名句鑑賞
【平成25年7月〜9月号掲載】
 
【平成25年9月掲載】 
 
曼珠沙華どれも腹だし秩父の子  (金子兜太) 
   
 
 
 
この句は金子兜太氏の初期の代表作。いかにも秩父育ちの自然児、兜太氏の産土を彷彿させる一句。秋彼岸の頃、秩父の子はみんな腹を出して遊び回っている。そんな子供たちの群れの中に、幼い頃の自分自身を見出しているのだろう。
<曼珠沙華>と、何の関係もない<子>を組み合わせることで、その子供たちが生き生きと走り回る景がくっきり浮かび上がってくる。意外な取り合わせが効いている。 
 
【出典 サライ10月号】 
 
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【平成25年8月掲載】 
 
水引の紅にふれても露けしや   (山口 青邨 
   
 
 
 
 
「水引」という花は、花というよりも、あの細い針金のような茎の先に細かく紅い粒をつけているものです。花びらをもたないように見える花だけに秋草の感じはありますが、秋の花という感じがしないのが特徴でしょう。そのはかない細い穂先が、あるかなきかの風にそよいでいるのも可憐であります。水引の穂と露の玉。水引のそよぎに露の玉は、はかなく散らされてしまうのですが、美しい秋の風景です。 
 
【出典NHK俳壇  能村登四郎選】
 
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 【平成25年7月掲載】
 
まっくらな海がうしろに切子かな  (草間時彦) 
      
 
 
 
盆に先祖の霊を迎えるために吊るす切子燈籠。火を入れて軒に吊るすと、あたりは逆に暗くなったように思えた。家の背後にはくろぐろと広がる海。その闇は十万億土へつながるようで、重厚な句となっている。
作者の住まいは神奈川県・逗子の海辺。昭和四十三年作。 
 
【出典 NHK俳壇  鷹羽狩行選】 
 
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