吟行記 【平成23年4月号】 |
|||
第80回 平成23年3月17日(木) | |||
参加者 佳与子 節子 真理子 由紀子 | |||
大濠公園・舞鶴公園(福岡市中央区) | |||
この吟行記を書いているのは4月22日。東日本大震災の復興は、なお余震の不安と原発災害というやっかいな問題を抱えながら一進一退している。この大災害の余波ではないが、列島は冷え込み、被災地には少し前に雪が降ったという。いつになったら明るさと温みが取り戻せるのだろうか。 大震災から1週間後の3月17日午前11時、大濠公園内のレストラン近くで待ち合わせる。風が時折強く吹き、うっすらと芽吹きの柳が揺れている。池の周囲をジョギングしている人、歩いている人、足早に通り抜けしている人など、いつもの大濠公園の景色を見ながら句帳を取り出すが寒い。園内に新しく出来たスターバックスで暖をとろうと入る。ちょうど窓際の席が空き、暖かいラティを飲みながら外を眺める。お互い一ヶ月ぶりなので、すぐには俳句モードにならず、四方山話になるが、集中力は最後に残し、ここでは暖まることを優先する。 |
|||
![]() ![]() 【大濠公園とコーヒーショップ】 |
|||
外に出るとやっぱり寒い。児童公園で遊ぶ親子も、ホームレスもいない。風に鴎が舞いたち、さざ波が揺れる。野鳥の森には鵯らしい鳴声が響き、声の先には記念樹らしい紅梅の花が咲き残っている。ジョギングコースに沿った花壇にはチューリップの芽が出始めている。 | |||
春寒の湖のさざ波ひたひたと 由紀子 遠嶺の稜線淡し柳の芽 由紀子 |
|||
![]() ![]() 【チューリップ&記念樹】 |
|||
公園内の福岡市立美術館のレストランで昼食。大濠公園の池に向って全面ガラス張りのレストランは明るく、混み具合も程好く句作をしながら食事をする。腹ごしらえをしたところで広い美術館の駐車場を抜けて舞鶴公園へ向う。福岡城址と四季折々の花を楽しめる。天神と西新の中間にあって都心のオアシスのような場所なので、吟行地を決めかねた時には都合が良い。まず足を運んだ睡蓮の池には鴨が垂直に頭を突っ込んで遊び、わずかに伸びた菖蒲の芽が日に輝いている。 | |||
駐車場広々として苗木市 節子 波の影底に映して水温む 真理子 春寒の水辺に一人男かな 佳与子 木の橋に佇み浅き春の風 節子 |
|||
![]() ![]() 【福岡城址】 |
|||
狭い階段を上ると城の石垣が高々とある。楠の巨木や銀杏大樹や桜の木々が本丸へと続く道に覆いかぶさるように枝を伸ばしている。舞鶴公園には約1000本もの桜の木があるがまだ蕾。その中に例年早く開花する1本の枝垂桜がある。まだ開いてはいないが、今にも開きそうな紅色の蕾はそれだけでも美しい。城と桜は正に日本を象徴する風景だが、この舞鶴公園の満開の桜は、一度は見ておきたい風景の一つ。それだけに花見客も多く、酔っぱらいに興ざめすることもあるが、本丸跡の空に隙間なく広がる満開の桜を初めて見た時の感激は忘れない。 今年もまた美しく咲くだろうが、まだ開花宣言のない蕾の下を歩く。天主台から博多湾、ヤフードームなどを望む。 |
|||
強東風におされて上る天主址 佳与子 一本の枝垂れ桜に芽吹く紅 節子 宿木の空に高舞ふ春の鳶 由紀子 天主台吹き上げてくる木の芽風 真理子 |
|||
本丸跡から多聞櫓に向う。復元された長い多聞櫓の白壁と広場には春の日差しが暖かい。若い作業員が数人障子ほどの板を何枚も運んでは積んでいる。何かが出来るのかと思ったが、どうやら桜祭りに予定されていた夜のイベントが中止になったらしく片付けているようだ。連日の震災や津波の報道に自粛ムードが広がりはじめている。 | |||
![]() 【多聞櫓】 |
|||
下萌や多聞櫓の窓いくつ 由紀子 城内は桜まつりの準備中 節子 大地震に桜まつりの中止札 由紀子 式典の中止張紙春寒し 佳与子 |
|||
網を巡らしたようにひろがっている冬木のような桜の枝の下を抜けると梅園に出る。梅の花はすでに盛りを過ぎ、咲き残っている少しの花を見ながら一回りする。外国人が二組梅園の椅子に座って談笑している。 大手門からお堀に沿ってしばらく歩く。春は桜並木、夏になると蓮花で埋まる美しい通りだ。ぐるりと周って最初の集合場所の大濠公園内のレストランに着く。 |
|||
![]() ![]() 【梅園とお堀】 |
|||
ジェット機の色は桃色春の空 節子 飛機低く街に近づく涅槃西風 真理子 鳥帰る大池巡る人は増え 節子 木の芽風スワンゆっくり動き出す 佳与子 |
|||
午後になると公園内の人は増え、池のスワンのボートも動いている。飛び交う鴎がレストランの窓辺からよく見えて園内が活気づいている。10句の句会。解散。 | |||
![]() |