吟行記
【平成20年10月号】 
 
第50回 平成20年9月11日(木)
参加者 節子 聖子 真理子 光子 由紀子 
大濠公園周辺(福岡市中央区) 
 
 まだまだ日中は三十度あるが、朝夕涼しくなりようやく秋らしい風が吹きはじめる。9月11日10時40分大濠公園に集合。
 予定時間より少し早く着いたが集合場所に誰もいない。時間を間違えたか少し不安になったところに、それぞれが違う方向からやってくる。広い大濠公園は市の中心部にあって、夕方や休日にはウォーキングする人、ジョギングする人、犬の散歩する人など多くの人の憩いの場所であるが、平日のこの時間帯は人が少なく、早足で公園を抜けて行く人がチラホラ。集合場所のレストランの前は工事中なので、すぐに池に沿って歩き出す。公園の大部分を占める池には白鳥の形をした足こぎボートや手こぎボートが繋がれたままになっている。日差しがだんだん厳しくなり、木陰を求めて舞鶴公園へと向かう。
 
 
 
対岸はいまだ残暑の中にあり   節子
             
六艘のボート繋がれ流れをり   節子
 
 春には美しい桜が咲く広場を抜けて、道を隔てた舞鶴公園に着く。ここは福岡城址を中心にした公園で楠の大樹や躑躅や桜などの花木に覆われている。石垣を見上げながら菖蒲池や睡蓮(未草)の池に辿り着く。濃いピンクや淡い黄色の花をつけた睡蓮がまだ咲いている。池には一羽の青鷺が舞い降り、岸辺には黒々とした牛蛙が鳴く。しばらく休んだ後、石段を登り城址に沿った径を辿る。大木の枝が拡がり木陰となっている。         
 
城跡の径はここまでひつじ草   由紀子

秋日傘骨の歪みはそのままに   聖子
 
 
 
 城址の坂を途中から下りて国体道路沿いにある食事処に向かう。
 昼食予定の「ベネティア食堂」はきっかり12時開店の店らしく、少し店の前で待ちながら、この辺りからはじまるブティックなど小奇麗な店が建ち並ぶ「けやき通り」の街並みや、今下りてきた城址の木々やその上を流れる秋の雲を眺める。築50年の古民家を利用した「ベネティア食堂」は通りを覆うように枝を広げた欅に埋もれてしまいそうな小さな外観だが、店内は二階もあり、若い女性たちが次々に上っていく。美味しい料理を済ませ満足したところで、城址の隣に建つ史跡「鴻臚館跡」へ。
 以前平和台球場があった所に建つ「鴻臚館跡」は、入館無料で入口案内所の男性がパンフレットを渡してくれる。体育館のような建物の中には、発掘された礎石やかわらけが白線で囲まれ、往時の建物の一部が再現されている。また飛鳥・奈良時代から外交使節をもてなす迎賓館だったと裏付ける出土品が展示されている。1987年(昭和62年)末、平和台球場の外野スタンドの改修にともなう発掘調査は当時大きなニュースになっていた。
 
野球場在りしあたりや秋の風   真理子
              
鴻臚館在りし昔や葛の花     真理子
              
鴻臚館跡の礎石や葛の原      光子
              
白線で囲むかわらけ秋の土    由紀子
 
   
<鴻臚館跡と発掘初期の想定図>
 
 館内にはビデオなどあって館の歴史など流されていたが蒸し暑く、ざっと展示品など見て外へでる。昔の迎賓館の跡としては殺風景な建物だが、ここに遺跡の存在が確認されたことが大切なのだろう。
 さてこれからどうしようと思っていた時に聖子さんの上着がないことに気づく。記憶を辿れば睡蓮の池あたりで休んだところしかない。葛の花や城垣の仙人草など見ながら来た道を戻る。              
 
城跡の仙人草に白き垣        真理子
              
ここまでは香り届かぬ葛の花     節子
              
落し物探しに戻る蝉時雨       真理子
              
秋暑し忘れ置かれし上着あり     聖子
              
蓮の実のあらかた失せてしまひけり 光子 
 
  
 
 やっぱりあった。睡蓮の池から石段を上ったが、その石段の手摺に掛けていた。拾って掛けてくれた人の気持ちに何だかホッとする。心寂しいニュースが多い中、ちょっとした心遣いがうれしい。
 舞鶴公園から美術館の裏口にあたる一階ロビーに着き一休み。一列に並べられている椅子に座ると、吟行はよく歩くものだと実感する。句会は二階の正面玄関の横にある広い喫茶室。邪魔にならないように一番奥の窓際の席に陣取り、ガラス越しに大濠公園の少しだけ色づいた木々をみながら10句の句会。
 閉館近くなった美術館は人影もまばらになったが、大濠公園はこれから犬と散歩する人やジョギングする人などが行き交う。天神駅へと向かう途中、以前枯れ蓮刈りをしていた堀をみると、まだ蓮の花がほんのわずかに咲き残っている。ほとんどが実となり、その実も飛んでいるいるものが多い。この辺りは都心の憩いの場というだけあって、四季折々に楽しめる。また桜や躑躅の季節もいいかなと思いながら帰りの電車に乗る。
 万歩計付きの携帯に表示された歩数は約16,000になっていた。 
 
 
<福岡市立美術館>
 
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