吟行記

【平成20年4月号】


第44回 平成20年3月4日(火)

参加者 佳与子 節子 聖子 光子 真理子 由紀子

室見川・愛宕神社(福岡市早良区・西区)

福岡市の副都心・西新の西側に室見川が流れている。室見川と言えば白魚漁。三百年も続く伝統的な漁法は、博多の春の風物詩になっている。この時期毎年のようにローカルニュースで放送されるのだが、スーパーの鮮魚コーナーでビニール袋の水の中で泳ぐ白魚しか見たことがない。こんなに近くで漁をしているのに、白魚漁吟行を思い付かなかったことが不思議なくらいだ。室見川の白魚(素魚)はシラウオ科ではなくハゼ科の別種と歳時記に書いているが、何科であろうと俳句作りには構わない。簗を仕掛けている川の様子を見ることができればよし、実際に簗で漁をしているのを見ることができれば尚よしである。

今年の福岡の冬は大雪が降ったり氷が張るほどではないが寒い日が続いている。先月の節分祭の大雨のこともあるので天気のことが気になっていたが、2日の夜から激しく雨が降り出し、予報でも大荒れの天気が2−3日続くという。予報的中で吟行日の4日も朝から雨。雨と寒さ対策をして博多への電車に乗り込む。10時30分地下鉄室見駅集合。
佳与子・由紀子の乗った電車が事故の影響で少し遅れたが、無事皆と合流。さっそく室見川へと向かう。室見の手前の西新に学生時代住んでいたのだが、地下鉄の開通、都市高速、百道地区の住宅開発など、福岡市でもこの辺りが一番変貌を遂げたのではないだろうか。70年代の室見周辺はのんびりとした住宅街だったのにと思いながら、ビル群の下を見知らぬ街に来たかのように皆に付いていく。すぐに河川敷に着く。簗がある。川の真ん中にきれいに仕掛けられた簗には等間隔に杭が打たれているが、その杭に鴎が一羽ずつとまっている。傘を差しても濡れるほどの雨に人影はない。

  

草青む河畔に雨の強かりき     聖子

手を振れば鴎飛び来る上り簗    節子

対岸に白魚漁の小屋見えて     節子

河川敷は整備され、散歩コースとして絶好な場所だ。木々が植えられ、ユリカモメ、鷺、鴨などの野鳥も多い。博多の良さは、ミニ東京と言われるだけの情報の速さや芸能文化の根が張っていることに加えて、この自然の豊かさが大きい。目の前の川は豊かな水量で博多湾へと注いでいる。橋を渡ると、もう一つ簗が見える。近づいて見ると簗に仕掛けられた籠が皆上げられている。降りしきる雨に漁は休みだろうが、傍の「室見川しろうお組合」と書かれた立て看板のある小屋を覗いてみる。炬燵やストーブ、生活用品が少々置かれている。中に簗番がいる。「シロウオ販売しております」に今日も売ってくれるのかと聞くとオーケーの返事。夜まで大丈夫らしいので、真理子さん、光子さん購入。川の中の生簀から掬い上げ、小屋の中でビニールの袋に酸素を注入にて出来上がり。熟女達に囲まれて一合枡から溢れるほどの白魚を入れてくれる。簗を見るだけと思っていたが、思いがけず実際に捕れた白魚を見ることができたのが嬉しい。白魚といえば「おどりぐい」が有名だが、この河畔にある料亭「とり市」が発祥の店らしい。川に面した部屋から漁を見ることが出来るように専用の小さな簗が仕掛けられている。それらを見ながら白魚の袋を下げて室見川を後にする。

 

引き潮に白魚の籠上げてあり     光子

漁小屋に声かけてみる春炬燵    真理子

漁小屋に番する一人春炬燵      光子

白魚の一日上らぬ漁小屋に      節子

白魚を一合枡で掬いあげ      佳与子

裏返す網の白魚枡に受け      真理子

白魚の袋酸素を吹きこまれ     佳与子

室見川を挟んで区が分かれている。東側が早良区室見、西側が西区愛宕。愛宕神社まで歩いて行く。由緒ある神社で桜の名所でもあるが、境内は愛宕山の頂上にあるので、博多湾、福岡ドーム、タワーなどの景色を見下ろすことができる。若者にも人気の場所になっている。すぐに山の裏手にある食事処「よひら」に行く。170年前の家を釘を使わず移築したものと言うだけあって、大きな梁のある高い天井の店内は温もりがある。お雛様の器の入った籠盛の膳も美味しい。真理子さんがお店の人に頼んで白魚を器に移してもらう。

  

解き放つ白魚鉢に生き生きと    佳与子

白魚の上に白魚跳ねてをり     真理子

白魚の時折目玉光らせて      由紀子

 もう一度愛宕神社本殿まで戻る。境内から博多湾や百道浜の福岡タワーなど市街地を見下ろす。雨は降り止まず、雷も鳴り出したので階段を下りて茶店に入る。茶店の横は鷺などの営巣の森になっていて、番らしい青鷺が何羽も止まっている。室見川から愛宕山に登る時、この森の中を鳥の鳴き声を聞きながら歩いてきたのだが、これほどの鷺がいるとは・・・。時折大きな羽をひろげてゆっくりと飛ぶ。景色は良いが、体が冷え切っている。ストーブに暖をとり、甘酒や愛宕餅で一息入れて句会。

  

博多湾望む神社の春灯         節子

波尖る川に轟き春の雷        真理子

雨の宮下りて茶店の花ミモザ     光子

濡れし靴ぬぎて茶店の春暖炉   真理子

営巣の森育てゐる春の雨      由紀子

雨いつか名残の雪となりて降る    聖子

それぞれに家路につく。雨は場所によって雪だったようで、車を自宅の駐車場に入れるまで雪と格闘した人あり、雪の高速バスで予定時間より長くかかった人あり。各人積もっている雪にびっくり。寒いはずだ。戴いた室見川の白魚は、自宅に持って帰っても生きており、お吸い物と卵とじに。一日の吟行を白魚で美味しく〆ました。


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