吟行記
【平成22年4月号】 
 
第68回 平成22年3月12日(金) 
参加者 佳与子 節子 光子 真理子 由紀子 
室見川・飯盛神社(福岡市西区) 
 
  まだ冷たい風の二月中旬、室見川の白魚の簗かけがテレビのニュースにでていた。杭を打ち、竹で作られた簗を次々に組む様子やその後の「シロウオ豊漁祈願祭」の神事が、博多の早春の風物詩として取り上げられていた。以前にも白魚吟行をしたが、神官がお祓いをして始まる漁とは知らず、その映像は印象的でもう一度白魚の簗を見たくなった。
3月12日(金)地下鉄室見駅に10時半集合。節子さん、真理子さんは車を近くに駐車して北九州組を待っている。予定通り全員集合し、駅から歩いて室見川を渡る。室見川を挟んで早良区と西区にわかれているが、西区側に建っている白魚漁の小屋まで行く。上流の山には二日前に降った雪が残っている。二月、三月は寒暖の差が激しく、二日前には強風と雪で電車が乱れる程で、前回の白魚吟行と同じように震えながらの吟行になるかもしれないと思ったが、幸い雲間から青空が見える穏やかな日となった。 
 

 
源流はあの残雪の山かとも     由紀子 
 
河川敷に下りて漁小屋を覗いてみる。小屋の前に漁師が一人座って鳩に餌をやっている。今年の漁獲量を聞いてみると不漁らしい。川は濁って川底が見えない。雪や雨の影響もあるが、少し上流で行なわれている護岸工事の影響もあるらしい。今年に入って雨が降ることが多く工事が遅れていると言う。退屈そうな漁師は、客でもなさそうな私たちに何の会かと聞いてくる。俳句や短歌などのグループがよく立ち寄るらしく、またかという顔をしながらも気軽に尋ねたことに答えてくれる。簗の上や回りにはユリカモメが群れ飛び、時折急降下して魚を捕っている。よく見るとカモメは何度も捕り損っている。簗には白魚だけではなく、鱸の子、エイ、シャコ、鰻、鮎など海や川に棲む色々な魚がかかるらしい。簗から少し下流の河口から博多湾が広がり、湾の向こうは豊かな漁場の玄海灘だ。
 
   
 
裏返す白魚舟にも魚具を干し    佳与子

白魚の川に柄杓とバケツ持ち    由紀子

白魚を捕る胴長の薄手にて       光子

川岸に白魚料理の小屋出来て     節子

白魚に俄か造りの料理屋も       光子

白魚の不漁をかこつ日向ぼこ    佳与子

白魚の簗にうなぎも鮎も入り     真理子 
 
三百年続く白魚漁というから、以前はもっと小屋も多かったのだろうが、今は両岸に漁小屋一軒と横に白魚を食べさせるプレハブの小屋一軒。平日の午前中なので河川敷に下りて来る人もいないが、河畔公園にもなっている両岸の桜が美しく咲く下旬には、この時期にしかない白魚を求めて賑わうのだろう。

河川敷の近くに止めていた真理子さんの車で、博多湾沿いに走っている都市高速の下を抜け、住宅街と高層マンションが建ち並んでいる室見川の河口近くまで行く。川に沿って遊歩道が整備され、対岸のシーサイドももち海浜公園や福岡タワー、ヤフードームがよく見える。この辺りもマリナタウン海浜公園として美しい砂浜が続き、能古島がすぐ横に見え、志賀島が正面に見える。美しい景観と干潟では潮干狩り、河川敷や遊歩道ではジョギングやウォーキングを楽しむことのできる福岡の観光スポットとなっている。一帯は臨海埋立地区に1989年、市制施行100周年を記念して開催された「アジア太平洋博覧会」(通称よかトピア)の後できた街である。 
 

 
埋立てし街がこの町花ミモザ    真理子

強東風や河口に近き遊歩道     佳与子

潮風に木の肌荒れし桜かな     真理子 
 
博多湾は水鳥の宝庫といわれる和白の干潟があるが、この室見川の河口辺りにも多くの水鳥を見ることができる。この日も鴨の大群が河口から川に向って浮かんでいる。行列のように皆同じ向きに並び、時折突風に驚いた鴨が飛び立ってはまた列に戻っている。流れに逆らって進んでいるように見えるが、川を上っている風でもない。種類ははっきりはしないが、これが室見川河口に多いと言われるスズガモかもしれない。
人工海浜の細かいさらさらとした砂浜を歩く。西の方にマリノアシティの日本最大の観覧車が見える。大型商業施設にできた大小観覧車は人気があったが、去年9月に大観覧車の営業を終了している。潮風をいっぱい吸い込んで遊歩道を戻り車に乗り込む。 
 
  
 
涅槃西風止まったまヽの観覧車    節子

島ふたつ陽炎ふ浜の砂を踏む    真理子

繰り返し群れなして飛び帰る鴨     光子 
 
食事処は前回と同じ「よひら」。愛宕山の裏手の中腹にあり、個室で海や街を眺めながらのんびり料理を楽しむことができる。前回は真理子さんが皆のために漁小屋で白魚を購入し、この「よひら」の同じ部屋で、借りた器の中に白魚を泳がせて皆で句を作ったことを思い出す。
 
  
 
愛宕山の駐車場に止めていた節子さんの車と真理子さんの車二台で「飯盛山」に向う。愛宕山散策を予定していたが、駐車場から見える「飯盛山もよかよ!」の一言に皆賛同。急遽室見川の上流方面へ車を走らせる。正にお茶碗をひっくり返してご飯が丸くなった形をした山でその麓にある飯盛神社に着く。創建は9世紀の由緒ある神社。鏑馬神事が行なわれるらしく境内に像が建っている。また春にも草鹿式(くさじししき)という弓を射る行事があり案内の張り紙が貼られている。神事の行なわれる広場は道路を挟んだ駐車場の横にあり、道路も神事用に緑色の舗装がされている。弓道場があり、その奥に小さな文殊堂がある。わきには智恵の水が湧き出ているとかで、水汲みの人がきている。真理子さんの家の氏神様という飯盛神社は見所が多く、特に流鏑馬は一度見てみたいと思う。 
 
  
 
弓練場的出てをらず黄水仙     真理子 
 
どこをどう走ったかわからないが、この辺りは真理子さんの生活の場。まかせっきりで付いていく。「ジョイフル」で10句の句会。少し冷たい春の風に吹かれての吟行はとても内容の濃いものとなり一日を楽しむ。地下鉄の駅まで送ってもらい解散。
 
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