吟行記
【平成24年4月号】 
 
第92回 平成24年3月15日(木)
参加者   節子 光子 真理子 由紀子
筑紫神社の粥占(筑紫野市原田)・かえる寺(小郡市)  
 
3月15日、JR直方駅より光子さんと合流して、節子さんお薦めの原田線に乗り込む。平野を走る鹿児島線と違って、両側から山が迫る原田線の二両電車から、芽吹きの山や点在する集落の家々の梅の花や辛夷の木など変化に富んだ景色を眺めながら原田駅に降り立つ。原田(はるだ)は長崎街道の一つなので、その名残はあるだろうとは思っていたが、山間を走ってきたので山の中の小さな駅を想像していた。駅舎は新しく改装され周辺には家も多い。駅前広場からの道には太陽光パネルが設置されていたり、案内板も新しく古いだけの宿場町とは違うようだ。すでに下見をしてくれている節子さんの案内で、筑紫神社まで歩く。今月の吟行はこの神社の「粥占」(かゆうら)。まだ一度も見たことがない。 
 
   
【原田駅と筑紫神社】
 
山迫る肥前街道木の芽風     真理子

積み上げて春椎茸の榾木かな   光子

ボタ山は三角形に山笑ふ       節子 
 
粥を用いて一年の天候や作物の吉凶を占う行事は、かっては全国的に、神社のみならず部落や一族の本家などで共同で行なわれていたとされるが、そのほとんどが行なわれなくなり、神社のみ祭礼として残っている。九州では、北部九州(福岡県、佐賀県、大分県西部)を中心として行なわれているようだ。神社や地域によって仕方が違い、小正月に神にあずき粥を献ずる時に行なわれ、煮え上がった粥の中に棒を入れてかき回し、棒についた米粒の数で占うものもあるという。
この筑紫神社では、2月15日(旧暦小正月)に「粥入れ」といって、粥を炊き、鉢に盛って木箱の中に入れ、封印して神殿に納める神事が行なわれ、一ヵ月後の3月15日早朝、卯の刻(午前6時)に粥を木箱から取り出し、粥の黴の生え具合で作物の豊凶などを占う神事が行なわれる。これは筑紫野市の無形民俗文化財に指定されている。 
 
  
【粥と占いの結果】
 
小正月粥占ひといふ神事     節子

如月の粥占の神事あり       光子
 
駅から10分ほど歩くと大きな鳥居が見えてくる。鳥居を潜ると、注連縄の張られた井戸と池がある。まっすぐ高い石段を上りお参りを済ませる。本殿前の長机に集まっている法被を着た氏子の男性に話を聞きながら、粥占の箱を見せてもらう。
銅製の粥鉢に柳の箸を十文字に置き、仕切られた4箇所にそれぞれ「豊前」「筑前」「筑後」「肥前」の名札が立てられている。粥の黴なので、白いふわふわした所もあるし、黒い点々や黄味がかった所もある。決して美しいものではないが、仕切られた4箇所の黴の生え方が違う。判定結果が紙に書かれて貼っている。全般的に「中の上」と出ていて、風水害も流行病も「なし」「兆しなし」とあり、順位は「筑前」が一位となっている。当るも何とか当らぬも何とかだが、嬉しい結果にほっとする。
境内の小さな小屋では、白いエプロン姿の婦人たちが直会の準備をしている。横のテントにはテーブルと椅子が置かれ、見学者も出来立ての「ぜんざい」を食べるようにすすめてくれる。氏子たちが集まって食事する前のほうがよさそうなので、勧められるまま熱々のぜんざいと漬物とお茶をいただく。 
 
   
【直会の風景】
 
粥占の中の上とや春の風     由紀子

黴の粥つぶさに眺め占ふと    真理子

四菱の神紋法被春祭         節子

粥黴に占ふ吉よ梅の宮       由紀子 
 
巨木で覆われた境内には、「筑前と筑後を合わせて筑紫という・・・」の碑文が立ち、紅梅や枝垂れ梅が咲き残っている。由緒あるこの古い神社は日頃森閑としているだろうが、桜の木が南側に沢山植えられていたので、桜の季節には花見客で賑わいそうだ。今年は寒さで全般的に花の開花が遅れている。桜の花芽もまだまだ固く、しばらく咲きそうにないが、神社の石段を下り、注連縄をしている井戸(この水で米を磨ぎ、粥を炊くらしい)や池の辺りの径にある一本の桜の木に4−5個開いているのを見つける。
初花である。散歩中の初老のご夫婦も立ち止まっている。車の通らない緩やかなその坂径を幼稚園児の集団が楽しそうに保育士と一緒に通り過ぎて行く。 
 
  
【筑紫神社境内】
 
水温む浮葉の茎のゆらぎ見え      光子

園児らになずなはこべらいぬふぐり  節子

山笑う筑前筑後地つづきに        光子 
 
近くの美味しいうどん屋で昼食をすませ、節子さんの車で、如意輪寺・通称「かえる寺」に向かう。この寺は九州を一周する壮大な巡礼霊場「九州八十八ケ所」の三番札所であり、福岡県重要文化財の「如意輪観音立像」をご本尊にすることで有名なお寺だが、 一般的には情報番組で取り上げられる「かえる寺」としての方 が 名前が知られている。そう広くもない境内に約3000体の石像や置物が並んでいるらしい。この時間は私たちのみだったが、立ち寄る人も多いようである。
庭には花木がたくさん植えられ、白い椿が美しい。紫陽花はきれいに剪定され、6月には紫陽花寺のようになるだろう。ただ寺の内も外も「かえる」だらけである。「かえる」という言葉には人を惹きつけるものがあるが、ここまでやるかというほどの「かえる」の置物に商魂の逞しさを覚える。 
 
   
【かえる寺:1】
 
白椿一枝剪りて御仏へ          光子

春埃拭く寺守の声やさし        由紀子

如意宝珠春の景色をさかしまに   真理子

二羽三羽鵲翔ちし春田かな      由紀子 
 
  
【かえる寺:2】
 
小郡市総合保健福祉センター「あすてらす」の広い休憩所の窓際のテーブルにて10句の句会。小郡市は福岡、佐賀の県境であり、福岡県内の筑前、筑後の境でもある。ここまで足を伸ばすとは思わなかったが、どこも初めてのところで、福岡は見所の多いところだと再確認する。「あすてらす」の「満天の湯」という温泉に入り、一日の吟行句会を締めくくる。西鉄大牟田線「三沢駅」まで送ってもらい解散。
 

【句会場「あすてらす」】
 
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