。一度鳴き出したら長い。檻ごとの鳥や猿を見ながら園内唯一のレストランに入る。メニューには子供の好きそうなものばかり。スパゲティー、オムライス、カレーなどテイクアウトにもできる容器に入っている。
 
フクロテナガザル
 
梅雨晴れ間猿の雄叫び長々と    由紀子

日の盛り猿吼えさせてみたりけり
    光子

遠吠えの猿喉ふくれ青嵐        佳与子

猿突として鳴きはじむ青葉風     真理子
 
 レストランの先は、子供汽車やメリーゴーランドのあるこじんまりとした遊園地。大広場の向こうに観覧車がゆっくり回っている。キリンやフラミンゴを見ながら誰も乗っていない観覧車の所までくると、一人が観覧車に乗るという。私も私もということになり、結局全員乗ることになる。一つの箱に一人。ちょっと寂しくもあり、ゆっくりと遠くの海や市街地、また園内を上から眺めることのできる時間。気持ちがいいなーと思っていた時にかかってきた娘の電話に「母さん今観覧車の頂上」。一瞬引いてしまったような間が気になったが、「いいねー」の返事。吟行を楽しむことのできる環境に感謝しつつ地上に降りる。
 
 
観覧車無人の箱を梅雨空へ     佳与子

梅雨空へ音なく上る観覧車      真理子

夏雲へ向かって上る観覧車       節子

涼風の少し揺らして観覧車
        光子
 
 水浴びをしている象。檻の奥から鋭い眼で見ているライオンや虎。高枝の葉っぱを食べているキリン。それらを見ながら管理センター前の池辺まで戻る。森の動物園は広すぎず狭すぎず、時折の雄叫びを除いては静かで、木洩れ日の池辺に休む。緑陰の涼しそうなベンチに座り10句の句会。
 
夏草を踏む虎に園空狭く         光子

池の面たたくトンボの奥に虎     真理子

合歓の花きりんの首の高々と      節子

緑陰にをりしライオン横を向き    由紀子

水浴びに涼しく象の耳しっぽ     由紀子
 
   
 今年の九州北部の梅雨明けは早く、句会すぐ後の7月6日。その後ほとんど雨が降らず猛暑日が続いている。この暑さの中、あの動物達は元気にしているだろうかと気になるこの頃である。都合で聖子さん欠席。
 
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