吟行記
【平成21年1月号】 
 
 第53回 平成20年12月19日(金)
 参加者 佳与子 節子 聖子 光子 真理子 由紀子 
 
百道浜・シーホーク周辺(福岡市) 
 
 12月上旬の昇先生を囲んでの京都大原吟行句会の楽しかった余韻も収まった19日、「あしや句会」全員の参加で今年の納め句座をすることになった。福岡の市街に詳しい聖子さんのお世話で、ヤフードームの横に聳える「シーホークホテル」周辺を吟行する予定。博多駅からバスで20分程の百道浜のこのホテル周辺には、ドームを中心にしたホークスタウンや中国、韓国の領事館などもあり、少し離れた所には福岡タワーも聳えている。福岡の観光スポットのひとつになっている。
 
  
 
 集合場所のホテルロビーの華やかな生花や横のアトリウムに飾られたクリスマスツリーが年末のホテルらしく、気分を高揚させてくれる。11時集合。すぐに35階の食事処「ともづな」に行く。博多湾に向く店内からは志賀島や能古島が遠くに見え、眼下には都市高を走る車が小さくみえる。食事予約の時間には少し間があるので、お店の配慮で海の見えるテーブル席に案内される。
 
 バス揺れて毛糸帽の子又眠り       聖子

流れ藻のごとく人見え冬の浜       真理子

冬晴の玄海へ出る船らしく
          真理子
 
 昼食はカウンターに座り、一本の小ビールを六個のビールに注ぎ分けてささやかな乾杯。空とも海ともつかない窓の外の青い景色を眺めながら、目の前で握ってくれる鮨をいただく。シーホークの最上階を満喫し、ホテルのプライベートビーチのような美しい海岸に下りて行く。このあたりは2001年に放映された大河ドラマ「北条時宗」の撮影用の通りがセットされた所。蒙古襲来の舞台として、中世の商都・博多を再現していた。対岸の志賀島の金印、福岡城址横の鴻臚館など、博多は大陸に向けて展けてきた古い歴史がある。この辺りから出て行った遣唐舟。防人たちの万葉歌も多く残されている。
 
  
 
 金印の島くっきりと冬の凪         由紀子

影の砂に小さく着膨れて           節子

人工の浜に冬の日やわらかく      真理子
 
 この日の博多湾は穏やかで、まっ平らな水面を定期船らしき船がゆっくり動いている。防波堤に寄せる波音のみが大きく響き、波しぶきに太陽の光りが降り注ぐ。しぶく度に小さな虹をつくり、皆の歓声があがる。防波堤の内側には浮寝鳥のように白いブイが所々に浮かんでいる。砂浜には白い貝殻が残されているが、湾になっているからか、掃除をしているのか、漂流物らしいものはなく、松林が細く続いている。
 
 
 
 波しぶくたびに生るヽ冬の虹         光子

岸壁の隙間にドンと冬の濤         光子

波音に風邪の小声のかき消され    佳与子

堤防に虹冬の波しぶくとき         由紀子

灯台を冬の波より守る鎖         由紀子

冬凪の湾出てゆきし定期船        真理子
 
  この辺りは再開発事業によって埋め立てられ、福岡市の中で一番変貌した場所だと思うが、西側の樋井川の橋を渡れば、福岡タワーや海に突き出た商業施設「マリゾン」に行くことができる。高層ビルと新しい住宅街が広がる。東の方に目を向ければ玄海灘の上空から飛行機が姿を現し、山や街をかすめて消えていく。そういえば福岡空港がある辺りだ。
 
 着陸の飛行機冬のビルかすめ   真理子

眠る山かすめて機影着陸す     由紀子

枯芝に福岡タワー影のびて       節子

冬の日の落つ能古島志賀島      節子

遠巻きに鳶追ふ如き冬鴉
        聖子
 
 
 
 日が傾き始めると、暖かいとはいえ冬の浜。コートの衿を立てて歩く。犬と散歩する人や、自転車で通りかかり浜に下りてくる人もいる。福岡タワー方面はまたの機会に吟行するとして、ホテルに戻りロビー横のアトリウムに入る。全面ガラス張りのアトリウムの天井部分には帆がかけられ、南国の木々の間にテーブルが置かれている。暖かい紅茶や珈琲を注文して10句の句会。
あちらこちらと歩く吟行ではなく、のんびりと冬の博多湾を楽しむ吟行句会になった。忙しくなる歳の瀬を控える主婦にとって有難い。
一歩ホテルを出るとビルに落ちていく日が赤く西の空を染めている。隣のドームで開催されていた就職説明会に参加していたらしいスーツ姿の若者達が帰っている。急激に厳しくなった経済環境に、2009年はどういう年になるのだろうと思いつつ、それでもよい年になりますようにと願い帰路につく。 
 
  
 
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