吟行記
【平成21年9月号】 
 
第61回 平成21年8月7日(金) 
 参加者   佳与子 節子 真理子 由紀子
 
 皿倉山 (北九州八幡東区)
 
八月の吟行地を決める時は、炎天下を避け涼しい場所を考える。「皿倉山」と聞いた時一瞬暑いのではと思ったが、考えてみれば歩いて登るわけではなく、ケーブルカーやスロープカーを使えば難なく頂上に着く。
北九州に住んでいれば大体どこからでも見える皿倉山は、多くの市民が一年を通して自然を満喫できるようにイベントも多く、また交通手段も充実している。 
 

           
         <帆柱ケーブル山麓駅>                   <駅舎内の七夕飾り>
 
例年になく遅い梅雨明け宣言後の8月7日、八幡駅に10時すぎ集合。佳与子さんのご主人・勝利さんの車で帆柱ケーブルの山麓駅まで行く。「七夕祭り」最終日の駅舎には何組かの親子連れが、飾られている七夕飾りをカメラに収めたり、短冊に書いたりしている。20分間隔で運行されているケーブルカーに乗り山頂に向う。天井までガラス張りになっている車輌は緑の濃い木々を分けるように急勾配を上っていく。下ってくるケーブルカーとすれ違う辺りから視界が開け、段々北九州の街全体が見えてくる。歓声をあげているとすぐに山上駅。ここからスロープカーに乗り換える。2007年末にリフトから替わったスロープカーは乗り場から車輌へ段差のないバリヤフリーになっており、座席も全席北向きで北九州のパノラマを楽しむことができる。以前のリフトはスリリングな乗り心地だったが、このスロープカーによって高齢者や車椅子の人など多くの人が山頂にいけるようになったのは喜ばしいことだ。スロープカーの到着場所はそのまま展望室へと続き、エレベーターで屋上展望台に行くことができる。 
 
  

<山頂のテレビ塔>                              <国見岩>
 
山頂の広場に立つと、雲か霧かが手の届くところに東南の山側から北西の海側へと流れている。白く霧がかった景色の中にテレビ塔が何基も建ち並んでいる。暑いと思っていた山頂は涼しい風が吹き渡り、南側には福知山山系、東側には足立山山系の山々がうすうすと連なっている。展望室、白秋の歌碑、昆虫碑などを見ながら、少し下ったところにある「国見岩」まで行くことにする。 
 


<八幡製鐵所方面>
 
夏空へ雲次々に溶けてゆき    節子

昆虫碑ありて山頂風涼し
     由紀子 
 
スカートの真理子さんには、ちょっと酷だったかもしれないが、木や草の覆う小道を下りていく。朝露か霧で濡れた急な小道は滑りやすい。それでも名前は知らないがひっそりと咲く小花に引き寄せられながら、下へ下へと下りて行く。萱らしき草の羽毛のようなヒゲに小さな露の玉が美しく、茂った草の中に咲くオレンジ色のノカンゾウが目にとまる。先頭の節子さんの「着いたよー」の声に元気をもらい国見岩まで辿り着く。足がすくむ程の絶壁に立つと、まさに眼下に豊前、筑前、遠くには本州まで見える。謂れは昔に遡るが、現在ロッククライミングの練習場になっている。
広場へ戻り、スロープカー発着場のある展望室へ向う。途中下の方へ続く一本のレールを見つける。遊具なのか作業用なのかわからないと思って眺めていると、作業服の男三人の乗り込んだトロッコ箱がスーッと下りていく。山頂の作業にはうってつけのトロッコだが、さて下から上がる時はどうするのだろう。 
 


<黒崎方面>
 
名も知らぬ山の花なり霧じめり  佳与子

草スキーめくトロッコの茂りへと  真理子

夏霧のうすれ現れ英彦の峰    由紀子

半島の夏山移る雲の影         節子

夏霧の通り過ぎたる湿りかな    由紀子
 
 展望室に行ってみる。階段も壁も濡れている。雲や霧がかかる度に水滴を残していくのだろう。スロープカーと同時に出来た展望室は広々として気持ちがよい。勝利さんが吟行日前に下見をして、展望室にレストランがあることを知らせてくれたので、弁当持参としていたが、ここで昼食。北九州の街を見下ろしながらの食事は格別である。レストランの入口付近に大きな木の根株が展示されている。昭和59年に台風によって倒された皇后杉の根株を堀り上げたものと説明にある。皿倉山の見るべきもののひとつ皇后杉林があるが、尾根続きの権現山付近にあるので、次回歩いて登る時にじっくり見ることにする。
午前中の霧はすっかり消え、真っ青な空がどこまでも広がり、東を見れば関門橋、正面には工場群とその先に風車と響灘、西を見れば遠賀川や中間市まで見える。北九州を案内するには、まずこの皿倉山に上るのが一番だと思えてくる。蝉の声に混じり鶯や相思鳥の鳴声も聞こえてくる。 
 
  

<皇后杉の根株>                       <ビジターセンター>
 
八月の山守相思鳥鳴いて      真理子

鳴きやめばもう次の蝉鳴いてをり  節子 
 
 展望台からスロープカーに乗ってケーブル山上駅まで戻る。このまま句会も山の上でしようということになり、「皿倉山ビジターセンター」の休憩室を使わせてもらう。ここは閉館した「山の上ホテル」の後をNPO法人の帆柱自然公園愛護会が運営していて、この辺り一帯の動植物について何でも知ることができるようになっている。
休憩室は自然の風のみで少し暑い。一人の熟年男性が、大きな声で若いアナウンサーらしき女性に鳥の渡りについて話しているのが気になりはしたが、ゆっくり何の気兼ねもなく句作・句会ができるのがありがたい。
 
午後よりは霧雨はれて下山かな   佳与子

山小屋に渡りの話秋立ちぬ      真理子 
 
山上駅前の七夕笹に夕日が差している。午後4時にもなると客も少なく、ケーブルカーの最前席に座り山麓駅へと下りていく。ここからすぐシャトルバスが八幡駅まで出ているので乗車。途中佳与子さんが降車し、三人は八幡駅からJRに乗り帰路につく。
のんびりと山頂からの絶景を楽しんだ一日となった。 
 


<山上駅>
 
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