吟行記
【平成23年7月号】 
 
第83回 平成23年6月9日(木)
参加者  節子 光子 由紀子
天拝山麓・山神ダム(筑紫野市) 
 
室戸岬から関東方面に向った台風2号の影響もあって、関東地方の梅雨入りは5月27日と例年より早く、九州北部の梅雨入りは例年に近い6月5日となったものの、5月下旬より雨の多い日が続く。ぐずついた天気と吟行参加者が三人ということで、吟行は日にちのみ決め、場所は節子さんにお任せすることになった。 
 
    
 
吟行当日の6月9日は朝からうっすらと曇り。晴雨兼用の折畳傘を入れ自宅を出る。快速電車が大野城駅10時13分に着くと、節子さんの車が駅で待っている。車の中で「太宰府天満宮の花菖蒲池か新緑の山神ダムのどちらかにしようと思うが、どちらに行きたい?」と問われる。光子さん共に一度も行ったことのない山神ダムと即答。行き先が決まったところで、久しぶりに武蔵寺近くの森のレストラン「アラスカ」に行く。天拝山の麓の民家を抜け店の入口付近の駐車場に車を止める。滴るほどの新緑の中に、紫陽花やスイカズラの花が遠慮がちに咲いている。この辺りに詳しい人でなければ、この奥にレストランがあるとは思えないほど茂り、小さく置かれた店の看板は、何だか「注文の多い料理店」の入口のようだ。 
 
紫陽花の小径の奥にレストラン     節子

牛蛙間近に鳴いてレストラン      由紀子

沼の風額あじさいを傾けて         光子

池の面に鈍き光や蛇泳ぐ          節子 
 
  
 
 
入口からの細道は少し下り坂になっている。鬱蒼とした道の奥から水音がかすかに聞こえる。幾筋か小流れとなって水が十薬や露草などの草や低木に見え隠れしながら沼に流れこんでいる。葦が生えているので、陸地との境がはっきりしない。ログハウス調のレストランのデッキに座ると、道真公のお膝元ではなく、アラスカにいるような気分にもなる。ランチのアラスカサーモンの身が厚い。
 
水源へ通ずる道の草を刈る        光子

一軒の農家取り巻く植田かな       節子 
 
昼食を終え、節子さん任せの山神ダムへ向う。ダムがどの辺りにあるかも分からないまま、幹線の道から山に沿って奥へ奥へと進む。田には水が張られ、植えられた稲の苗はさやいでいる。民家のみえない曲がりくねった山道を抜け、ようやくダムに到着する。「ダムと山しかない何にもない所」だと念を押されていたが、堰堤から棚田が見える美しい景色。しばらくダム湖や放水する下の景色を眺め堰堤を渡る。見上げれば泰山木の白い花がいくつも咲いている。声の整った鶯が間近に鳴いている。ダム湖をぐるりと一周する間、鶯、時鳥、郭公の鳴き声がひびく。縄張りがあるのがはっきりわかる。鶯の声が遠くなるにつれ、時鳥の声がはっきりとしてくるし、時鳥の声が遠くになると、次に郭公の声がはっきりしてくる。人とは出会わない。三人のみでこの三声を聞く贅沢。節子さんのお気に入りの場所だと納得。 
 
    
 
泰山木咲いてダム湖のあをあをと   由紀子

堰堤を渡り老鶯ほととぎす         由紀子

老鶯の自在に啼いて山深く          光子

放水のダムほととぎすかき消され     節子

時鳥山のダム湖をとり囲み         光子

静けさのダム湖を巡りほととぎす    由紀子

筑紫野の深山にひびく時鳥        由紀子 
 

 
鳴き渡る鳥声を聞きながら、湖畔の草木を節子さんに教えてもらう。黒っぽい実が「桑の実」と教えられ、恐る恐る口にいれると少し甘酸っぱい味がする。赤い木苺をみつける。これは光子さんが口にする。へび苺との区別も教えてもらう。まだ花弁のついた小さな青柿が道に落ちている。あれやこれや教えてもらいながら、どのくらい歩いたかわからないが、一万歩は越えているだろう。のんびり緑と鳥声の中のダム湖を巡る。郭公の声を後ろに聞きながら、堰堤まで戻る。この辺りでようやく人と出会う。釣りをしている人のようだ。 
 
  
 
目の慣れて来たる木苺次々に       光子

郭公のまだ啼く山を惜しみつつ     由紀子 
 
山道を下り、句会をすべき喫茶店を探す。植田の中に立つ茶房の案内板通りに行くと、川音と沢山の濃紫陽花に囲まれた茶房は見つかるが、休日のようで閉まっている。
帰りの電車の時間もあるので、二日市まで行き「御前湯」そばの珈琲の店に入り句会。「町家カフェー 一軒路地・茶の子」と面白いネーミングのお店は開店二年目。美味しい珈琲と甘味で吟行の余韻に浸る。車で送ってもらい二日市駅で解散。 
 

 
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