吟行記
【平成20年9月号】
 
 第49回平成20年8月6日(水)
 参加者 佳与子 節子 聖子 光子 真理子 由紀子
 
 門司港と山宿(北九州市門司区)
 
 年々夏の暑さは厳しくなっている。今年も七月上旬の梅雨明けから一ヶ月ほとんど雨が降らず、日中は35度前後、夜は熱帯夜が続く。普段元気にしている人も、この暑さの中を歩くには参ってしまう。退院したばかりの熟女参加の吟行ということもあって、暑さに立ち向かうより体を労わりつつ疲れを溜めないのが何よりと思い、のんびりと過ごせる場所を探す。以前門司港の近くに吟行句会に良さそうだという宿があると聞いていたので、さっそくネットで探し電話をしてみる。お昼のみでもよし、送迎バスもありということで決定。
 8月6日門司港駅改札口に11時30分集合。集合時間と食事処のみ決めての吟行句会。皆何度か訪れている場所なので、あとはその場で何とかなるだろうとお気楽気分で門司港駅に降り立つ。佳与子さんと二人レトロ街へと歩いて行く。跳ね橋やオルゴール店、ガラス細工の店など見ていると、あっという間に集合時間が迫り、急ぎ足で改札口まで戻ると全員揃っている。
 
   
<おなじみ「門司港駅」>                         <跳ね橋>
 
桔梗活けてレトロな駅の待合所     真理子
        
夏草のからまるレンガ倉庫群
        光子
        
跳ね橋へ行くも戻るも片陰を       真理子
 
 駅前の路線バスや観光バスの発着所に、今日の食事処「伯翠庵」のバスが待っている。他の客はいないようで、乗り込むとすぐに出発。繁華街を抜けると坂道になっている。山がすぐ迫っている地形は港町らしい。「伯翠庵」の大きな看板が見える。山道となり離合できないような細い径を抜けると、木々に埋もれたような宿に到着。ここからは港も海も見えない。山門を潜ると大小の建物が山側に点在している。打水された石畳に夏草が伸びている。通されたのは6棟ある建物の一つの茶室。ガラス窓には覆いかぶさるように竹や広葉樹の枝が広がっている。その先に町並みがわずかに見える。冷房で冷えた部屋には涼しげなお軸が掛かり、窓を少し開けると水音が聞こえる。
 
 
<食事処「伯翠庵」と山門>
 
木洩れ日の射すこともなき岩清水    節子
        
水音の絶えぬ庵の夏料理        由紀子
        
湧水の流れ涼しき音となり         聖子
        
清流に遊ぶ蟹をり爪赤し          聖子
 
 作務衣を着た年配の男性が料理を運んでくる。静かな語り口は避暑客に心地よい。他にも客が居そうだが、離れ家の造りは誰からも邪魔されない。この宿の繁忙期を尋ねると、ふぐ料理を出す冬場だと言う。蝉の鳴き声が絶え間なく聞こえてくる。食事の後は、誰となく寝ころんで昼寝をしたり句作をしたりで時間まで過ごす。
 
割り込みし声のいつしか蝉時雨     節子
        
チェーンソーの音時折に蝉時雨     節子
        
窓少し開け蝉時雨山の宿        由紀子
        
並びある靴にとまりぬ夏の蝶      佳与子
        
卓寄せて女四人の昼寝かな       佳与子
        
みんみんの声の調子のととのいて    光子
        
デザートの西瓜小さなグラス入り     光子
        
打水の乾きし路地を戻りけり      佳与子
 
 作務衣の男性と若く美しい女将が出てこられて、送迎バスに乗り込んだ私達を見送ってくれる。来る時には気付かなかったが、山門までの径は桜の樹が何本も植えられている。隠れ家のような宿を後にして門司港駅まで戻る。まだまだ真夏の日差しが厳しく、あまり歩きたくないので、近くの「門司港ホテル」のレストランで句作、句会を行なう。日の傾いた海峡は白々として、入道雲も立ち上がっている。行き交う船を見ながら珈琲一杯で粘る女六人の客にボーイさん達は嫌な顔を見せない。10句出句。
駅前の広場には人力車を引く若い男達が客待ちをしている。真っ黒に日焼けした車夫をよく見れば、すらりとしたイケメン揃い。電車から降りて来る観光客に声をかけている。広場の中央には飛び出す噴水があり、小さな子供達がびしょぬれになりながら遊んでいる。その様子をビデオに収めている若い母親たち。午後四時すぎの門司港には、まだ強い夏の日差しがキラキラと残っている。
  
<駅前の噴水で遊ぶ子供達>                   <観光用人力車>
 
入道雲同じ角度に傾いて            節子
        
ホテルより見える海峡夏の潮
        真理子
        
タンカーの向かふ海峡大西日
        由紀子
        
乗る客に団扇渡して人力車
           光子
        
噴水のそばに客待つ車夫痩せて      真理子
        
噴水が好き濡れるのが好きな子等     由紀子
 
 門司港駅舎と海峡はいつ来ても絵になる風景で、北九州一の観光地として定着している。ここから和布刈神社のある広場までトロッコ電車を走らせる計画があるらしい。今から楽しみにしている。       
 
 
 
 
<レトロ調の門司港駅待合室>
 
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