吟行記
【平成22年9月号】 
 
第73回 平成22年8月6日(金)
 
参加者 節子 光子 真理子 由紀子 
 
神湊・「魚屋(うおや)」本店
 
七月の山笠豪雨が懐かしいほどの残暑が続き、「熱中症」関連のニュースが連日のようにテレビ、新聞で取り上げられている。8月の吟行を皆の都合のよい6日に決めたものの、この暑さに立ち向かう元気はなく、一所でのんびりとくつろげる場所がいい。閃いたのが、JR九州の「日帰りの湯」のパンフレットに載っている「魚屋(うおや)本店」。福岡市と北九州市のちょうど中間地点にある玄界灘を見渡せる神湊(こうのみなと)の老舗の割烹旅館である。JR鹿児島本線「東郷駅」への送迎バス付き、食事に温泉と、若干俳句吟行から遠のく感じがするが、何かと忙しくなる盆前の主婦たちを疲れさせてはいけないと決定する。 
  
【宗像大社】                        【ご神木の楢】
 
8月6日、東郷駅北口 午前11時発の送迎バスに間に合うように集合する。いつも利用する鹿児島本線なので、ついICカードを使ってしまったが、親切な駅員はにこやかに企画切符に切り替えの対応をしてくれる。このうっかりミスは私一人ではなかった。異常な暑さのせいかもしれない。
送迎バスには私たちグループ4人のみ。運転手は「途中宗像大社でも寄りましょうか?」と話しかけてくる。何度も行っている大社だが、真夏の大社吟行も良しとお願いする。釣川に沿って青田や夏野菜の畑が広がり、時折白鷺が飛び立っていく。バスはこんもりとした森へと曲がり、大社の境内に一番近い所に横付けしてくれる。敷詰められた砂利を踏む音のみで、境内は深閑としている。本殿横の「ご神木の楢」が枝を広げ、程よい木陰をつくっているので、しばらく佇む。
 
青蘆の川に沿いたる社かな        真理子

客四人乗せてバス行く青田道        光子

人気なき広き境内炎天に           節子

神木の楢の大樹の蔭涼し         真理子

夏の川満々として玄海へ           節子

日傘差し大豆畑の野良仕事         節子 
 
   
【「魚屋」本店】                      【山頭火句碑】
 
再び乗り込んだバスは海辺に向って走り出す。運転手は話好きらしく、どこから来たのかなど聞いてくるが、遠方からの客ではないと知ると、この辺りの案内は控えはじめる。大社から約10分「魚屋本店」に到着。
玄関口は狭いが、水打ちされた庭には山頭火の句碑が建ち、奥の建物は団体客も受け入れられるとあって広々としている。広いロビーの真正面の大きな窓いっぱいに海が見える。仲居さんと女将にしては無愛想な年配の女性が、土産物の並んだフロントの奥から出てきて、JR発券の食事券を受け取り、部屋へと案内してくれる。老舗旅館だけあって大広間は舞台付きの120畳。長い廊下に大小の部屋が玄界灘に向いている。
宿の玄関口の山頭火句碑「晴れるほど 曇るほどに 波のたわむれ」(昭和15年)の句が浮かぶ。 
 
二階の部屋は本間10畳に廊下付きの純和風で、冷房に汗がすーっと引いていく。さっそく料理が運ばれ、鯵の活き作りの大皿が置かれる。全般的に少し濃いめの味付けだったが、青々した大海原を眺めながら美味しくいただく。
地島(じのしま)、大島などが目の前に浮かんでいる。浜では親子連れが波打ち際で泳ぎ、若いカップルは堤防の下の蔭に座り、沖を眺めている。真下の白い砂浜は、この旅館のプライベートビーチのように歩いてすぐ下りられるようになっている。
 
  
 
開け放すロビー潮の香夏の風       節子

したたかに水打ち昼の料理店      真理子

釣宿に巣のあるらしく夏燕          光子

普段着のままに潮浴親子かな       光子

打ち寄せし流木一つ海桐の実      由紀子

磯渡る橋のかかりて雲の峰         光子 
 
この企画切符は料理に風呂付きなので、さっそく用意された旅館の浴衣をもって大浴場へ。客はこの四人のみなので、いたってのんびりできるが、時間の制約があるので汗を洗いながしたのみで上る。
部屋から見える地島には以前船で渡ったことがあるが、漁港の近くに家が連なり、小さな小学校と椿の花が印象的だった。大島は漁師の島でもあるが、宗像大社の中津宮が祀られている島でもあり、その沖に浮かぶ沖ノ島は沖津宮が祀られている。特に沖ノ島は神職のみが居るだけで、女人禁制の神の島である。 
 
夏の潮日の傾きに色を変え        由紀子

神域の島よく見えて秋立ちぬ       真理子 
 
 
【神湊の海岸】
 
2時半には送迎バスが出発するので、少し部屋で句作をして帰り支度をする。フロントで10月1日の「みあれ祭」について尋ねると、大漁旗を掲げた船団の海上パレードを目の前で見ることができるというので、さっそく予約を入れる。今回の収穫は一度は見たいと思っていた「みあれ祭」の予約かもしれない。
バスは旅館と提携しているのか、近くの魚屋に寄る。ここで地物の干物を買い駅まで送ってもらう。東郷駅のすぐ横の喫茶店にて句会。カウンター席と3−4のテーブル席だけの小さな喫茶店に常連客らしい二人が女店主とおしゃべりしている。テーブルを二つ寄せて句作、句会。常連客お薦めの水出しコーヒーのかき氷がめちゃめちゃ美味しい。
真っ青な空に、昼すぎからは幾つも入道雲が立ち上がっていたが、帰りの電車で福岡方面は雨になったらしい。恵みのお湿りである。
佳与子さんは大事をとって今回お休みとなったが、みあれ祭には是非参加できることを願っている。
 
    
【老舗魚店と名物の「松前寿司」】
 
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