吟行記
【平成22年5月号】 
 
第69回 平成22年4月7日(水) 
参加者 佳与子 節子 真理子 由紀子 
 
駕与丁公園(粕屋町) 
 
今年の福岡市の桜開花宣言は3月14日。去年の13日に次ぐ早い記録で平年より12日早いらしい。普通は開花宣言から一週間か十日位で満開になるが、普通でないのが最近の特徴。温暖化で開花は年々早くなっているが、今年は宣言後の冷え込みでなかなか花が開かず、満開は二週間から二十日前後の三月下旬から四月の初めとなった。寒暖の差が激しい毎日に、なかなか花見の計画を言いだせないでいたが、近郊の桜の開き具合をみてようやく動き始める。といっても今回も節子さんに電話して計画の丸投げ。ようやく7日に駕与丁公園を吟行することに決まる。桜は散り始めると早いので、その頃になると残花だろうが、満開より俳句は作りやすいのではないかと期待する。 
 
 
 
 吟行当日の7日の天気は曇のち晴、風強し。最高気温14度。肌寒い。佳与子さんといつもの折尾駅9時13分の快速電車二両目で合流。佳与子さんは風邪気味でマスク着用、時折咳込んでいる。日頃の美しい声がかすれている。香椎駅で香椎線宇美行きに乗り換え、20分ほどで「酒殿(さかど)駅」に着く。雲雀の鳴く田んぼや畑の中にぽつんと建つ小さなプレハブ駅は無人駅のようだが、駅員が一人いる。対面の上りのプラットホームの椅子に帽子とマスク姿の節子さん、真理子さんが座って待っている。こちら側は無人で切符は箱の中に入れるようになっている。同じ電車で下りた初老の女性は手に持っている切符をどうしたらよいのか戸惑っている。駅前の一本の桜の花が風に散り、広い田んぼの中の駅は明るく長閑である。線路を横切り、二人と合流し、ここまで車で初めて来たという真理子さんの車で駕与丁公園まで行く。 
 
雲雀野にベンチひとつの駅舎かな     佳与子

踏み切りを渡り駅まで雲雀の野       真理子

雲雀野に長きホームや無人駅         節子

酒殿てふ畦中の駅春惜しむ          真理子

春の風二両電車の来るカーブ        真理子
 
  
 
駐車場からバラ園へ向う。広場に残っている花見提灯が風に揺れ、かえって盛りを過ぎたことを知らせているようだ。実際池の回りに植えられている桜は大方散り、ところどころの八重桜のみが満開に近い。それにしても風が強く寒い。池には小波が絶えず、水鳥も少ない。この時期の季題の通り「鳥帰る」なのかもしれない。
バラ園のバラは手入れが行き届き、蕾をたくさんつけている。南斜面で風が遮られ、置かれているベンチに日が差すと暖かい。バラの蕾に囲まれて持ち込みの弁当を食べていると、猫が少し離れた所からじっと見ている。お腹が大きい。のそりと近づいて来てはじっとこちらを見ている。弁当のおかずを下におくと、静かに食べてまたのそりとどこかへ消えていった。バラ園の北側は風車のある広い芝生広場になっていて、天気のよい日には親子連れがシートを敷いて遊んでいるのだろうが、この日は人影もなく風車がよく回っているだけだ。 
 
薔薇園をのそりと歩き孕み猫        由紀子

中央に風車の丘や遠霞            由紀子
 
  
 
池には菖蒲の芽がつんつんと伸び、端には桜の花弁が漂っている。池辺の木々は芽吹き、春の草も青々としている。それでも桜の終りはどこか淋しく、水鳥の観察小屋は池からの風が通り抜け寒い。時折散歩する人やジョギングする人とすれ違う。スポーツ施設や多目的ホールのある粕屋町総合体育館「かすやドーム」が見えてくる。横の坂道を見上げると何かスポーツ用具らしきものがあるので上ってみると、高齢者用の運動用具で脚力、腕力、バランス感覚を養う用具が広場に点在している。とりあえず一通り試してみる。傍で父と子の親子がタンポポの絮を吹いて遊んでいる。見るとはなく見ていると、子供がぱくっと絮を食べてしまい、慌てた父親が口の中に手を入れ、掻きだしている。この微笑ましい光景に、高齢者用の用具ではなく子供用のアスレチックで子供達と一緒になって遊んでいた頃を思い出す。
 
たんぽぽの絮吹いてみし父をまね     佳与子

堰を越え溢れる水も花の屑           節子

花筏風のとどまるひとところ         由紀子

一周は4.2キロ花の池            由紀子

鯉のひれ見えてをりけり榛の花       真理子

捨て猫の小さく鳴けり榛の花         由紀子
 
 
 
「かすやドーム」の休憩所で温かい缶コーヒーを飲みながら句作。左横のテーブルには子供連れの親子がお弁当を広げ、右横のテーブル二つには、グループで来ているらしい母子たちがおしゃべりしながらお弁当を食べている。窓際の暖かい所にあるテーブルでは、年配者の男女のグループがスポーツ談義を声高にしている。アリーナからもスポーツを楽しんでいるらしい声が聞こえてくる。にぎやかだが、誰にも気兼ねすることなしにゆっくりできるのがよい。アリーナ席を一回りすれば、全面張りのガラス越しに駕与丁公園のほぼ全景が見える。波立っている池向こうに立つ風車や、緑なす遠くの山、近くの山を見渡す。ガラス窓には花弁が舞う。風邪気味の体には外を歩くよりここからの句作が良いようだ。 
 
天井に揺らめく光春の水             節子

ぼた山としるよしもなし山笑ふ        真理子

ぼた山のふたつ並びて水朧         真理子

山すそに光る風車や遠霞           佳与子

この小橋渡れば複路諸葛菜         佳与子
 
  
 
10句の句会。この時間になると子供連れのお母さん方も帰り支度を始め、スポーツ談義のグループもアリーナに向かい、私たちのグループのみとなる。
車を駐車しているバラ園に戻り解散。前回の食事処「かよい庵」が店を閉めてしまっていたのは残念だが、子供も高齢者も利用できるこの広い公園は、お弁当を広げて皆で語らいつつ楽しむのがいいのかもしれない。 
 
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