吟行記
【平成21年5月号】 
 
第57回 平成21年4月6日(月) 
参加者 佳与子 節子 真理子 由紀子 
 
南蔵院 (糟屋郡篠栗町) 
 
 今年の桜の開花宣言は3月13日。福岡市が日本で一番早かった。例年開花宣言からおよそ一週間で満開なので3月20日頃が見頃となるはずだったが、宣言後の気温が上らない。標本木の開花が早すぎたせいもあるが、冬に戻ったような10度前後の気温に、桜も人間も身震いをしてしまった。開花している木もあるが、全くほころんでもいない木も多い。ようやく3月末になって、福岡のあちこちで満開の便りが聞かれるようになったが、いつになく各地ばらばらである。 
 

 
 今月は昇先生の地域文化功労賞受賞祝賀会を12日に控えているので、月始めの皆の都合のよい日に吟行句会をすることになった。節子さんが調整・お世話役となり6日に決定。吟行地は去年の五月訪れた篠栗四国霊場八十八ヶ所総本山の南蔵院。巨大寝釈迦像で名を馳せている篠栗の一番札所である。
山の中なので新緑の美しさは格別だと思うが、桜は散ってしまっただろうか、石楠花は咲いているだろうと思いつつ「福北ゆたか線」に乗って城戸南蔵院駅に降り立つ。この日は暑くもなく寒くもない春の風が吹き渡っている。初めての佳与子さんに鉄琴のバチで叩きながら渡る「メロディー橋」の説明をしながら南蔵院まで行く。 
 
  
 
石楠花を咲かせ一番札所かな     節子

山寺の案内板にも春の蠅       佳与子
 
 花冷えのおかげで入口の桜はまだ美しく残っており、風が吹くたびに花片が舞い散る。入り口から続く坂道や横を流れる川には花屑が片寄せられ、本堂から大きな不動明王像までの道には石楠花やキブシの花が咲いている。その上にも桜の花びらが降り、また空へと舞い上がっていく。木には名札のつけられたものもあるが、名前のわからないものも多い。花木の名前をいいながら、また何の花だろうかと言いながら、脇に祀られている地蔵に手を合わせて上っていく。山の上を見上げれば竹林が美しい。
巨大不動明王像のある広場から細い階段を上れば滝が音をたてて流れ落ちている。回りには古くからの不動明王の像などが何体も祀られている。岩場には鎖を持ちながら上る所や岩のトンネルを潜ったり、健脚でないと行けないところもあるが、岩場にある多くの羅漢像の前の籠には一円や五円のお賽銭が置かれている。至る所にある名前入りの羅漢さまには驚く。 
 
  
 
目の前に花びらの吹き上がり来る   節子

賽銭の籠に米粒花屑も         真理子

鎖引き這い上る山竹の秋        真理子

賽銭の籠に降り込む花の片      由紀子
 
  
 
昼食を先に済ませることにする。去年と同じ「たまや」。もう一軒うどん屋兼土産店があるが、「たまや」の精進弁当をいただく。
南蔵院は広く、その敷地内には招き猫像や大きな大黒さまや観音像など、大小いろいろな像が建てられている。「七福神トンネル」の中にも大きな「七福神」が祀られている。その中を抜けていく。両側に名前の書かれた「仲良し地蔵銅板」がびっしりと貼られている。その数もまた数知れない。トンネルを抜けると広場になっており、虹鱒の池がり、大きな藪椿の木や石楠花が咲いている。茶店横のスロープを進み、階段を上ると、さらに広いコンクリートの広場に「さば大師」像、その先に、初めての人には驚くほど巨大な寝釈迦像がある。人が前に立つとその大きさがわかる。山の中腹にある広場からは駅や道路、回りの緑の山々がよく見え気持ちがよい。 
 

 
寝仏の足ふくよかに春風に       節子 
 
 仏足の横ではお守りやお札が売られている。店先に何人か人が並び、何か投げている。見ると「俵投げみくじ」とかで穴に入ると有難い商品がいただけるようだ。俗っぽい話になるが、ここの住職が一億円ものジャンボ宝くじや高額の宝くじが何度かあたったらしく、それでこの寝釈迦像を建てたと嘘か真か判らぬような話を聞いてはいたが、本当らしくその記念碑まであった。ひっそりと札所を回ることもよし、あれもこれもありの少し俗っぽい霊山を回ることもよし、人それぞれ思いあっての札所巡り。寄進の像の多さに驚きもするが、楽しく札所巡りをするのもいいのかと思わせる南蔵院である。
「七福神トンネル」近くの階段を上ると四阿があるので、そこでしばらく句作。三椏の花や石楠花に囲まれ、遠くに山々が見える。遍路姿の一行がトンネルを抜けて行く。水御籤を引いてみる。並べられている御籤紙を一枚取り、小さな池に浮かべると文字が浮かびあがってくる。
 
    
 
山寺のここにも手摺桜散る      佳与子

囀りや四阿山の中腹に         由紀子

水に浮く御籤大吉花筏         由紀子

水占の文字にさざ波風光る      真理子
 
茶店で「ぜんざい」をいただいて10句の句会。桜と石楠花の花の札所を詠むことのできた吟行となった。
 
2009Top