吟行記
【平成23年8月号】 
 
第84回 平成23年7月14日(木)
参加者  佳与子 節子 光子 真理子 由紀子
皿倉山頂 (八幡東区) 
 
7月14日10時半、八幡駅集合。久しぶりの全員集合である。去年のこの日は、思い出深いどしゃぶりの「追い山笠」吟行だったが、今年は朝から強い日差しが照りつけ、気温も34度の予想がでている。八幡駅前に立つと、これから上る予定の皿倉山の山頂が正面にくっきりと見える。タクシー二台に分乗して、ケーブルカーの山麓駅まで行く。
山麓駅には、一昨年の吟行で来た時と同じように天井に届くほどの大七夕竹が飾られ、幼い字で願い事が書かれた短冊がたくさん結ばれている。
ケーブルカーに乗り込む。乗客は私達の他はおらず、見晴らしの良い最後列に座り、北九州の街並みや工場や海を眺めながら山の上駅まで上る。木々が覆いかぶさり、紫陽花がまだ咲き残っている所を抜けると、一気に視界が広がる。海と山と市街地を見下ろしながら上っていくこの体感だけでも涼しい。 
 
   
 
ケーブルに沿ひゆく山の濃紫陽花    由紀子

夏空をケーブルカーにサンルーフ      節子 
 
皿倉山の九合目にある山の上駅からすぐにスロープカーに乗り換え、頂上まで行く。以前は一人乗りのリフトだったので幼児や高齢者には無理だったが、スロープカーになってから誰でも気軽に頂上まで行けるようになったと好評である。
頂上にはテレビ塔と展望レストランがあるのみだが、ここからの眺めは一見いや二見の価値あり。北は市街地と洞海湾を囲む工場地帯、風力発電機とその先の響灘。西には銀色に光る遠賀川や低い山と田園。東には関門海峡を挟んで、本州と足立山やカルスト台地の山々、その間にうすうすと広がる周防灘。南には福知山山系の山並みが連なり、河内ダムが静かな湖面をわずかに見せている。360度の眺望は、北九州の観光名所の第一とも言えるものである。 
 
   
 
老鶯や視界三百六十度           佳与子

夏の霧十基の風力発電機          節子

海峡の灘見下ろされ時鳥         由紀子

周防灘はるかに白しほととぎす     真理子 
 

 
頂上は標高622メートルで、気温も住宅街とは5度違う。この酷暑の夏に5度の差は大きく、日陰に座り山頂の風を浴びると心地良く、ちょっと一眠りしたくなる。街騒から離れ、鳥の声が鳴き渡り、虫の音が小さく聞こえる中、石の椅子に腰掛けしばらく休む。それぞれ横になったり、句帳を開いたり、空を眺めたりと思い思いに過ごす。 
 
空涼し背中合わせに山の石       佳与子

金亀子はるかに洞海湾を見て       節子

ほととぎす帆柱山系鳴き渡り      真理子

夏草を倒して尾根へ抜ける風       光子

 山頂に涼しく鳥の鳴いてをり       由紀子 
 
   
 
少し山頂の広場を歩いてみる。草原に小さく白やピンクの花が咲いている。常緑の木々の間に合歓の花が淡く咲き、葛の蔓が絡まりつつ伸びている。国見岩に下りて行く径や河内の池に行く径には、たくさんの野草がありそうだが、今回は山頂広場のみで涼む。近くに特徴のある鳴声の鳥がいる。木の天辺あたりで姿がはっきりと見える。節子さんは「多分ホオジロだと思う」と言う。(後でビジターセンターの方に聞くと確かにホオジロと判明)ひとしきり鳴いて外の木に移り、暫くしてから鳴き始める。遠くに時鳥や老鶯が鳴いている。

展望レストランにて昼食。ここはセルフのレストランで飲み物だけ注文し、持ち込みのコンビニおにぎりを頬張る。 
 
草笛の音山風に切れぎれに       節子

虎の尾に風吹きわたる尾根道に    光子

 天辺に鳴くはホオジロ山涼し      佳与子 
 
  
 
スロープカーの駅には蓄光石という珍しい石が星座の形に埋め込まれている。夜暗くなると光を放つらしい。蓄光顔料を含むセラミック骨材で、自然光でこの石に紫外線を充電し、夜その光を放出し光だすという。よく見ると、それらしい石がたくさんある。ハート形の石もたくさんあったらしいが、持ち帰る人が多く「持ち帰り禁止」の札が張られている。山頂での夜のイベントは、きっと眼下の街の光と夜空の星と足元の光で幻想的な雰囲気の中で行なわれているのだろう。
スロープカーで下り、ビジターセンターで句会をしようと歩いていると、一本の大きな木に濃いピンクの花がたくさん咲いている。何の花かと近づいてみると合歓の花。溶けるように淡い色の合歓の花が好きだが、こんなに濃い花もつけるのかと驚きである。これはこれで美しく見事である。 
 
   
 
紅濃ゆく匂ふは山の合歓の花       光子

山頂の風に乗りたる夏の蝶       由紀子

山風に吹き上げられて夏の蝶     佳与子 
 
国民宿舎の「山の上ホテル」が「ビジターセンター」になってから何年にもなるが、この帆柱自然公園の生き物や植物などの展示がされている。管理する人もそれらに精通した人達で、質問するとすぐ答えてくれたり、本で調べてくれる。山頂での鳥も、節子さんが鳴きまねすると即答で「ホオジロ」。正しく鳴きまね出来る節子さんはもっと凄いが・・・。
ここでNPO法人 帆柱自然公園愛護会発行の本を購入。この山の野鳥をメインに散策コースなどが載っている。その中で帆柱山系という呼び名と、それがどの範囲なのかがようやく理解できた。
帆柱自然公園は、皿倉山(標高622m)、権現山(標高617m)、帆柱山(標高488m)、花尾山(標高351m)の4つの山々からなっており、それを帆柱山系という。その最高峰が皿倉山で、北九州のシンボルとなっている。皿倉山に上るケーブルが「帆柱ケーブル」でもよいわけだ。野鳥や野草の宝庫でもあるこの山々にまた登ってみたくなった。
 ビジターセンターにて10句の句会。誰にも邪魔されず、気兼ねせず、涼しい風の抜ける部屋で寛いだ句会となった。 
 
   
 
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