吟行記
【平成22年2月号】 
 
第66回 平成22年1月6日(水) 
参加者  佳与子 節子 光子 真理子 由紀子
 
太宰府天満宮 (太宰府市) 
 
今年の吟行初句会は太宰府天満宮。1月6日午前11時西鉄太宰府駅に集合。佳与子さんとJR二日市駅から西鉄二日市駅まで歩き、西鉄太宰府線に乗って二駅目の終点太宰府駅に着く。大きな門松が立ち、「あけましておめでとうございます」の横断幕が掲げられている。いつ来ても参拝者の多い太宰府は、正月から受験シーズンが終わるまでは込み合っているだろうと思ったが、松の内とはいえ平日なのでいつもより少し多いくらいの人出だ。節子さん、光子さん、真理子さんが改札口前で笑顔で待っている。風避けのための大きなマスクと毛糸の帽子を取って新年の挨拶を交わす。会った瞬間から笑いが起こる。遠慮のない仲間内ならではの会話に新しい年が明ける。 
 
  
 
時折小雪のちらつく参道を歩き、御神橋を渡る。左手の絵馬堂の辺りから太鼓の音が聞こえてくる。猿廻しに大勢の人が集まり、拍手が起こっている。その輪に入って見る。人相、猿は猿相とでもいうのか、時折哀れさのみの猿廻しに出会うことがあるが、ここの猿廻しには悲壮感がない。猿曳きの合図にすぐ反応する猿は、役者のように人を楽しませてやろうという余裕のようなものを感じる。 
 
風花の参道となる天満宮           光子

太鼓橋渡りゆく笑み着ぶくれて     真理子

早太鼓いよよ始まる猿廻し         節子

猿曳きの猿に引かせし紐の先       光子

子猿の名太陽といふ雪舐めて      真理子

手拍子を客にも請ふて猿廻し      佳与子 
 
   
 
楼門を潜り本殿に向う。ここはさすがに込み合っている。多くの若者が手を合わせ、絵馬を掛けたり、御籤を仲間同士で見せ合ったりしている。まだ「飛梅」は一輪も花をつけていない。本殿の裏手に回って天然記念物の「大楠」を見上げ、「ひろはちしゃの木」の大きな洞を覗き込む。樹齢千年や七百年などの木の下にいると、人間なんて何と小さな存在なのだと思えてくる。 
 
児を抱いて犬も抱き上げ初詣        光子

大冬木守る檜皮の社かな           光子

飛梅の冬芽細かく紅帯びて        真理子

飛梅のふくらみそめし色ほのか       光子

ひと葉なきひろ葉ちしゃの木寒に入る 真理子 
 
 
梅林を抜けて「お石茶屋」で一服。梅昆布茶と梅が枝餅が美味しい。天満宮の梅が枝餅はどの店のものも美味しいが、参道沿いでは「かさの家」と「松屋」、境内では「お石茶屋」に足が向く。皮がぱりっとしている。
梅が枝餅は道真公が不遇の配所時代に困窮した生活を送っているのを近在の尼さんが見かねて道真公が好んだ梅の枝に添えて焼餅を差し上げたという故事に由来するもので、県内のあちこちに屋台がでているが、太宰府天満宮でいただく梅が枝餅はまた格別である。
 
  
 
小雪が茶屋の前に置かれた床几の上を転がる。目の前のまだ一輪もつけていない梅林に立つ吉井勇の歌碑にも富安風生の句碑にも小雪が舞い散っている。寒くても寒いなりの句を拾おうと、まだ通ったことのない茶屋の奥の径へ行ってみる。「お石さん」が通ったというトンネルを左手に見て坂を登る。稲荷社の前を通り過ぎると一本の径が続く。人で賑わっていた天満宮とは別世界で鳥の声のみが響く。
 
宮裏の筑紫の山の眠りたる      由紀子 
 
しばらく歩くと下の方から音楽が聞こえてくる。径を下りきると、笹川良一氏の母親を背負った銅像が立っている。その後ろに遊園地の入口。子供達が小さかった頃ここで遊んだ記憶がある。何年か前にリニューアルされ、以前よりこじんまりしたようだが懐かしい。
「お石茶屋」から小山をひとつ越えて、ようやく広い境内の位置関係がわかる。右回りに国立博物館の入口があり菖蒲池や「曲水の庭」に続く。冬芽をつけた何千本もの梅の木の先に御神橋のかかる心字池や楼門が見える。広い境内を一周したことになる。猿廻しの太鼓も聞こえてくる。猿は衣装替えをしたらしく赤い法被になっている。 
 

 
曲水の冬枯の庭なにもなく       真理子

猿ともに赤の法被や猿廻し       佳与子

鷽替の案内立札高々と           節子 
 
それぞれに吟行し大鳥居の前に集合する。鳥居の前には明日行なわれる鷽替え、鬼すべの案内板が立てかけられている。飛梅の歌碑や御神牛像、三条実美ら尊攘攘夷派の五卿が滞在したという延壽王院の庭を見ながら天満宮の参道脇の道へ入り食事処へ向う。食事処は真理子さんが予約を入れてくれていた「梅の花 太宰府別荘 自然庵」。「梅の花」の店舗は北九州にもあるが、この自然庵は古民家を改築したものらしく、門構えといい、茶室のある庭といい、落ち着いた趣きのあるお店だ。食べ終えた人も再度庭を眺めて帰って行く。通された個室でゆっくりと食事。料理を運んでくれる係りの人は女性が多いが、この部屋には若い爽やか系の男性が運んでくる。華やいで笑いながらの食事の時間となる。10句の句会。 
 
  
 
待合に見る篠垣の冬日かな         光子

仲居来て鴨居に掛けし毛皮かな     由紀子

笑い初め笑い通せし句座なりし       光子 
 
この爽やか系男性が試食用に持ってきた「麩まんじゅう」が美味しく、正月限定の梅昆布茶一缶サービスにも惹かれて「麩まんじゅう」を皆購入して店を後にする。
光明禅寺の山門の前を流れる藍染川に沿って太宰府駅へと歩いて行く。謡曲「藍染川」の舞台になった川である。現在の藍染川は身を投げるにはあまりにも細い川だが、当時は川幅も広く水量も多かったのだろう。「遠の朝廷」と呼ばれた太宰府周辺には万葉の時代からの多くの言伝えや歌が残っている。何度でも来たい所である。
西鉄二日駅にて解散。
 
  
 
2010Top