吟行記
【平成24年10月号】 
 
第98回 平成24年9月14日(金)
参加者 節子 光子 真理子 由紀子
 雷山千如寺(糸島市)
 
9月14日金曜日。朝から本降りの雨だが、午後にかけては晴れの天気予報。福岡市営地下鉄室見駅に10時40分集合。雨の室見駅に迎えの真理子さんの車が待っている。さっそく乗り込み、出発する。
福岡市西区から糸島方面は真理子さんの生活圏なので、全ておまかせして車窓の景色に見入る。前回は糸島市の半島を巡る海のコースだったが、今回は福岡県と佐賀県の県境に位置する雷山の中腹にある雷山千如寺(らいざんせんにょじ)を案内してくれる予定になっている。
 室見駅からどこをどう走ったのかわからないが、日向峠と書かれた山道を抜ける。ここで肉屋さんの経営している美味しくて安いと人気の食事処で昼食。ボリューム満点で美味しい。隣の直売所には糸島産の牛、豚、地鶏はもとより、カエル、ウサギ、ヘビなど普通の店頭では見かけない肉も置かれているので、どういう人が買っていくのだろうと思いつつ、もの珍しさで見て回る。周りには稲田や野菜畑や菊畑が広がっている。この辺りの肉、魚、野菜、米は評判がよく、隣接の福岡市などに出荷されている。 
 
  
 
山一つ越えて伊都国稲の秋     由紀子

売物の丈を揃えて畝の菊       由紀子
 
糸島市は、2009年糸島郡志摩町、二丈町、前原市の二町一市が合併して現在に至っている。山海に恵まれた広い面積を持つ風光明媚な土地で、且つ歴史的にも古い。市内各地で縄文時代の土器が発掘されたり、中国の「魏志倭人伝」には、糸島半島に「伊都国」が栄えたという記述もみられるほどで、九州大学の伊都キャンパス移転の折には、遺跡からの出土品が多く、新聞を賑したのも記憶に新しい。歴史を知るほどに魅力が増す糸島である。車は糸島富士と呼ばれる可也山(かやさん)を遠くに見ながら、再び山道を上り始める。 
 

 
吟行地の雷山千如寺は、西暦725年に天竺(てんじく=インド)の僧 清賀上人(せいがしょうにん)が開創したと伝えられている古刹。紅葉のシーズンには大渋滞するらしい寺への道は、この日はすれ違う車も少なく、駐車場にも2−3台で、雨上がりの木々に囲まれている。静かな境内に入る。まず目に入るのが境内の大楓。樹齢400年の楓の大木は添え木に支えられながらこんもりと枝を伸ばしている。この楓の紅葉を目当てに観光客が押し寄せるらしく、テレビにもよく取り上げられる。その映像は見たことがあるが、実際に寺を訪れると、楓も良いが、苔生す庭や回廊が清々しく、京都の山寺を訪れたような気になる。
パンフレットを読むと、奈良時代や平安時代には七堂伽藍が並ぶ荘厳な寺院だったようで、鎌倉時代には木造十一面千手千眼観音像や、清賀上人の座像が奉納され、坊舎も約300もあったらしく、室町時代には現在の聖天堂や心字庭園が造られ、宝暦2年(1752)には福岡藩主の黒田継高公が現在の寺である大悲王院を建立したと書かれている。本堂や回廊を渡った開山堂の中には国指定の重要文化財「木造十一面千手千眼観音像」や「木造清賀上人座像」が安置されている。本堂に座ると見学者のためにお経を唱え、丁寧に寺の説明をしてくれる。4メートルを越す十一面千手千眼観音像に圧倒されながら手を合わせると穏やかな気持ちになっていく。 
 
  
【十一面千手千眼観音像と千如寺案内】 
 
見上げたる千手観音秋の灯に    真理子

三百の坊ありし寺法師蝉       由紀子

鳴きやめば又すぐ次の法師蝉     節子 
 

【開山堂】
 
回廊を上り開山堂の中を見学し濡縁に座る。蝉の声に周りの山々から霧が湧き上がっている。緑の中の五百羅漢や眼下の心字池の様が美しく、皆しばらく座って句を作る。開山堂は国東半島の富貴寺大堂の様式を参考に平成2年に再建されたものらしい。
 
  
【五百羅漢】
 
回廊に立ちこめる霧羅漢にも     光子

霧匂ふ五百羅漢の谷深く      真理子

雷山の開山堂や秋の雨       真理子

雨脚のひまをつくろひ秋の蝉    真理子

県境の山消えて霧湧き上がる   由紀子

霧流れたちまち山の峰又尾      節子

るりとかげ見守る四人四つん這い  節子 
 
  
【千如寺境内】
 
境内を少し散策して次の吟行地へ向かう。山道を下り伊都国歴史博物館や伊都民俗資料館が近くにある「ファームパーク伊都国」へ着く。都市と農村の交流拠点施設ということで、自然と触れ合うイベントが開催される農園や大工仕事のできる「トンカチ館」、あひるや山羊の小屋などがあって、糸島の農業をより多くの人に体験を通して知ってもらう交流の場のようだ。無料開放しているようなので、山羊小屋や農園を見て回る。雨上がりの気持ちのよい風が吹き、近くを流れている川には小魚が泳ぎ、土手には桜の葉がうっすら色づき始めている。
 
なつめの実生りて農小屋人気なく  真理子

鵲の逃げずに枝を移りけり        光子

放たれし山羊食み残すねこじゃらし 由紀子 
 
  
【「ファームパーク伊都国」と周辺の川】
 
句会場は「田園喫茶 ワイルドベリー」。ワイン蔵も備えた洒落た喫茶店で、全面ガラスの窓から稲田の広がりが見えるように椅子が窓に向けられている。句会時には広いテーブル席を使わせてもらい心地よい時間を過ごす。
帰りには、人気のある道の駅「伊都菜彩」で買い物。閉店近くなっていたので商品が少なくなっていたが、糸島産の肉や野菜を少し購入。福岡市西区の地下鉄の駅まで送ってもらい解散。車で案内の真理子さん ありがとうございます。見所の多い吟行でした。 
 
  
【「田園喫茶 ワイルドベリー」】                   【道の駅「伊都菜彩」】
 
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