吟行記 【平成24年2月号】 |
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第90回 平成24年1月7日(土) | |||
参加者 節子 光子 真理子 由紀子 | |||
鷽替え神事・鬼すべ神事(太宰府天満宮) | |||
1月6日20時過ぎ、新年の挨拶か用事があったのか思い出せないが光子さんに電話した。いつも話し出すとついつい長くなり、話はあっちに飛び、こっちに飛びして内容より「よくしゃべったわ」の感が強い。この時もいつものように始まった話だったと思うが、駄目もとで翌日7日の太宰府天満宮で行われる「鷽替え」と「鬼すべ」のことを話し、光子さんの休みの土曜日なので誘ってみた。「鷽替え」は何年前か夫と初めて参加。面白かった。 「鬼すべ」は21時から開始なので、帰りの電車が気になり、その時は残念ながら見ないまま帰ってしまった。毎年恒例の神事なので、いつかは「鬼すべ」も最後まで見たいと思っていたが、夜の外出を簡単には誘えないし、一人では面白くない。 |
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日にちの決まった神事なので、次に7日が土曜日になるのは6年後。「足腰のまだしっかりした今を逃したら参加は難しいかも・・・」など言ったか言わなかったか覚えていないが、ともかくこういう神事を一緒になって面白いと思ってくれそうな光子さんに話してみた。こちらは夫の単身赴任中で一人の土日。急に思い立ったことなので半ばあきらめてもいたが、光子さんは7日の美容院の予約時間を早めて快諾。 ならば宿探しで、さっそくネットで探してみる。松の内の太宰府天満宮の神事なので、近くの宿は取れないのではと思っていたが、意外にも天満宮からすぐの「グランティア太宰府」(以前の国民宿舎)に空きがある。太宰府に泊まるとなると、近くに住む節子さんや福岡の真理子さんにも、これまた駄目もとで「鷽替神事にいきますが・・・」とメール連絡する。 7日朝節子さんより参加メールがあり、また真理子さんからも間に合えば参加すると嬉しいメールが届く。何とも急な話だったが、思いもかけず四人集合。面白いことには目がなく、フットワークの良さを再確認した日でもあった。 |
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皆時間を遣り繰りして 太宰府駅に18時集合。日中の最高気温が7度の寒さだが、前日までの強い風は止んでいる。近くの節子さんは先に車でホテルにチェックイン。天満宮近くの道はかなり混んでいたようだ。参堂入口のレストランはちょうど閉店時間で食べそこなったが、梅が枝餅の店内で温かい饂飩を食べ、天満宮の境内へと向かう。参道の往来は正月の混雑ほどでなく、広い境内に三々五々集まっているといった感じで、大楠に覆われた境内の所々の灯りが昼間の天満宮と違った神聖さをかもし出している。 |
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まず本殿に参拝してから授与所で、今年の「木鷽」を購入。一つ千円。大小いろいろあり、底に何か書かれた小さな紙が貼られている。自分で手に取った木鷽には「感謝」の文字。 言葉もあれば数字だけのものもある。「感謝」の木鷽を手放したくないのでバッグにしまい、もう一つ購入。これを手に握って「鷽替え」会場へ行くと、大きな鷽の人形を中心に注連縄で囲った斎場があり、その外側を大勢の人が取り巻いている。 19時開始予定。あと10分。それぞれ木鷽を手にした若いカップル、親子連れなど老若男女が薄暗い広場に今か今かと神事待っている。19時。禰宜が設えの壇にあがり、鷽替え神事の由来や説明を始める。 いよいよ開始。注連縄の四隅の提灯の灯りが消され、太鼓の音と共に口々に「替えましょ 替えましょ金鷽と替えましょ」と言いながら互いに取り替えていく。暗闇の中での「おしくらまんじゅう」状態で、寒空の下ここだけ熱気が渦巻いている。約3分ほどだが、けっこう疲れる。太鼓が鳴り止むと同時に灯りがつき、禰宜が「金鷽」の当り文字、または番号を発表する。皆手に持った木鷽の底の貼り紙を見る。当った一人はさらに幸運な「金鷽」と交換できるらしい。溜息や笑い声や賑やかな声が飛び交う。これが6回行われる。 中に紙の貼っていない木鷽があるのは、今年購入したものでない木鷽を持ち込んでいる不届き者がいるようだ。極端に大きいもの小さいものもあり、とにかく太鼓が鳴り止むまで替え続ける。 |
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鷽替の動き太鼓の音でかな 節子 鷽替の木鷽両手ににぎりしめ 真理子 鷽替や父に抱かれて幼子も 真理子 鷽を手の群「替えましょう」口々に 真理子 幾人の手を経し木鷽我の手に 真理子 |
