名句鑑賞
【平成21年12月号】
 
燦爛と波荒るるなり浮寝鳥 (芝 不器男) 
 
 
冬の水に浮いたまま眠っている鴨やおしどりなどの水鳥のことを浮寝鳥といっております。冬の満月は海をこうこうと照らして、荒れている波を美しくきらめかしているのです。
その荒波に揺られて水鳥が眠っている光景です。静と動の風景が一つになって美しさを倍加しています。月光のさす静かな海でしたら、浮寝鳥から何の感情も伝わってこないでしょうが、荒れている海であるだけに、波に身を任かせている浮寝鳥により、あわれさがわいてくるのではないでしょうか。季語は浮寝鳥(冬)
 
<NHK近代俳句鑑賞 福田 甲子雄> 
 
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<平成21年11月掲載> 
 
踏み込みし水あたたかし十三夜  (伊東月草) 
 
 
十三夜は旧暦九月十三日の夜のこと。八月の十五夜の月に対して「後の月」と呼び、十五夜を芋名月というのに対して、豆名月・栗名月などといって、やはり月見をする。十五夜は中国から伝来の行事だが、十三夜は日本固有のものとされている。醍醐天皇がはじめて月の宴を行われたとも、宇多法皇がとりわけ賞でられたとも言われている。中秋の月よりも空が澄んで、小さく冷たく感じられ、また満月でないところに日本人の美意識をくすぐるものがあるようだ。
この句、後の月を見に出ていて、ふと足を滑らして水の中に踏み込んだところ、冷たいと思った水があたたかく感じられたのだ。十五夜の頃と違った気温と水温のアンバランスが、いかにも十三夜らしいのである。 
 
<出典:NHK俳壇巻頭名句鑑賞 後藤比奈夫 評> 
 
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 <平成21年10月掲載>
 
熱爛の夫にも捨てし夢あらむ (西村和子) 
 
 
 
 結婚して母となり、家事に育児に追いまわされて、こんなはずではなかったのに、と独身時代を懐かしく思ったり、夫へ不満を言ってしまったりします。ある夜、久しぶりでわが家で熱燗の杯を傾けている夫の相手をしながら、ふと知り合った頃の若やいだ夫を思い出し、夫にも自分と同じように捨てた夢があったに違いないと思いやっているという句意です。素直な句柄に若々しさがに匂っています。 
 
<出典:NHK趣味講座 俳句入門 「岡本 眸」 >
 
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