名句鑑賞
【平成25年4月〜6月号掲載】
 
【平成25年6月号掲載】 
 
鮑海女天に蹠(あうら)をそろへたる   (橋本鶏二)   
          
 
 
 
海女はその文字が示すごとく女性であって、男はもぐるより船で働いています。
鮑は網では獲れませんので、人がもぐって岩から剥がします。一つの鮑を岩から剥がすために、海女は何回ももぐり直します。海女が海中から浮かび上がって来て、海面から顔を出して呼吸をするのですが、そのすぼめた口から出す音はまるで笛の音のようです。これを「磯笛」といいます。
 この句は海女たちの働きぶりを詠んだ句です。海中にもぐる時、海女は体を一回転させ、両足を青空に向けます。肌は汐焼けて褐色になっているでしょうが、足の裏(蹠)までは焼けていません。海女の機敏な動きとともに、空に向けた足の裏の白さにも目を引かれて生まれた句といえます。 
 
【出典 NHK俳壇   鈴木真砂女選】 
 
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【平成25年5月号掲載】 
   
渓流の音に雨添ふ田植かな   (渡辺水巴)       
 
 
 
 
 
 十和田湖旅吟のなかの一句である。特に水巴らしい特色があるというわけではないが、かっては日本のいたるところの山村で見られた農耕風景であった。今も全く無くなったわけではないが、仮に昨今の俳人が目にしたとしても、わびしい姿とだけ印象されて、多分こんな晴れやかな作品は生まれないだろうと思う。特にこの句の「雨添ふ」という表現。この場合、「添ふ」という一語には、待ち望んだ恵みの雨を農家の人達と共々祝福するような明るさがある。 
 
【出典 NHK俳壇  飯田龍太選】 
 
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【平成25年4月号掲載】 
 
春蝉や頂(いただき)を指す道のあり   (深川正一郎)
       
 
 
 
蝉の中で一番早く鳴き出す「松蝉」は「春蝉」ともいう。前山からジーワ、ジーワと鳴き出し、やがてその山を包みこむように鳴き澄む声は、まことに美しい。山道を「頂を指す道のあり」と詠み切ることによって、春蝉の鳴きしきる前山の景と、その声に聞きほれている作者の心持が、よく伝わって来る。 
 
【出典 NHK俳句  深見 けん二選】 
 
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