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3回目くらいから疲れを感じるが、手にした木鷽の文字が気にいらなければ再度挑戦。節子さんのものか光子さんのものかが回り回って戻ってきた。こんなことも面白い。「金鷽」が当らなくても鷽替参加を面白いと思うことが、今年の幸運を運んでくるような気がする。 「鷽替神事」とは、知らず知らずのうちについたすべての嘘を天神さまの誠心に替え、また、これまでの悪いことを嘘にして今年の吉に取り替えるという意味があり、神事の後に手にした「木うそ」はご自宅の神棚にお祀りし一年間の幸福をお祈りする。持ち帰るものだから気に入ったものに越したことはない。四人とも「金鷽」は当らなかったが、そこそこに納得した「木うそ」をバッグに入れ、最後の鷽替を見て会場を離れる。 |
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鷽替の内へ外へと揉み合って 光子 太鼓止み鷽替の輪のほどけたり 光子 抱かれたる子と替えし鷽もう替へず 光子 鷽替の声結界をはみ出せり 由紀子 鷽替の鷽握りしめ輪の中へ 由紀子 鷽替のいよよ最後の渦の中 由紀子 |
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21時からの「鬼すべ」にはまだ時間があるが、すでに境内の周りには氏子たちが準備をして待ち構えている。法被姿の氏子たちは縄で作られた鬼の角を被り、大団扇や松明をもっている。境内傍の道路では、その集団が練り歩き、煙が上がっている。初めての「鬼すべ神事」にわくわくする。 この神事は、その年の災難消除や開運招福を願い、境内の「鬼すべ堂」で行われる火祭りで、986年菅原道真公の曾孫にあたる大宰大弐・菅原輔正によって始められたといわれる。氏子約300人が鬼を退治する「燻手」と鬼を守る「鬼警固」と、「鬼役」に分かれ攻防戦を繰り広げるという。 「鬼すべ」の会場は菖蒲池や国立博物館の前を通り過ぎ、遊園地のある境内の最も東側のゆるやかな坂道を登っていく。何度も参拝している天満宮だが、ここまで来る事はない。 「鬼すべ堂」と呼ばれる建物の後ろは山で、前は広場になっている。すでに人が集まっている。会場はロープが張られ、見物客は堂や広場を見下ろす斜面の草原に立っている。消防隊も控え、万が一に備えている。開始時間が迫ると人が増え、デジカメを手に前へ前へと詰め始める。 |
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鬼やらひ点火間近の月明り 節子 いっせいに照明消され鬼やらひ 節子 天神の屋根より高く寒の月 真理子 氏子らの炭塗りの顔鬼やらひ 由紀子 |
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21時。氏子たちによって運びこまれた大松明が広場に勢ぞろいし鬼すべ堂前に積まれた生松葉や藁に御神火がつけられる。拍手と歓声の中煙と炎が高々と天満宮の夜空を焦がす。 「燻手」が大団扇で煙を鬼すべ堂へ送り込み、鬼を追い出そうとすると、「鬼警固」は堂の板壁を打ち破り、堂内の煙を外に出して鬼を守る。大松明が堂内を七回り、堂外を三回りする様は、火祭りの神事として勇壮で見応えがある。鬼に向かって豆を投げるなどあるらしいが、少し遠くて細かい氏子たちの動きはわからない。 松明や生松葉や藁の煙と炎が段々小さくなり、放送によって「鬼」が退治されたことを知り、「鬼すべ神事」が終了したことを知る。 |
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大松明参道駆けて鬼燻へ 光子 寒天に高く鬼燻神事の火 光子 なやらひの闇に火の粉の舞ふさまを 真理子 藁の火に勇み立つ鬼鬼やらひ 真理子 生松葉燃やす煙や鬼やらひ 由紀子 鬼堂の方に白煙鬼やらひ 由紀子 口々に鬼じゃ鬼じゃと鬼やらひ 節子 なやらひの解散「鬼じゃ」の大声で 節子 |
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燃え残った板壁は火除けのお守りとしての信仰があり、皆広場に降りて来て、焦げた板を一枚一枚と拾って帰る。鬼の角も持ち帰る人もいる。真似にて私たちも焦げ板や角を持ち帰る。天神様の山に囲まれた広場で行われる「鬼すべ」は「鬼やらひ」であり「火祭り」でもある。風がなく火の粉が見物客の方まで流れ飛ぶことはなかった。 一年が恙無く過ごせますようにと願いながら会場を後にする。 |
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なやらひの火燃えし木切れ得んとして 真理子 鬼燻の焦げし木端を火除けにと 光子 火祭りを見終えし足の寒さかな 由紀子 |
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真理子さんは翌日の用事のため宿泊なし。あとの三人はホテルにて宿泊。23時までの岩盤浴に辛うじて間に合い、僅かな時間ながらも汗を流す。 翌日朝食後、太宰府駅にて解散。穏やかな一年でありますように!! |
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