名句鑑賞
【平成23年4月〜6月号掲載】
 
【平成23年6月掲載】 
 
蛍籠昏ければ揺り炎(も)えたたす (橋本多佳子)
    
 
 
蛍籠に蛍を入れておいたのだが、思ったほど明るく点滅しない。作者は思わず籠をゆすってみた。すると、それまでよりも明るく炎えたったのです。事実多くの蛍が動き出すと蛍籠は華やいできます。
この句は、そのような事実の写生にとどまらず、「昏ければ揺り炎(も)えたたす」という表現に、作者のはげしい情熱や意欲、いや生き方そのものを投影されているように思えます。籠に捕らわれ、はかなく点滅する蛍火には、恋情のあやしさがひそみ、蛍の本質を十分に把握している一句です。 
 
【出典:NHK俳壇 季語の生きた名句 鷹羽 狩行 評】 
 
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【平成23年5月掲載】 
 
一身を矢とし翡翠漁れる (山口 速)
    
 
 
宝石の翡翠(ひすい)を思わせる美しい羽をもった鳥で、渓流などで見かける。水中の魚を狙って岩の上や立木の枝から急降下して捕える一瞬を、「一身を矢とし」と表現したのがまことに的確。また「漁れる」と見たところに俳諧味もただよい、翡翠の敏捷な動きが描破された。平成五年作、句集『道しるべ」所収。 
 
【出典:NHK俳壇 「巻頭名句 鑑賞」 鷹羽狩行 】 
 
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【平成23年4月掲載】 
 
駆けのぼるごとくに伸びて今年竹   (宮津明彦) 
 
 
 
筍が伸びて皮を脱ぎ、やがて瑞々しい幹を伸ばし、緑の葉がさやさやと風にそよぐ若竹になる。
筍の成長も早いが、伸び方は一挙にという感じ。そのことを、空に向って「駆けのぼる」と思った。
擬人法が効果的で、今年竹の穂先に広がる夏の青空も見えるようだ。平成七年作。句集「遠樹」所収。 
 
【出典:NHK俳壇 「巻頭名句 鑑賞」 鷹羽狩行 】
 
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