吟行記
【平成21年11月号】
 
第63回 平成21年10月7日(水) 
 参加者 佳与子 節子 由紀子
 
 駕与丁公園(福岡県糟屋郡)
 
 「駕与丁」を「かよいちょう」と読めるのは地元の人か訪れたことのある人だろう。聞き慣れない名前の公園に三年前初めて訪れた時、まづその広さに驚き、池の回りの桜の美しさに驚いた。公園といえば大濠公園や舞鶴公園を思い浮かべるが、設備の充実さは駕与丁公園が勝っている。福岡市の隣の粕屋町に拡がるこの公園は、約30ヘクタールの広大な敷地内に駕与丁池を中心にして遊歩道や池を渡る橋や野鳥の観察小屋などがあり、総合体育館の「かすやドーム」や運動場を併設している。
 
   
 
 今月の吟行は「駕与丁公園」の散策。10月7日(水)佳与子さんと由紀子は、いつものように折尾駅で合流し香椎へ向う。香椎駅から香椎線宇美行きの二両電車に乗り込み、駅から六つ目の駅「酒殿」(さかど)で降りる。回りは色づき始めた稲田が広がり、駅舎というほどもない小さな建物の中に駅員が一人いる全くのローカル駅で、切符は上り線下り線の両出入り口に置かれた箱に入れるようになっている。駅舎の前で節子さんが手をふっている。今日の参加メンバー三人が揃う。目の前の稲田の道を歩いて、稲田の途切れる国道沿いにある食事処に向う。食事にはまだたっぷり時間があるので、ゆっくり畦道に咲く露草やエノコロ草など見ながら散策する。所々にある畑にはブロッコリーや冬野菜の苗が植えられている。東南の方角には太宰府に続く山並みが連なっているが、稲田の近くに小高い山がポコンポコンと並んでいる。かってのボタ山らしい。
 
 
 
改札を出れば稲田の続く道       佳与子

降りて来し駅まだ見える稲田径     由紀子
 
 食事処の近くに小奇麗な倉庫が建っている。建物は新しく、農作業用の個人の倉庫にしては大きいので、興味深々で入口を探す。敷地内で何か作業をしている男性二人に佳与子さんが声をかけてみる。
どうやら酢の蔵らしく見学もできるらしい。普段は予約がいるそうだが、佳与子さんの笑顔と美しい声でのお願いに快く蔵の中に入れてもらえる。
 
 
 
酢の蔵に行きあたりたる稲田径     由紀子

蔵一歩入りし香りに酢を造る       由紀子
 
 中に入ると木の香りがフワーッとわき立ち、試飲の部屋には酢の爽やかな香りが漂っている。数種類のお酢が並べられているが、試飲は「柿酢」のみ。まろやかな酸っぱさは健康に良さそうだ。ここでは販売はしておらずパンフレットを手渡される。福岡県の特産品の「富有柿」で造られた柿酢は歴史は浅いが、これから販売が伸びていきそうな気がする。二階の見学通路から下に置かれた柿酢の大樽を見下ろす。蓋を開けているものもあれば、麻布のようなもので覆われて熟成するのを待っているものもある。窓からは明るい日が差し込み、酒蔵のようなほの暗さはない。案内を聞きながら一回りして蔵を後にする。「酢を造る」が十月の季題だと知り、思いがけない出会いに嬉しくなる。
 
   
 食事処「かよい庵」の和洋折衷の創作料理をいただいた後、節子さんの車で駕与丁公園に向う。有難いことに行く道を何度か練習したという。パトカーが道路脇にひそんでいるのを横目で確認しながら注意深く運転。それにしても細い道だ。駐車場は薔薇園の側で、秋薔薇が美しく咲いている。一重、八重、白に黄色に赤と幾種類も植えられている。薔薇園を過ぎると、芝生広場があり、中央にある大きな風車がくるくると回っている。
 
コスモスにパトカー二台ひそみけり  佳与子

よく回る風車の広場秋薔薇       由紀子
 
   
 
 台湾付近に停滞していた台風が日本の方へと向きを変えたようで、空は雲に覆われている。薄手の上着では肌寒い。朝よりも段々風が強まっている。広場から駕与丁池へと下りて行く。さざ波が立ち、木の葉が舞っている。時折散歩する人とすれ違うが人影はまばら。台風の影響なのか、それとも渡り鳥が飛来するには少し時期的に早かったのか、鳥の数も少ない。マイクのテスト中らしい放送の声のみが響きわたっている。
池の周囲の桜葉が色づき始め、足元には団栗が転がっている。すっかり秋の様相の公園はもの淋しい。捨て猫なのか、何匹か池の辺に餌を探している。
 
秋風にのってマイクのテスト中     節子

秋風や湖にまで猫ついてくる     由紀子

のら猫に声かけてみる秋の風      節子

こおろぎの声自販機のどこからか   節子
 
 
 
 「かすやドーム」の回りは石柱や水の流れを上手く取り入れた憩いの広場になっていて、鳥などのモニュメントが点在している。天気が良ければ座ってもみるが、強まる風に追い立てられるようにドームの中に入る。バスケットコートでは若者が数名練習している。
窓から公園が見渡せる休憩所で句作。温かい飲み物がほしいが、自販機はまだ夏バージョン。冷たい珈琲ではあったが、休憩所は誰にも気兼ねなくゆっくり過ごせる空間。10句の句会。
ドームから駕与丁池に架かっている大橋を渡って駐車場へ向う。風はさらに強まっているが、雨が降らなくて一安心。酒殿駅まで送ってもらって解散。
 
  
 
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