吟行記
【平成25年6月号】 
 
第106回 平成25年5月16日(木)
水前寺公園・江津湖 (熊本市)
 
昇先生を囲んでの貝寄風吟行句会が、5月17−19日大津で開催された。
九州貝寄風のメンバーは、予定の入っていた勝利さん以外皆大津に駆けつけた。85歳になられた先生のお元気な姿に安堵し、先生と治療中ながらも元気になられた佳与子さんとの再会を喜び合い、そしていつもながらの行き届いた関東貝寄風のお世話に、どっぷり甘えた吟行句会を楽しんだ。
5月は、ゴールデンウィークに加え、この大津吟行があったので、九州貝寄風のみの月例句会は「お休み」。そこで今月の吟行記は、私事で行った熊本の半日を書くことにした。 
 
  
 
5月16日、博多から九州新幹線「つばめ」に乗り込む。2011年3月12日に開通した九州新幹線は、大変な開業イベントだったと思うが、開業前から車輌のデザイン、広さは評判になっていた。この新幹線に乗ることも楽しみにしていた。新大阪と鹿児島間を走行する「みずほ」「さくら」と「つばめ」が走行しているが、「つばめ」は博多発の熊本までの各駅停車。それ故に期間限定の大幅な割引切符があった。名前も「ビックリつばめ」切符。
特急で乗り継いで行くより安い。車内は左右二人、二人のゆったりした椅子、背もたれやドアなどに木材が使われ、車窓のブラインドは「すだれ」のような木材仕様で、全体的に温かみがあり、評判に違わない。所要時間の50分はあっという間に過ぎた。 
 
この日の目的は、市内で開催される「糖尿病学会」に出席の娘の空き時間に付き合うこと。4-5時間の為にわざわざ熊本までとは思ったが、以前より俳人・中村汀女が近くに住んでいたという江津湖を訪れたいと思っていたので、この機会に行ってみようと思い立った。
この日の熊本駅は「学会」関係者らしき人が多く、車も混んでいたが、市電が走っているので乗り込み、まず熊本城を散策。武者返しの城垣、大小二つの天守閣、復元された華麗なる本丸御殿、天守閣からみる広大な城内に圧倒される。さすがに日本三大名城の一つといわれる城である。遠くに阿蘇の山並みが薄々と見える。 
 

【熊本城天守閣よりの遠景】
 
葉桜の城聳えたる武者返し        由紀子

復元の本丸御殿若葉風          由紀子

 天守閣からは陽炎ふ阿蘇五岳      由紀子 
 
気温26度の初夏の日差しの中を歩くには少し疲れたので、タクシーで水前寺公園まで行く。ここは肥後細川藩初代忠利公が鷹狩の折、こんこんと清水の湧くこの地を気に入り御茶屋として作ったのが始まりとされるところで、その後三代にわたって造園され、東海道五十三次を模したみごとな桃山式池泉回遊庭園となっている。元禄時代には東屋が沢山あり、もっと華やかな庭園だったそうだが、宝暦の改革時に松の木のみの質素なものになったとされている。それでもよく手入れのされた阿蘇の湧き水の池を中心にした庭園は見事である。園内にある「出水神社」は、明治11年有志の人達によって、歴代藩主を祀り、西南戦争で荒廃した熊本の復興を願うため建立された神社である。この日は特に行事など無い日だったので、人はまばらである。 
 

【水前寺公園】
 
神社にお参りし、庭園をぐるりと回って江津湖に向う。江津湖は水前寺公園を出て、大通りを挟んだ向かい側に広がっている。川に沿って案内の矢印がある。川底が見えるくらいの流れで、沿うにつれて川幅が広くなっている。水は澄みきり、底の水藻が美しい。市内を流れる白川水系の川である。この辺りは南阿蘇村湧水群として名水百選に選定されている。
川沿いの何でもない景色から急に芭蕉の木が目立ち始め、少し行くと芭蕉ばかりの林の中にいる。南の国に迷い込ん気分になる。句碑を見つける。 
 
   
【江津湖入り口と芭蕉】
 
縦横に 水のながれや 芭蕉林   虚子】
 
この句がここで作句されたと思うと、芭蕉林の中の水が気になるが、湿地帯のように足下がぬかるむので、道になっている所のみを歩く。さらに先に進むと芭蕉林はなくなり、川から急にひろがった湖が現れ、栴檀の花が所々に静かに咲いている。傍の句碑を見れば汀女の句。この句は横浜の三渓園での句とされているが、汀女の代表句である。 
 
とどまれば あたりにふゆる 蜻蛉かな  汀女】 
 
       
【虚子と汀女の句碑】
 
   
【上江津湖】
 
江津湖の傍に汀女が住み、そこに句碑があったといわれる <つゝじ咲く 母の暮しに 加はりし   汀女>の句碑まで辿りつけない。日は傾き、そろそろ帰る時間に近づきつつある。目の前の湖は「上江津湖」で、その先に「下江津湖」が続いている。野鳥や水生植物など見所は多そうだが、芭蕉林と汀女の句碑に満足で、次回ここに来ることがあれば、下江津湖までゆっくりと歩いてみたいものだ。 
 
沿ひ行けば湖にひろごる青芭蕉    由紀子

湧き水の絶えぬ江津湖の芭蕉林   由紀子

栴檀の花や汀女の湖に佇つ      由紀子

対岸へ渡る橋なく夕薄暑        由紀子 
 
市電で熊本駅まで戻り、小旅行を終える。娘も初めてみる芭蕉林には驚き、俳句吟行とは、こういう風によく歩き、自然を満喫するものだと知り、友人たちと行く旅行とは一味違う観光に満足したようだ。また出かけよう。 
 
   
 
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