吟行記
【平成25年9月号】 
 
第109回 平成25年8月1日(木)
参加者  勝利 佳与子 節子 光子 由紀子
若松北海岸(北九州市若松区・芦屋町) 
 

【若松北海岸・夏井ヶ浜:1】
 
 酷暑の続く今年の夏。35度前後は当たりまえのこの頃である。健康上、毎年8月の吟行は、建物の中で長い時間過ごすように計画する。今回は響灘を見渡す若松北海岸を散策し、昼食を済ませてから、我が家でゆっくり作句してもらうことにした。
8月1日、気温34度、晴れ。10時半に若松北海岸の「とと市場」で、野田夫婦と合流する。光子さんは、車で節子さんを駅に迎え、10時前に我が家に到着。三人で集合場所に向う。若松北海岸は、我が家から車で10分。海近くにある「若松ゴルフ倶楽部」までの直線道路が開通し、海に行くのがさらに近くなった。
第三セクターなどでなく、民間会社の「とと市場」は生簀のある市場を中心に、海産物、地元の野菜、草木染め、食事処などが並び、海の見える丘陵地を生かして自然を満喫できる場所だが、冬には客が少ないだろうと思う。開店の頃は、平日でもランチの予約が取れないほどだった食事処「ととや」は閉鎖され、周りの草が伸びている。
車を駐車場に停めて、浜木綿の自生地まで歩く。すでに実になっているものや、白い花の先が茶色になっているものもあるが、遠目でみるとまだまだ美しい。浜辺まで下りていくと、家族連れが二組ほどおり、海水浴を楽しんでいる。
 
  
【若松北海岸・夏井ヶ浜:2】
 
浜木綿に紺碧の海真一文字       由紀子

浜木綿の丘に波音たえまなく        節子

泣き叫びあやされてゐる浮輪の子    節子

磯風に浜木綿匂ひ来ることも        光子

岩礁を見下ろす山の草いきれ        光子
 
この辺りは、海水浴場となっている白砂の続く浜辺と、釣りや海草採りの千畳敷の岩場のある美しい海岸線が弧をなしている。海は岩場や水深の違いからか、所々青い色を少し違えてひろがっている。この海には、何度も来ているが、見飽きない景色である。
ここから車で5分ほどの芦屋町の柏原漁港に行く。小さな漁港だが、岸壁には烏賊釣り用の電球を吊り下げた魚船が所狭しと繋がれている。烏賊釣りを終えた漁港は人気なく波音と蝉の鳴く声ばかりである。堤防に釣りをしたらしい若い男性が二人何やら捌いている。聞けば「鱚」(キス)と言う。手馴れた様子で、小さな鱚を次々に捌いている。 
 

【柏原漁港】
 
トロ箱を積む廃車など浜晩夏     佳与子

雁木打ち上がり砕けて夏の潮      節子

突堤に屈みて鱚を捌きをり       由紀子
 
漁港の突端には二つの小山がある。手前は「堂山」、堤防を隔てて海の中にあるのが「洞山」である。どちらも「どうやま」と呼ばれている。木々の生い茂った堂山の石段を上ると石塔群と延命地蔵堂がある。壇ノ浦の合戦で、芦屋の「山鹿水軍」は平家に味方して敗れさり、その鎮魂のため建てられたらしい。諸説あるが・・・。
海にある洞山は、潮が満ちている時には渡れないが、干潮時には、ごつごつした磯伝いに歩いていくことができる。岩には海草が張り付いているところがあるので、乾いた岩でなければ滑りそうで一歩一歩ゆっくり歩く。船虫がさっと逃げていく。 
 
  
【堂山・柏原漁港】
 
蝉しぐれ漁港にもある鎮守様       光子

烏賊釣のなにがし丸や船溜り       光子

夏潮や平家落人祀られて        由紀子

人気なき漁港真昼の蝉時雨      由紀子

歩き出す足に船虫湧き散れり     由紀子

扇状に逃げて船虫どっと散り      佳与子

船虫のくもの子散らすやうに逃げ   佳与子

水が引くやうに船虫無き行く手
       節子
 
洞は落石の危険性があるので、茶黄色のセメントらしいもので補強されている。近づくほどに人工的で興ざめもするが、洞から見る景色は、玄界灘の荒々しさに焦点が合わさって面白い。同じ海岸線にありながら、白砂に穏やかに打ち寄せる波もあれば、岩礁に打ち付け白い飛沫の波もある。そこが魅力の若松北海岸である。 
 
  
【洞山と海岸】
 
蝉時雨岬の洞に満ち満ちて      勝利

玄海のこれも岩礁夏の潮        光子

岬一つ廻れば荒し夏の潮        光子
 
食事処は我が家の生活圏内の「うるちや」。夜は居酒屋になる掘りごたつ式の食事処で、スイートと飲み物フリーなので、ランチ時は近所の主婦達がちょっと息抜きに寄る場所である。句作。
ランチタイムが終り、我が家へ向う。10句の句会。何の「おもてなし」はできないけれど、たっぷり時間はある。いつものように句評しあって楽しい時間を過ごす。帰りは光子さんに任せて解散。 
 

【洞山】
 
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