名句鑑賞
【平成22年4〜6月号掲載】
 
【平成22年6月掲載】 
 
自ら其の頃となる釣荵 (高浜虚子) 
 
  
 
シノブ草はウラボシ科のシダ植物。葉のみどりが涼しげである。根茎をまるめて軒下につるす。水で濡らしてやって、涼しさを楽しむのである。
夏が過ぎ、秋になると捨ててしまうか、裏の目立だない軒下に移してしまうかするのだが、ときによると一年中、座敷の軒につるされていることがある。片づけよう、片づけようと思うのだが、つい不精してそのままにしてしまう。枯れ色となって軒にぶざまな姿をさらしている。
一年が巡ってきた。夏が来た。釣荵にも緑が萌えた。釣荵の季節となったのである。それが「自ら其頃となる」である。高浜虚子らしい言い方で、他の俳人にはこのような人を食った表現はできないだろう。いい意味においても悪い意味においても、虚子らしい俳句である。

昭和七年六月の作。句集『五百句』収載。
 
【出典:秀句鑑賞十二か月 草間時彦 著】
 
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【平成22年5月掲載】 
 
火を投げし如くに雲や朴の花 (野見山朱鳥 )
 
  
 
「朴の花」は、初夏仰ぎ見る高さに開く花びらの厚い、白く大きな花である。
この句は、背景の夕空に、ちぎれ雲が真っ赤に染まっている様子を「火を投げし如く」と例え、「朴の花」を印象的に描き出している。終戦間もない昭和二十一年二月号「ホトトギス」巻頭句。朱鳥は、この句で俳壇に登場した。 
 
【出典:「NHK俳句」 深見けん二 選 】
 
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 【平成22年4月掲載】
 
太白の語りそめたる初桜    山田弘子
 
 
 
 
平成元年の作。「太白」は金星。しかし太白星と金星では趣を異にする。
太白には天に君臨する趣がある。そして花へさえ綺麗(きら)の言葉を発しはじめる。
遠い時を流れ来る光彩が初花に近づくにしたがって徐々に色彩の移ろいへと変幻する様が美しい。そして作品自体が金色の絵巻物のように展開しながら再び季題に収斂(しゅうれん)する。作者はその物語の中で双方と交感し、響きわたるような瞬きと命とのかかわりは単なる取合せを越えた叙景詩となった。 
 
【出典:名句鑑賞辞典 飯田龍太評】 
 
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