名句鑑賞
【平成22年1~3月号掲載分】
 
【平成22年3月掲載】 
 
春三日月近江は大き闇を持つ(鍵和田 ゆう子)
 
 
『光陰』(平9)◆平成四年作。

近江といえば琵琶湖、大き闇は夜の琵琶湖である。また近江は十一面観音で知られ、歴史の舞台でもあった。この大きな闇は具象の湖であり、歴史をも包み込んだ空間・時間を包む闇。そこへ春三日月は癒しの朧の光を放つ。作者の思いの深さが表出される。対するに<生まざりし身を砂に刺し蜃気楼>と、抽象的でありつつ具体的に生の実感を詠んだものもあり、幅広く骨太の作者の世界である。 
 
【出典:名句鑑賞辞典 西嶋あさ子 評】 
 
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【平成22年2月掲載】 
 
節分の夜も更け鬼気も収まれり ( 相生垣瓜人 )
 
 
 
節分とは四季それぞれの季節の分かれる節目で、立春・立夏・立秋・立冬の前日をいうが、今では一般に立春の前日をさしている。また、この節分は除夜から正月へ移る年の境目と同じように、年の改まる日と考えられ、「年取り」とも呼ばれている。
豆撒きはもともと散米と名づけられた神事の儀礼で、万物に存在する精霊に神社などで米を撒いていたものが民間にうつり、豆撒きにかわったものといわれている。大豆を妙って枡に入れ、神前に供えたあと豆を撒く。昔から、齢の数だけ食べると病気にならないという伝承がある。この日家々の戸口に鰯の頭や柊をさすのは厄除けの風習である。 
 
【出典:NHK趣味百科俳句 「祭、行事の歳時記」 皆川盤水より】
 
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 【平成22年1月掲載】
 
しんしんと雪降る空に鳶の笛  (川端茅舎) 
 
 
茅舎の言語感覚の冴えは、この「鳶の笛」にも見られます。「鳶の笛」というのは、鳶のピーヒョロロというあの鳴き声を、ちょうど笛を吹いているようだと感じてつくられたもので、茅舎の造語です。この句のほかに「麗かや松を離るる鳶の笛」「灌仏や鳶の手笛を吹きならふ」があり、いずれも名品です。茅舎と親交のあった水原秋桜手は、この「鳶の笛」は茅舎の専売特許だからと、自分の弟子達に使うことを禁じ、自分もついに使うことなく終りました。それほど立派な造語であるわけです。
 この句は、雪の降りしきる空から、一筋聞こえてきた鳶の鳴声をとらえたものですが、造語がぴったりきまって、雪の日の淋しい一情景を表出しています。 
 
【出典:NHK近代俳句鑑賞 藤田湘子】 
 
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