吟行記
【平成24年11月号】 
 
第99回 平成24年10月12日(金)
参加者 勝利 佳与子 節子 光子 由紀子
響灘ビオトープと若松港(北九州市若松区) 
 
 工業都市・北九州に稀少種の楽園ができた。その名を「響灘ビオトープ」と言う。10月6日に開園したばかりの園には絶滅の恐れがあるとされる動植物も生息している。この辺りは、もとは廃棄物処分場として建設残土や不燃物がれきなどの埋立地としていた場所で、1980年代北九州市が工場などを誘致する計画を立てたが、なかなか進出する企業が決まらず、放置されたままの状態となっていた。その間、埋立地の窪みにたまった水が湿地や淡水池などに変わり、渡り鳥が羽を休め、蘆などの植物が生い茂り、さまざまな生物が生息するようになったらしい。
「ビオトープ」という耳慣れない言葉と開園のテレビニュースの映像に惹かれ、さっそく吟行することに決める。
 

【ネイチャーセンター】
 
10月12日筑豊線若松駅に節子さん、光子さんを迎え、現地入口にて野田夫婦と合流する。11時集合予定にしていたが、初めての場所なのでお互い早目に着き、10時30分にはビオトープに入場する。園の入口には、生息する動植物を紹介する「ネイチャーセンター」があり、パネルや実物を展示している。その中に絶滅危惧種に指定されているベッコウトンボ、チョウヒなどの姿がパネルとともに詳しく説明されている。

係員から首に下げる入場許可札を渡され園内に入る。廃棄物処理の埋立地とは思えぬ湿原に目を見張る。順路に沿って池辺を歩くと一面の芦原に爽やかな秋風が吹き抜けていく。近くの大型風力基がゆっくり回り、鰯雲が一層秋を感じさせる。この辺りは一般の人の立ち入ることのない工業団地で、今も大通りを挟んで東側の工場には大型トラックが往来している。こういう工業団地に、ドーム6個分というかくも広い敷地が放置されたままというのは、北九州市民にとって税金の無駄遣いというものだろうが、企業誘致から大きく計画を変更し、湿地の保全にかじを切ったことは結果的に成功している。開園から一ヶ月で来園者一万人を超す人気ぶりだ。工業都市でありながら環境都市を目指す北九州のシンボルの一つになるだろう。
 
   
【ビオトープ:1】
 
葉に止まりたるとんぼうを見失ひ    佳与子

あらぬ方からも一羽や鳥渡る        節子

いととんぼ沼のほとりの草の上       光子 
 
木道のような見学通路から葦原を覗くと、水面には水馬、水中にはメダカらしい小さな魚が沢山泳いでいる。鳥の鳴き声も、空や葦原から聞こえてくる。野鳥の観察小屋もできている。見晴らし台から広がる葦原が見えるが、半分以上は立ち入り禁止の保護区域になっている。各地で水辺の生物を調べている福岡県立北九州高校「魚部」の部員達が調査に関わっているらしい。九州初の「ババアメンボ」などを発見したり、月に一、二度部員達が湿地に入り、来園者に採取した生物を説明しているという。携帯ばかりいじっている若者が多い中、このような活動に参加しているニュースは喜ばしい。 
 
  
【ビオトープ:2】
 
蘆原の鳥観察ののぞき穴          節子

回復の足取り確と花野行く         光子

蘆原に木道続きいわし雲         由紀子
 

【ビオトープ:3】
 
正午ちかくなったので若松駅近くの商店街に行き昼食。客が入る度太鼓を打つ「赤提灯」の定食を頂く。石炭の積み出しに賑わった時代から寂れたとはいえ、再び若松に活気を取り戻す取り組みがされている。人通りは多いとは言えないが、本町あたりはシャッター通りにはなっていない。

句会場に「旧古河鉱業若松ビル」の部屋を借りたので、洞海湾を臨む海岸通りのデッキ辺りを吟行。潮風と往来の船、若戸大橋など句材は多い。それぞれに「ごんぞう小屋」の中を見学したり、桟橋近くを歩いたりしていると、釣竿を持った男性が一人自転車でやってきた。自転車を立てかけ、直ぐに目の前の海に釣糸を投げ込んでいる。何か釣れている。そばに寄って話しかけると、気さくに応じてくれ、蓋付きのバケツの中の小さな蛸を見せてくれる。知り合いから頼まれて蛸を釣っているらしく、釣れた蛸を売ってこづかい稼ぎをしているという。面白いほどに次々に蛸が釣れる。 
 
   
【食事処「赤提灯」と「ごんぞう小屋」】
 
自転車で来るは蛸つり秋の海        節子

やすやすと蛸釣り上がる秋日和       光子

餌付けぬ糸に蛸獲る秋の晴        由紀子

投げ釣りにすぐ釣れる蛸秋の晴     佳与子

秋空に蛸かかりたる棹撓り          節子 
 
   
【旧古川鉱業ビルと石炭会館】
 
「旧古河鉱業若松ビル」の会議室の一室で句会。隣の会議室から演歌が聞こえてくる。カラオケ教室があっているようだ。北九州市が市民に開放しているので社交ダンス、詩吟、ヨガ等々沢山の倶楽部が登録利用している。光子さんは博多座で海老蔵の舞台を観劇予定で句会には参加せず吟行のみ。「吟行日に海老蔵?」と冷やかに言い放ちつつ、句会にも是非参加したい光子さんの熱意に温かく送り出す。勝利さん、佳与子さんの参加で句会が一段と句会らしくなり、皆の句評などに真摯に向き合ってくれる勝利さんの姿が印象的である。
この吟行句会前、9月30日ー10月1日の「中秋の名月」と「みあれ祭」の見学で再開した佳与子さんの吟行参加は喜ばしいことで、今回のビオトープと港の見学も疲れない程度にと思っていたが、しっかりした足取りで二時間以上歩き回った。

特別に行なわれた「名月とみあれ祭」の吟行句を掲載しておきます。 
 
ゐのこづち太極拳の足に付け        節子

田の境らしき辺りや彼岸花          勝利

友も観てをらんこの月懐かしき       勝利

山の端にうす明かりして無月かな    佳与子

深更の十五夜森に沈まんと        佳与子

雲厚き空十五夜を隠したり          節子

雲少し薄れて円か今日の月        由紀子

神輿乗る二艘の船や浦祭         由紀子

大漁旗なびく船団浦祭            由紀子

七浦の漁船総出や秋祭           佳与子

パンフレット配るも漁師浦祭        佳与子

観覧の席はかもめに浦祭           節子

穏やかな潮に大祭みあれ祭        節子 
 
   
【みあれ祭(他HPより)】
 
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