名句鑑賞
【平成24年1月号〜3月号掲載】
 
 【平成24年3月掲載】 
 
春の水岸へ岸へと夕かな (原 石鼎) 
 
 
蕪村句の「春の海ひねもすのたりのたりかな」を想起します。おそらく蕪村の句に学んだものと思われますが、蕪村の一点に集中する春の日永に対して、石鼎の句には万物流転、永劫に運行するものが感じられます。明るさから次第に闇を深めてゆく夕べの変化、岸へ岸へと打ち寄せながら次から次へと移動してゆく水の流れがうたわれています 
 
【出典「近代俳句鑑賞」 原 裕】 
 
【平成24年22012Top     Home月掲載】 

 
 【平成24年2月掲載】 
 
防人の妻恋ふ歌や磯菜摘む  (杉田 久女)
 
 
「筑前博多元寇の防塁跡」という前書があって、六句詠まれている中の一句です。
「磯遊」は春の季語で、磯に生えている色々な磯菜を摘む遊びも含めて、今の「潮干狩」のような春の行事の一つです。吟行か、あるいは子供を連れての気散じの一日か、作者は潮の引いた岩場のあたりに生い茂っている磯菜のたぐいを摘んで遊びながら、その昔、はるかの東国から派遣されてきた防人たちの妻を歌など思い浮かべているのです。万葉集などの古典の読書に親しんでいた頃の、作者の浪漫的な心情が判る素直な句です。 
 
【出典 「近代俳句鑑賞」 中村 苑子】 
 
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 【平成24年1月掲載】
 
しんしんと雪降る空に鳶の笛   (川端 茅舎) 
 
 
 
茅舎の言語感覚の冴えは、この「鳶の笛」に見られます。鳶のピーヒョロロというあの鳴き声を、ちょうど笛を吹いているようだと感じてつくられたもので、茅舎の造語です。
この句のほかに「麗らかや松を離るる鳶の笛」「潅仏や鳶の子笛を吹きならふ」があります。
この句は、雪の降りしきる空から、一筋聞こえてきた鳶の鳴声をとらえたものですが、造語がぴったり決まって、雪の日の淋しい一情景を表出しています。 
 
【出典 「近代俳句鑑賞」  藤田 湘子 】
 
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