吟行記
【平成21年3月号】 
 
第55回 平成21年2月3日(火)
参加者 佳与子 節子 聖子 光子 由紀子
  
節分祭 (福岡市博多区)
 
 今年の旧正月は1月26日。浅い知識しか持ち合わせていないと判っているが、漠然と旧正月が立春で、その前日の節分が一年の邪気を祓うべき大晦日にあたると思っていた。そもそも正月の日にちが毎年変わるとは思ってもいない。暦は太陽暦に統一されたが、中国では旧暦の正月(春節)を盛大に祝い、旧暦の不都合な部分を補う二十四節気を活用している。この流れを汲む日本も暦には書かれ、季節の指標としている。節気は太陽の軌道上の位置を分けているので、太陽暦では毎年ほとんど同じ日付となる。小寒、大寒、立春、雨水、啓蟄と続き、冬至で終わる。
 
  
 <東長寺>
 
 ともあれ年の初めの十日恵比須といい、節分祭といい、縁起ものの行事は神聖な気持ちと面白さがあり、今年も行かねばと気持ちが動く。さてどこにしようと考えたが、去年の雨の宮地獄節分祭を思い出すと、季節柄暖かい所に逃げ込める街中がいい。
 2月3日10時博多駅集合。今年も予報通りの雨。聖子さんが櫛田神社で豆を撒くらしいとは聞いていたが、一昨年のすざましい奪い合いの豆撒きに尻込みするところもあって、駅から近い「東長寺」の節分祭にまづ行ってみようということになった。神社ではなく寺の節分祭は初めてである。「東長寺」は弘法大師建立の寺として日本で一番古い霊場である。
 
    
<東長寺の山門と境内>
 
 大通り節分祭の旗なびく     節子
 
 寺町に追儺の声のひびきけり   光子
 
 広い大博通りに面した大寺に節分祭の旗が掲げられている。境内に一歩足を踏み入れると、桜の一樹が上にではなく横に冬芽を張らせている。雨にもかかわらず参拝の人は多く、テントの中に祈願、福引の受付が設置され、境内の奥には注連を張った場所で古札などを燃やしている。甘酒も売られ体を温めている人もいる。
薄暗い本堂に入ると、広い畳に多くの人が座っている。すでに豆撒きは始まっているらしく、七福神や善男善女が袋に入った豆やお菓子など撒いている。わずかに空いている所に座ると突然ミカンが飛んできたのにはびっくりしたが、前の人の肩越しに飛んでくるものを手で掴み取る。これがなかなかで、前の方ばかりに撒かれ、後ろまでは来ない。ミカンと飴一つを袋に入れると、寺の関係者か、箱の中に福豆など入れて、要る人にはさしあげますと配っている。「東長寺」の文字入りの福豆を有難くいただく。寺の配慮が嬉しい。
 
   
 
 本堂の横の大仏殿には高さ約11メートルもの「博多大仏」が鎮座している。大仏の台座の中はトンネルのようになっていて地獄絵、全くの暗闇、そして明るい地上へと抜けるようになっている。宝物殿には十一面観音像や多聞天像などが公開されている。それらを拝観して本殿へ戻ると、護摩焚き祈願祭が始まろうとしている。ご祈願やお参りの人でぎっしりと埋まった本殿に声明が響く中、僧侶三人が次々に護摩木を燃やしていく。火の粉が高く天井まで上り、煙が上のほうから全体を包む。
 
 護摩を焚く火の粉上がりし寒の寺  光子
 
 一文字の寄進の瓦鬼やらひ     佳与子
 
 
<東長寺の護摩焚き祈願祭>
 
 ご祈願を申し込む人が並び、広い本殿は人であふれている。途中で外にでるとまだ雨は降り続いている。本殿入口の紅白の幕の張られた特設の壇には水たまりができている。晴れていれば豆撒きはここで行なわれたのであろう。境内の六角堂の中に安置されている六体の弘法大師・薬師如来・文殊菩薩像などが開帳されているので拝観して寺を後にする。
 
 御厨子の小さき御堂鬼やらひ    佳与子
 
 この後櫛田神社の節分祭にも参加するのだが、櫛田神社の祇園山笠の追い山の時、この東長寺にも「清道旗」が立ち、正門前に並ぶ僧侶の前で舁き回る。明治元年に神仏分離令が発布されるまで、東長寺に属する神護寺が櫛田神社を管理していたことから、山笠は今でも東長寺に敬意を払い清道旗を立てていることを知る。
 
   
 <楠田神社境内>
 
 櫛田神社参道沿いにあるレストランに入り、昼食。見過ごしてしまいそうな小さな看板のお店。若いシェフの出すイタリアンは美味しい。
「いざ出陣」の心構えで櫛田神社に向う。会場に着くと、ちょうど綺麗所らしい日本髪の女性達が撒き終え、祝い唄と手一本で締めている。(日本髪の女性たちは何かのキャンペーンで節分にも参加だったと夜のニュースで知る)聖子さんとも合流。聖子さんの豆撒きには間に合わなかったが、「福」のオーラを分けていただく。
 
 山笠を飾り櫛田の追儺かな     佳与子
 
 年の豆入れしポケット見せくれし  佳与子
 
 雨にぬれ汚れてもゐる豆拾ふ    光子
 
  
 
30分おきに豆撒きはあるので、本殿のお参りや祈願などを受ける。一昨年祈願証は書いてもらったものの、そのまま帰ってしまったので、今年はお祓いも受けることにする。豆撒きに参加の人はそれぞれに福豆を手にしている。雨の中での豆撒きに傘を逆さにしている人もいたようだが、これはいただけない。近くの冷泉閣ホテルの喫茶室にて10句の句会。
 
 この日真理子さん欠席。締め切り日まで日にちがあるので、集まることのできる人でもう一度吟行句会をしようという話になり、2月17日(火)福岡の植物園と平尾山荘を吟行。この日も雨。句のみ掲載。
 
   
<平尾山荘>
 
草庵の庭とは小さ梅匂ふ       佳与子

二分乗るスロープカーや蕗の薹   佳与子

寒禽のただ鳴くばかり司教館      節子

菜の花の辺り明るき植物園       節子

白梅のあらかた散りて枝伸びて    聖子

春時雨古りゆくままの時計塔      聖子

草の庵ひとめぐりして春泥に     真理子

篠竹の茎のあらわに春寒し      真理子

噴水の音ふと途切れ春寒し      真理子

勤王の尼の庵や野水仙         由紀子

窓広し枝を広げし花ミモザ       由紀子
 
 
<福岡市立植物園>
 
  <平成212009Top年2月掲載> 外