名句鑑賞
【平成24年10月〜12月号掲載】
 
【平成24年12月掲載】 
 
  大年の東京駅にまぎれをり (今井千鶴子)     
        
 
「大年」は大晦日のことであるが、歳の流れを強く感じる。東京駅は、多くの新幹線の起点で、在来線などを含めると膨大な人の乗降がある。まして大晦日。平明に叙しているが、「大年の東京駅」としたことで、大きな四季の運行の中にまぎれて大晦日を旅人として歩いている感じがして面白い。 
 
【出典 NHK俳句   深見けん二選】 
 
 
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【平成24年11月掲載】 
 
 湯ざめしてすこし早寝の山明り (廣瀬町子)     
        
 
作者は山梨県一宮に住み、住み慣れた山国の夕暮、鴇色(ときいろ)の空の向こうに浮かび上る四囲の山々に愛着をもち、やすらぎを覚えているという。湯に入ったあと、いい気持ちとなりついうっかりと湯ざめをしてしまい、少し早寝をした冬のある夜。その景色が、一層なつかしく思われたというしみじみとした句である。 
 
【NHK俳句 巻頭名句  深見けん二 選】
 
 
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【平成24年10月掲載】 
 
うしろ手に閉めし障子の内と外   (中村苑子)   
        
 
 
現代女流俳人の先達のひとり。この句は、障子が冬の季語と定められていることを確かな実例で示している点に注目したい。季語による冬という定義ではなく、この句の静寂がおのずから示す中身によってである。
障子をうしろ手に閉める。さり気ない動作だ。さり気ないが、しかしふっと自省の軽い後ろめたさ。そこに孤愁がある。かってのたしなみある日々へのおもいも含めて。表現は軽いが、内容には重層したものがあっての作である。 
 
【出典:NHK出版俳句 飯田龍太 評】 
 
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