名句鑑賞
【平成24年7月〜9月号掲載分】
 
 【平成24年9月掲載】 
   
薄紅葉して常磐木に立ちまじり (清崎敏朗)       
 
 
清崎敏朗(1922-1999)は中学時代に結核性の股関節炎を患い、その療養中に作句を始めたという。15歳であった。俳句は「ホトトギス」「若葉」で学び、慶応大学在学中に大島民雄や楠本憲吉らと「慶大俳句」を創刊、また、「ホトトギス」では新人会を結成するなど若手らしい活躍が目を引く。風生没後の「若葉」を継承したのは昭和54年である。
掲句は、第一句集「安房上総」収録の一句である。実景としては庭園の森、あるいは山腹が想定される。その中のところどころに落葉樹がまじっていて、それらがうっすらと黄ばみ始めているのである。表現のポイントは、「薄紅葉して」とだけ言って、それが何の木であると具体性を持たせないところにある。発想はあくまで写生の目だが、「立ちまじり」の語感には、単純に写生とは言いきれない言葉の勢いがある。 
 
【出典:俳句朝日  廣瀬直人 評】 
 
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 【平成24年8月掲載】 
 
  稲妻のゆたかなる夜も寝べきころ (中村 汀女)
       
 
稲妻は雷鳴を伴う激しい電光ではなく、青白い弱いひかりが、地平線あたりをほかりほかりと染めひかるそれなのです。遠方に起こった雷のひかりで、稲を稔らせるということもいわれます。「ゆたかなる」は、それがしきりに起こることで、作者はかえって楽しんでいるのです。
「寝べきころ」は、そろそろ寝る時間になったという意で、作者の寝惜しむ気持ちが余情として感じとれます。 
 
【出典:NHK学園近代俳句鑑賞 野澤 節子 評】 
 
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 【平成24年7月掲載】
  
炎天を槍のごとくに涼気すぐ (飯田蛇笏)      
 
 
「炎天」は、ぎらぎらする真夏の空を比喩的に捉えた季語です。山から吹き降ろしてきた一陣の涼風の印象でしょうか。自分の頭の上からはるかな空の彼方へ向けて、まるで抜き身の槍の穂先が突き出されたように感じられたのです。比喩による表現は、思いがけなさと同時に実感がないと成功しません。こういう句を見ると、蛇笏が詩的な感性に恵まれた俳人だったことがよくわかります。 
 
【出典:NHK 近代俳句鑑賞 廣瀬直人 評】 
 
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