吟行記
【平成21年4月号】 
 
第56回 平成21年3月10日(火)
参加者 佳与子 節子 聖子 光子 真理子 由紀子
 
 川下りと雛祭り(柳川市)
 
 三月はやはり雛祭り。今年はどこにしようかと色々迷った。あちこちで開催され宣伝されている。昔から日田や柳川は有名だが、福岡県では吉井町や八女の雛祭りも観光客を集めている。雛人形というより雛祭りの町の雰囲気を楽しみたいので、ネットでも探してみる。その中で往復の時間や独特の「さげもん」と呼ばれる飾り物を天井から吊るしている柳川の雛祭りは魅力的だし、その柳川に今年はランタン人形も飾られるというので、何度か足を運んだ人もいるだろうが、吟行することに決める。
 
 柳川に行くには西鉄電車の大牟田線に乗るのが便利。それぞれに乗る駅が違うので現地集合する。北九州からはJRで博多駅で降り、地下鉄に乗り換えて天神まで行く。ここで「特盛切符」を購入。これは往復乗車券と川下り乗船券と食事処がセットになっているもので、時間の制約がないので句会時間を気にせずできるお得な割引切符だ。
11時15分西鉄柳川駅に到着。改札口の向こうで節子さん、真理子さん、が手をあげている。川下りの乗船場まで遠くないらしいが、送迎バスがあるというので利用する。補助席全部使って全員乗車。
 
  
 
降り立ちし駅に始まる雛の旅    佳与子

二十人乗れば満席春のバス      節子

川下り乗船場行春のバス        節子

船べりに桃の枝さし客を待つ    真理子 
 
  乗船場は赤い欄干の橋を渡った「松月文人館」前。柳川ゆかりの文人たちの資料や歌碑などがあるらしいが、川下りの所要時間と昼食時間を考えると見学する余裕がない。さっそく「どんこ舟」に乗り込む。舟は何隻も並び次々に動き出す。舟の真ん中には炬燵布団が置かれ、靴を脱ぎ足を入れる。
熟年のグループや若いカップルなどと一緒に船頭の説明に耳を傾け、水辺の景色に目を向ける。芽吹きの美しい柳や思いの外透明な水面をすべるように進んでいく。年に一度の「水落ち」と呼ぶ堀の掃除の後だったようだ。
 
  
 
縦横にめぐる掘割柳の芽         節子

掘割に十字の水路こぶし咲く     佳与子

舟人の肩をひと撫で柳の芽      佳与子

堀に舟沈みてをりぬ舟遊        真理子

春暁の中ひっそりと四手網        聖子

乗合わす人と写真や木々芽吹く   由紀子
 
  有明海に面した柳川が、非常に平坦な地形故に水に恵まれなかったとは驚きだ。江戸時代に本格的に作られた堀割は人々の生活になくてはならないもので、また柳川城が巡らされた掘割によって難攻不落の堅城だったと聞く。今は観光用の川下りとして利用されているが、地面より低い川からゆっくり町を眺めるのは面白い。堀割はまさに生活の場の中を通っている。「汲水場」や堀を隔てて作られた「水中庭園」は柳川ならである。舟一隻通るだけの狭い堀や小さな橋を潜る度に頭を低くする。両岸には川下りの客用に2−3軒珈琲やビールや土産物を売る店があり、客の呼び込みをしている。桃の花や水仙などの春の花が咲く中に歌碑や句碑が建ち、木々の枝が水面すれすれに伸びている中を舟が行き交う。70分のコースがあっという間に過ぎる。船頭は昨年秋までサラリーマンだった人で、唄も棹捌きも新米。棹を引くたびに近くに座った人に水がかかったようだ。舟を漕ぐ練習中に何度か水の中に落ちた話など聞くと、風の強い日でなくてよかったと思いつつ、またそれもご愛嬌かなと思う。
 
  
 
芽柳の先の水面につきさうに     光子

水澱むところほうけて蕗の薹    真理子

からたちの棘を育む春の風     真理子

水舞台めく雛壇に舟寄せて     真理子

その家の雛飾られ汲水場にも   真理子

差して引くたびに舟棹春の水    佳与子

差し交わす枝をくぐりて雛の舟   佳与子

すれ違う船頭の歌春の風        節子

白秋の歌碑にけむれる糸柳    由紀子

川下る舟は雛の館まで        由紀子

終着のこヽ船着き場雛飾り      佳与子
 
 
 川下りの終点は柳川藩主の立花家の別邸「御花」。柳川観光の中心的な「御花」は明治時代に建て替えられた建物だが、史料館、大広間のある本館や西洋館や「松濤園」と呼ばれる庭園は、管理を市に任せることなく16代当主が宿泊や宴会場、料亭として現在も運営している。

午後1時昼食。食事処の和室で鰻のセイロ蒸しやドジョウの柳川鍋の付いたご膳をいただきながら過ごし、食後本館の雛の部屋へと向う。大広間の金屏風の前に雛の段飾りが二対展示されている。天井から「さげもん」が端から端まで吊るされていて、華やかな雛飾りを一層華やかにしている。柳川伝統の七色の糸で巻いた大小の鞠と縁起のよい鶴、兎、宝袋など手縫いの小さな縫いぐるみは、見ていて温かな気持ちになる。部屋から庭園の松や池の鴨が見える。仙台藩から輿入れされた姫のために故郷の松島を模したといわれる庭の松は約280本、古木の手入れが大変だろうが、見応え十分である。
 
  
 
 一部屋に立花藩の雛飾り       由紀子

「さげもん」を見上げ雛の顔を見ず 由紀子
 
 西洋館も一巡りして「御花」から出る。近くには鰻屋や土産店など堀を挟んで建ち並んでいる。どの店内にも「さげもん」が吊るされ、堀の中にも小さな雛壇が飾られている。一段と大きく太った雛が飾っているが、これが夜になると点灯されるランタン雛なのであろう。昼間見ると風情に欠ける。少し堀からはずれた所に北原白秋の生家がある。江戸時代に藩御用達の海産物問屋として栄え、白秋が生れた頃は造り酒屋となっていた旧家である。なまこ壁の生家には入らず外観のみ見学。堀沿いの道に戻り、有明海で採れた魚貝類が売られている店など見て回る。「白秋の散歩道」方面を散策した節子さん、真理子さん達と合流する。
 
  
 
ことさらに小さき道具雛の市       聖子

店先に浅蜊の袋積み寄せて      由紀子

芽柳に佇てば三味の音いずこかに
  佳与子

ひもすがらゆく舟ながめお雛さま    真理子
 
 帰りはタクシーにて西鉄柳川駅近くの珈琲店へ。10句の句会。駅の売店で美味しそうな蒲鉾などお土産に買って特急電車に乗る。それぞれに降りて解散。
 
   
 
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