吟行記
【平成21年12月号】 
 
第64回 平成21年11月18日(金) 
 参加者 佳与子 節子 光子 真理子 由紀子 
 
西油山・徳栄寺周辺(福岡市早良区) 
 
晩秋の里山を歩くことに決まった。場所は真理子さんの自宅近く。昨年節子さんが出向いた折とても気に入り皆に是非紹介したいという。福岡市の市街地は大方博多湾に沿って東西に伸び、北側に玄界灘が広がり、南側は住宅街やなだらかな山が連なっている。その南西にある油山の麓に真理子さんは住んでいる。油山には観音堂や鷹の渡りを見に行ったが、西油山には一度も行ったことがない。
 


【公園よりの福岡市街展望:1】
 
11月18日(金)曇り空に所々青空が見える。午前10時すぎ佳与子さん光子さんと快速電車で南福岡駅に着く。節子さんが車で待っている。北九州吟行に真理子さんが参加する時など、自宅から博多駅まで行くのに時間がかかると聞いていたが、今回、電車、地下鉄、バスなど乗り継がなくてよいように節子さんが車を用意してくれ有難い。南福岡駅から野多目を抜けて西油山へと向う。交通量の多い通りから山に向う細い道を上っていくと広い公園がある。そこに車を止めて公園の見晴らしのよい場所に行くと、十数名ほどの熟年のグループが市街地を眺めている。ここからは福岡の街が一望でき、玄海島、能古島、志賀島も見える。反対側から真理子さんが手を振りながらやって来る。 
 
復興の地震の島見え石蕗の花     由紀子 
 


【公園よりの福岡市街展望:2】
 
交通の便は良いとは言えないが、毎日市街地を見下ろしながらの生活もいいなと思う。真理子さんの案内で近くを散策する。ガラス工房はお休み。鳥の声とせせらぎの音が聞こえる。白壁の少し崩れかけた納屋のある家、軒先には吊し柿、庭の隅には小さな畑、今流行りの皇帝ダリアが咲いている。少し上れば段々畑が見えてくる。 
 
市街地を見下ろす暮し年木積む    由紀子
         
里山のガラス工房蔦紅葉          節子
         
水音の絶えぬ山里笹鳴けり       佳与子
         
せせらぎの音高まり来ひたき来る   由紀子
         
啼く鳥に山家住まいや年木積む     光子
         
からすうり向こうに村の幼稚園      節子 
 
   

【徳栄寺周辺の景色】
 
「年木積む」に無縁の生活をしている者には、納屋の横にきっちりと積まれた年木が珍しい。庭に干す柿の皮も畑の野菜も句材。この声は何の鳥?この実は何の実?など話ながら歩いていると、山歩きをしている一人の女性と出会う。途中で別れたが、たしか「植物友の会」の会員とか。ちょっと話しただけでも草木に詳しいのが判る。 
 
二つづヽ短く下げて軒の柿         光子
         
柿吊るす傍に野良着も干されあり   由紀子
         
柿の皮乾きへの字への字かな     佳与子
         
草木の名よく知る人と秋の山      由紀子
         
道連れとなりて別るヽ山時雨      真理子
         
造園の早紅葉一本掘りおこし      佳与子 
 
  

【タンキリマメ】                     【カエデトコロ】
 
民家を抜けると、川に沿った細い山道が続いている。雑木林の所々に紅葉や黄葉が彩なし、みかんが生るがままに黄色く熟れている。山の田んぼは「ひつじ田」となり、黒々とした土の畑には立派な大根や蕪や白菜が育っている。その畑ごとに囲いがしている。ネット囲いもあれば、太い金網もあり、またトタン板もある。猪垣だという。この辺りには猪も猿も出てくるらしい。猪垣の前の掘りおこされた土は猪の牙跡と真理子さんから説明を受ける。 
 
猪が出るとは聞いておらざりし    佳与子
         
猪垣のなぞえあきらか猪の跡     真理子
         
猪垣をめぐらし山家住まいかな     光子
         
猪垣や猪に掘られし土の跡      由紀子
         
猪垣の内に農小屋それぞれに     光子
         
登るほど畑の猪垣頑丈に       由紀子
         
猪掘りし跡とや雨の溜りたる     佳与子
         
みかん山裾の畑の柵錆びて       光子
         
蕪二本うち捨てありぬ山の畑     佳与子
         
うち捨てし蕪に雨の降りはじめ    佳与子
         
不出来とも見えぬ蕪を打ち捨てヽ  真理子
         
通り抜けできざる山の冬菜畑      光子
         
からすうり山の畑で行き止まり     節子
         
鐘の音を聞かずに下りる猪の山   真理子
 
  

【猪垣と猪に掘り起こされた土】
 
「海(わだつみ)神社」が山の中腹に祀られている。奈良時代中国の上人が荒津の浜に上陸して油山に登り、一帯を仏教の一大拠点としたと伝えられていることから、海を見渡せる山の中腹に航海の安全を願う「海神社」が祀られていてもおかしくはない。ただ境内の大きな「二宮金次郎像」には、少しの違和感とユーモアを感じる。 
 
  

【海神社と「二宮金次郎」像】
 
昼食と句会場をお願いしている「徳栄寺」に向う。民家のところまで一度下り、ゆるやかな坂道を再び上ると寺への階段が見える。楓の大枝が左右から覆い、紫陽花の枝は刈り込まれ、ゴミや枯葉など全くなくほど綺麗に掃き清められた境内は、京都の寺のような趣きがある。楓は薄く色づいているものとまだ青々しているものが多いが、十分風情がある。
すぐに座敷に案内される。桜の頃のにぎやかな法要の写真が飾られた座敷には、座卓とストーブのみ。用意をしていただいたお弁当とお茶を美味しくいただき、ストーブの焚かれる音のみの中で句作、句会。廊下に出てみると、ガラス越しに裏庭の納屋に乱雑にたくさんの薪が積まれているのが見える。これも年木なのだろうか。それにしても寺の廊下は冷える。 
 
寺座敷借りて句会や冬ぬくし       節子
         
ストーブの音静かなる寺の庫裏     節子
         
磨かれし寺の廊下の冷たくて     由紀子
         
山里の冬めく寺の長廊下       由紀子
         
見送りて膝つく坊の廊下冷え     真理子 
 
  

【徳栄寺本殿と行者の滝】
 
句会を終えて境内を少し歩く。本堂の傍には行者の滝がある。下には小屋があり、ここで着替えをするらしい。
静かで苔生した岩をゆっくり下りる。 
 
行者堂人なく冬の滝の音       真理子
         
倒木のそのまま沢に冬めける     光子
         
笹鳴や横穴古墳ちらと見え      真理子
 
山の中の静かな寺は楓が色づくとさらに風情を増すだろう。思いがけなく見つけた掘り出し物のような寺。長い階段と手入れされた境内が深く印象に残る。 
 
夕映えの西油山薄紅葉         節子 
 


【境内の薄紅葉】
 
帰りに天然記念物である柴犬のブリーダーの家に寄る。庭に生後二〜三ヶ月から一年くらいの柴犬が小屋にそれぞれに入れられている。一番小さく可愛い犬を数匹庭に放してくれる。不景気で買っていく人が少ないらしい。急に現実に戻されたが、ここできっちり句にする人もいる。 
 
柴犬の仔のマフラーにじゃれついて   光子 
 
真理子さんとは駐車場にて別れ、また節子さんの車で南福岡駅まで戻り解散。よき一日でした。
 
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