吟行記 【平成21年7月号】 |
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第59回 平成21年6月12日(金) | |||
参加者 佳与子 節子 真理子 由紀子 | |||
箱崎の紫陽花と菩提樹の花(福岡市東区) | |||
梅雨入り宣言後、北部九州はほとんど雨が降らず暑い日が続いている。今月はどこに吟行に行こうかと色々考えたが、6月はやっぱり花菖蒲や紫陽花を見ながらの吟行地に落ち着く。どこか初めての場所で花を楽しめるところはないかと地図を広げてみる。新幹線で行く山口、特急利用の別府なども検討してみたが、目的地までに時間がかかりすぎる。いつも良きアドバイスをしてくれる節子さんに相談すると、筥崎宮の「紫陽花まつり」が開催中で、しかも近くに菩提樹の寺があると知らせてくれる。さっそく吟行地に決定。 | |||
6月12日(金)。曇り空だが雨は降りそうになく暑い一日になりそうだ。佳与子さんと箱崎駅に降り立つ。高架の駅になるまでは、箱崎駅の目の前が筥崎宮の裏参道だったのだが、新駅になってから少しばかり遠い。途中珍しい鉢植えの花を見つけ一花摘まみ宮へと急ぐ。(後で銀梅花と知る)境内の絵馬堂に10時30分集合。節子さん、真理子さんが待っている。ご実家が箱崎の節子さん。絵馬堂に節子さんのお父さんの名前を見つける。 | |||
![]() ![]() <箱崎駅> <銀梅花> |
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父君の名の掲げある梅雨の堂 真理子 | |||
本殿裏横に「紫陽花まつり」の旗が掲げられ、「紫陽花園」への入口がある。何度も来ている筥崎宮なのに、この入口に覚えがない。この辺りは楠などの大樹が枝を伸ばし昼間でも薄暗く、いつも足早に素通りしていたのだろう。「紫陽花園」の入口には鉢植えの紫陽花が美しく並べられている。中に入ると人の背丈より少し低いくらいの紫陽花の花が一面に広がっている。広さと色鮮やかさに驚く。パンフレットには、開園期間は6月の一ヶ月のみで、約1700坪の敷地に約3500株の紫陽花と書かれている。 | |||
給水のホース四葩に巡らして 節子 株ごとに括る紫陽花花まつり 由紀子 一株の墨田の花火という四葩 節子 母と来しあじさい園の四阿へ 真理子 |
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青にピンクに白にと色とりどりの紫陽花の径を一巡りする。赤に近い濃ピンクの紫陽花が一際輝いて見える。紫陽花に囲まれた休憩所は、入替り立代りして誰か座っている。しばらく紫陽花を眺め、にわか仕立ての茶店に入り梅が枝餅で一服。十分紫陽花を観賞した後、食事処「梅嘉」へ向う。ここは江戸時代の終わり頃仕出屋として創業し、現在は五代目。ランチメニューはひとつのみだが、とにかく安くて美味い。特に「がめ煮」は絶品である。 | |||
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近くに鯨塚があるという。公園のような網屋天神の境内に、少し上部が欠け、文字も薄くなった墓標がひっそりと建っている。小学生が先生と一緒に社会勉強なのか、鯨塚の前で何かメモをとっている。明治21年博多湾を回遊していた鯨を捕獲し、その鯨の霊を弔うために塚を立てたらしい。また「おきうと」の店もあるというので覗いてみる。博多の朝は「おきうと」ではじまるというほど親しまれていたものだが、最近は食生活の変化で店も少なくなっている。店内に誰もいないので声をかけずに店を離れるが、「トコロテンあります」の旗に、味の濃いおきうとを買う人が少なくなったことをさらに実感する。おきうとの原料はエゴノリ、似ているトコロテンは天草が原料である。 | |||
![]() ![]() <食事処「梅嘉」> <鯨塚> |
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南風吹く昔は海でありし町 佳与子 箱崎に鯨の墓標額の花 佳与子 鯨塚といふもの梅雨の網屋町 真理子 町中の鯨の墓標草茂る 由紀子 おきうとの梅雨の店先開け放ち 真理子 濃あじさいおきうとを売る店先に 節子 |
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箱崎の「きんしゃい通り」商店街を抜けて行く。昔から筥崎宮の門前町として箱崎千軒と呼ばれるほど賑わい、呉服屋や造り酒屋が建ち並び人馬が行き交った箱崎。戦後の復興も目覚しく昭和40年代ごろまでは福岡有数の商店街だったようだが、西鉄電車廃線で人の流れが変わり、商店も郊外型の大型店舗に押され、昔のような賑わいはない。それでも所々に昔ながらの青果店や魚屋が軒を連ね、格子窓の家や細い路地がある。今の福岡市にまだこんな商店街が残っているとは発見である。 | |||
![]() ![]() <箱崎の路地> |
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筥崎宮の近くに恵光院(えこういん)という寺がある。千利休が豊臣秀吉を招いて茶会を開いたという寺で、筥崎宮の社坊である座主坊の末寺とある。大きくはない寺の境内に菩提樹の大樹がある。その花が満開。境内に敷きつめられた小さな砂利に花が零れ落ちている。どちらかというと地味な花だが、枝を広げた菩提樹の下にいると甘い香が漂ってくる。煩悩ばかりが渦巻く頭にやさしい匂いは気持ちが良い。寺から出された冷たい麦茶に一息つき寺を後にする。 | |||
![]() <菩提樹> |
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菩提樹の枝を広げて寺の梅雨 節子 うつむいて菩提樹の花静かなり 節子 菩提樹のかおり籠もれる梅雨の寺 真理子 梅雨晴れの菩提樹の花ぽろぽろと 節子 |
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恵光院から筥崎宮の参道を浜の方に句かってまっすぐ歩いて行く。浜は山笠のお汐井取りの浜である。国道3号線を渡ると、松林の間に赤い鳥居のある浜が見える。神事の行なわれる浜を汚さないためか鉄格子の門があり中に入れない。残念だが仕方ない。 | |||
参道は浜まで続き楠若葉 由紀子 楠若葉一の鳥居の遠く見え 由紀子 街路樹の等間隔の片蔭を 佳与子 |
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![]() ![]() <参道の常夜燈> <お汐井取りの浜> |
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近くの福岡リーセントホテルにて10句の句会。真理子さんは地下鉄「筥崎宮前」駅より家路へ。他3名は箱崎から馬出(まいだし)の商店街へと抜けて吉塚駅へ向う。大通りから一歩中に入ると、狭く電信柱の立つ通りに走る車が多く、人や自転車は車を避けながら通っている。町並みは小さな商店と高層マンションが混在している。去年できたというパン屋はレトロ調の建物。次から次にお客が入っていく。クロワッサンやクルミパンなど種類も多く、美味しい匂いをさせている。昭和初期風な建物は商店街にしっくり馴染み、懐かしさを感じさせる。 その先に「博多曲物」(まげもの)の看板を見つける。店内は狭いが、伝統工芸の檜のお膳やお重が並べられている。祝い事に使われるものだが、棚に積んでいる商品に埃がうっすらかかっている。伝統工芸といえども継承させるのは難しいかもしれない。 これからまだまだ変貌していきそうな箱崎の町。暮らしやすい街になってもらいたいと思いつつ吉塚駅に着き解散。それにしてもよく歩いたなー。 |
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![]() ![]() <レトロ調のパン屋> <「博多曲物」店> |
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